75.蘭華にとっては何なら、ここからが本命
今日は2回更新でラストスパートです!
まずは1話目、どうぞよろしくお願いします!
しかし、まだ早い。蘭華にとっての山場はまだまだこれからだ。
「それで帝、そのう」
「うん?」
「燕星は、どうなります?」
「ふむ」
蘭華が遠慮がちに問いかけると、すっかり興味を昭可に移していた帝が、燕星に向き直る。
「燕星よ」
「は」
続けて、帝が燕星を呼んだ。
御簾越しに、帝が柔らかく目を細める。
「大儀であった。妹を大切にするがいい」
「……寛大な御心、感謝申し上げます」
燕星の身体からも、力が抜ける。
それを横目に確認して、蘭華もふっと微笑んだ。
やれやれ、これでやっと一件落着――では、ない。
蘭華にとっては何なら、ここからが本命であった。
蘭華は勢いよく、袖から帳簿とそろばんを取り出す。
「恐れながら藍皇帝!!」
「まだ何か」
「私、後宮にいる間に業務改善と言いますか、構造改革と言いますか。影武者とはいえ帝として何か藍皇帝に還元できる功績など作れないかな~、っと、結構いろいろと効率化に励んでおりまして、その結果としてこれだけの経費削減に成功しており」
「ほう」
「それで、ご褒美なんてもらえちゃったりしたら、影武者として暗殺されかけた私も浮かばれちゃうな~ってぇ」
くねくねと揉み手をしながら言う蘭華。
彼女の後ろでは、燕星と紫雲が呆れた顔をしている。こいつ、本当にここでも金の話をするのか。それが二人の総意であった。
晴暁は困ったように眉を下げ、志勇は分かっているのかいないのか、うんうんと頷いていた。
蘭華が差し出した帳簿を、近くにいた官吏が受け取った。そして帝の元へ近づき、何やら耳打ちする。
「大儀であった。褒美を取らせる」
「い、いかほど!?」
「四百万金だ」
「よっ……」
くらり、と蘭華はその場で倒れそうになる。
頭を殴られるかのような大金の衝撃に――しかし、蘭華は踏みとどまった。
伊達に後宮でやれ何百万だの一億だの十億だのを見てきたわけではない。
もとより守銭奴で金に卑しい蘭華だが――後宮での暮らしを経て、彼女も成長したのだ。
「も、もう一声!!」
蘭華の言葉に、燕星ががたんと音を立てて立ち上がると、一歩前に踏み出した。ここまでくると病気ではないか、と思った。
紫雲は呆れかえった顔で蘭華の後頭部を凝視していた。マジかアイツあり得ない、と仰天していた。
晴暁は苦笑しながらも、そういうところも蘭華ちゃんのいいところだよね、と彼女に穏やかな眼差しを向ける。
志勇はよし、行け! と言わんばかりに拳を握りしめていた。
帝はきょとんとした顔で蘭華を見ていたが――やがて、ふっと噴き出した。
「はは、さすが、余の影武者は肝が据わっておる」
「しゅ、主上?」
「五百万金。これ以上は中将に怒られてしまう」
「ごひゃく、まん……」
くらり。いきなり増やされた百万金に、今度こそ蘭華の目が眩む。
ふらふらと歩み出たかと思うと、養父の隣に平伏する。
「ありがたき、幸せ……」
「よいよい。その代わり、これからも後宮の管理に励むのだぞ」
「ははーっ!!」
帝が朗らかに笑う。全てが、蘭華の計画通りに終わった。それを十分に感じさせる言葉だった。
しばらく感慨を噛み締めてから――蘭華はふと、我に返った。
……あれ?
今藍皇帝、後宮の管理――とか、言いました?




