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偽物帝の後宮暮らし ~暗殺寸前の帝の影武者になったので、ついでだから後宮改革してみます~  作者: 岡崎マサムネ


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10.坊ちゃんカワイイ!! 那の国いち!!

「こ、紅志勇と申す。この度は騙すような真似をして申し訳ない」


 どう頑張っても可憐の件を問い詰めるのは無理だと諦めて、蘭華は頭を切り替える。


 紅家というのは聞き覚えがあった。

 先帝の頃に攻め入ってきた異国人を追い返したとかで、随分と武勲を上げた家柄だったはず。破格の待遇で褒美を与えられ、今の身分を手に入れた。

 ならばこの女官の言う通り、どちらかというと帝弟よりも今の帝につくほうが自然だ。


 脇に控える燕星にそっと耳打ちした。


「秋の宮……紅家の出身で間違いないんですかね」

「そこの末娘と聞いていたが」

「すえむすめ」


 蘭華が顔を顰める。

 無理があるって。末娘は。

 長女ならいいかって言われたらそういう問題じゃないけども。


 がばりと顔をあげた女官が、後ろでもじもじしていた志勇の背中をぐいぐいと押して、蘭華の前まで来るように促す。


「後宮に潜入するにあたり、坊ちゃまは頑張りました。今まで握っていた刀を扇に持ち替え踊りの稽古、漢詩に和歌に琵琶に琴、お料理に機織りお裁縫、果ては殿方を篭絡する手練手管に至るまで」

「努力の方向性」

「もうどこに出しても恥ずかしくない、自慢の妃でございます!」


 頭痛がしてきた。

 蘭華は額を抑える。

 周りの女官がこの調子で蝶よ花よと褒めそやすから、おそらく誰も指摘できなかったのだ。


 そこじゃない、と。

 もっとやることあるよ、と。

 何なら人選からして間違いだよ、と。


「い、いいんだ……俺は他の妃たちと比べたら身体も大きいし、武骨で美しくない……帝が驚かれるのも当然だ」

「何を仰るんですか坊ちゃま!」

「そうです、あの花嫁修業の日々を思い出して下さいませ!」

「坊ちゃんカワイイ!! 那の国いち!!」

「み、皆……!!」


 女官たちに励まされて瞳を潤ませる志勇。

 仕草だけ取ってみればたいへん可憐であった。大男であることから目を背ければ、だが。


 後宮に潜入するところまでいく前に誰か止める者はいなかったのか、と思うものの、現状の蘭華も似たような状況であるためあまり強くは――いや、さすがにこれよりはマシだよ。


「女と偽ったのは事実。だが俺が帝を守りたいという気持ちだけは本当だ。何卒信じてくだされ」

「あっハイ」


 蘭華が素で返事をすると、頭を下げていた志勇が、がばっと頭を上げた。


「し、信じてくれるのか!」

「イヤー……あの、これでバレないつもりの暗殺者はさすがにいないかなって」

「え?」


 蘭華の言葉に、志勇と、そして周りの女官たちがきょとんと目を瞬く。

 そしてわずかな沈黙ののち、わっと蘭華の元に押し寄せてきた。


「ま、まさか最初から気づいておられたのか!?」

「ハイ」

「さすが帝、すばらしいご慧眼だ!」

「まことにございますね、さすが帝!!」

「…………」


 嬉しくなかった。

 この「さすが」は何も嬉しくなかった。

 というか蘭華はもともと言葉で褒められるより金銭で示される方が嬉しいタイプである。


 大興奮で帝を讃える志勇と女官に、だんだん面倒くさくなってきた蘭華。

 志勇も帝を守るという、蘭華たちと同じ目的でここにいるわけだ。何なら方法も割と似ている。

 もうこの際だから味方に引き込んでしまおうと決断して、蘭華が閉ざしていた口を開く。


「ていうかあのー、私も帝じゃないんで」

「え?」


 志勇を始め、その場の女官たちが全員ぽかんとした顔で蘭華を見た。

 蘭華と燕星も、その反応に「え?」と言いたい気分になる。

 しばしの沈黙ののち、志勇が大声を上げた。


「違うのか!!??」

「何でバレないと思ってたのかが今分かりました」


 やれやれと首を振る蘭華。

 てっきりあの広間に集まった全員に影武者であることはバレていると思ったのだが……そんなことある??


 ある意味で一貫しているとも言える。自分たちもバレていないと思っているし、他人の変装にも気づかない。

 正しいと言えば正しい、のかもしれない。


 だが蘭華はだいぶ紅家の未来を憂いていた。

 大丈夫かな。武力に優れたぽんこつ、一番始末に悪い気がするんだけども。


 上から下までまじまじと蘭華を見ていた志勇が、顎に手を当てて首を捻った。


「確かに帝にしては貧相な身体をしている」


 余計なお世話である。

 育ち盛りの時に食うや食わずの生活をしていたのだから発育がイマイチなのは仕方ない。

 その割に兄の昭可はすくすく縦に成長したわけだが。


 視線にわずかな憐れみを滲ませた志勇が、ぱんと膝を叩いて立ち上がる。


「少し待っていろ、飯の準備をしよう」

「え、あの」

「子どもはたくさん食べるべきだ」


 そう言って、その場に燕星と蘭華を残して女官たちと出て行ってしまう。

 自分は帝よりも年上ですよーと、そう主張する間もなかった蘭華は、しばらく宙に上げかけた腕をふよふよと彷徨わせていた。

 それを見下ろして、燕星が口を開く。


「……誰だ、暗殺者が分かったと言っていたのは」

「もうお役御免だと思ったのに……」

「前向きすぎるだろう」


 がっくりと肩を落とした蘭華に、燕星がため息をついた。

 そううまくはいかないものである。



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