エピローグ
本日更新2話目、エピローグです。まだの方は一つ前の話からどうぞ。
その後。
藍皇帝の叔父とその一味は帝の暗殺を企てたものとして、正式に流刑に処されることになった。
蘭華もこれにてお役御免――かと思いきや、うっかり五百万金に目が眩んで引き受けてしまった仕事として、もうしばらく帝のフリをして後宮に通うことになっていた。
帝のほうもまだまだ後処理が残っており後宮に通う時間が取れないとのことで、その代理だそうだ。
管理といっても、節約は蘭華にとっては実益を兼ねた趣味のようなものだ。これも帝からの褒美だと思って、穏やかな時を過ごしている。
兄からは、一見なんてことのない内容だが横向きに読むととんでもない罵詈雑言が綴られた手紙が届いている。そっと見て見ぬふりをした。
「いいんですかねぇ、こんなにのんびりしてて」
「藍様のお手紙にも書いてあったじゃん。しばらくは後宮を頼むって」
紫雲がにこにこと機嫌よく笑っている。こんなに屈託なく笑う彼は珍しいので、一同少しばかりぞわぞわしていた。
よほど藍皇帝からの手紙が嬉しかったらしい。自分の名前が書いてあったそれを蘭華から奪い取って、ことあるごとに読み返している。先日の謁見の話ももう何十回も聞かされていて、蘭華を始め一同は耳にタコが出来ていた。
志勇は時々宮中に呼び出されて何やら動いているようだが、詳しいことは誰にも話していなかった。夜には後宮に戻って夕飯を作ってくれているので、他の面々も問い詰めることはしていない。
晴暁が一番忙しそうに動き回っているかもしれない。たまに帰ってきては「人間と会話するの、しんどい……」と泣き言を言っていた。今回の暗殺計画に関わった人間を炙り出す際にも、陰陽寮がかなり手を貸したようだ。
「ね。アンタはここから出たらどこに行くわけ?」
不意に尋ねられて、蘭華ははてなと首を傾げた。
しばらくはまだ後宮に留まることになりそうだが……どこも何も、家に帰るに決まっている。
「怖いお兄さんが怒ってるんでしょ」
「うっ」
恐ろしいことを思い出させられた。見て見ぬふりをしているのに現実を思い出させないで欲しいと、蘭華は頭を抱える。
それでも、兄を引きずり出したことを後悔してはいないのだが。
「ウチ来る?」
「え?」
「暗殺稼業だけど、アンタ殺しても死ななそうだし」
「そういうのはちょっと……」
蘭華がすーっと視線を反らした。
一瞬いくら稼げるのか聞いてみようかと思ったが、どう考えても割に合わなさそうだ。
「じゃ、じゃあ、陰陽寮、は?」
「そんな出世街道を走るのは無理ですって」
「蘭華ちゃん、守護霊、ついてるし」
「それは兄さんの生霊なんじゃ……」
ぞっと蘭華の背筋が寒くなる。
兄には化け狐の素養があると常々思っているので、怨霊と化して呪われてもおかしくない気がしてしまった。
「このまま後宮の管理人としてここにいればいいだろう! そうすれば毎日一緒に飯が食えるぞ!」
「どうして志勇さんはずっとここにいるつもりなんですか?」
元気いっぱいに言われて当然の疑問を口にする蘭華。
だが彼は不思議そうに首を捻るばかりだった。何でだよ。有能なんだからもっと取り立ててもらいなよ。
助け舟を求める半分、話題を変える半分で、燕星に話を振る。
「燕星さんは? どうするんです?」
「お前についていく」
「はい?」
「暗殺稼業でも、陰陽寮でも、後宮でも。俺はどこでも構わん」
「暗殺稼業は止めてほしいんですけど!?」
燕星の肩を掴んで揺さぶる蘭華に、紫雲が「稼げるよ」と短く言った。
蘭華の心がわずかに揺れる。稼げるんだ、やっぱり。でも命の危険がある仕事は、しばらくは遠慮したい。
蘭華の様子を見ているだけで、それ以上話す気はなさそうな燕星。
燕星はことが解決して背負っていたものから解放されても、蘭華の傍を離れなかった。
だが、彼には――守るべき家族がいるはずだ。
頭に浮かんだ疑問を、そのまま問いかける。
「お家、戻らなくていいんですか?」
「ああ。父上も兄上も、無事解放されたからな。俺がいなくとも妹を守っていける」
そう答える燕星に、蘭華はますます首を傾げる。
以前話した時には、後宮での暮らしを終わりにしたがっていたのに、どうしたことだろう。
何故どうしてと疑問を顔に浮かべている蘭華を見下ろして、燕星が小さく笑った。
「俺の命はお前に預けたからな」
「何かちょっと違いません?」
「お前に賭けた命だ。全部お前にやる」
「そういうつもりでは言ってないんですけど……」
蘭華が戸惑った様子で視線を反らす。
自分一人の命だってやっと背負っているのに、他人の物まで背負えない、と言うのが蘭華の正直なところである。
「タダでやると言ってるんだ」
「た、タダ……」
「好きだろう、タダ」
「三度の飯より好きですけど……」
いつもの不愛想な顔で詰め寄られる。
そりゃあもらえるならもらっておこうとは思うが……蘭華は戸惑っていた。
でも何ていうか、燕星さんの湿度? 重量? が前と違う感じがするんですけど。
「昭可がお前を殺しに来たら守ってやる」
「それは本当にお願いします」
速攻で手の平を返す蘭華であった。
本当に下手をすると縊り殺されそうだと思っている。守護霊が怨霊でないか、改めてしっかり晴暁に見てもらった方が良いのかもしれない。
「おーい! そろそろ飯にしよう!」
「はーい!!」
「アンタほんと調子いいよね」
志勇の呼びかけに、蘭華は元気に返事をした。
呆れるような視線を向けながらも、紫雲の口元は笑っている。
蘭華の背後を見ながら、晴暁はぽつりと呟いた。
「蘭華ちゃんのお兄さんは……守護霊っていうか……神様みたい、だけどね」
偽物帝の後宮暮らし、これにて完結です!
後宮モノがやりたい! という気持ちだけで始めましたが、やりたかったことを全部やれて満足です。
詳しいあとがきはまた活動報告にUPしようと思いますが、まずは久しぶりの長編を無事に書き終えられてよかったなあの気持ちです。
ブクマ、感想、評価、いいね等での応援ありがとうございました!
それでは、またいつかどこかで。




