74.自慢の兄です!! ねっ! お兄ちゃん!!
偽物帝、次回9/19の更新分で最終回です!
9/19は最終話+エピローグの2回更新(の予定)です!
最後までどうぞよろしくお願いします!!
「蘭華―――――!!!!!」
耳をつんざくような声が飛びこんできた。
その声はとんでもないスピードで近づいてきて、あっという間に蘭華たちのすぐ後ろに現れる。
そこにいたのは、志勇。
――とその小脇に抱えられた、蘭華の養父と兄、昭可であった。
叫んでいたのは蘭華の養父であった。彼は到着するや否や志勇から飛び降りると、地面にひれ伏し、床にゴリゴリと額をこすりつける。
「帝!! この度の無礼どうぞどうぞ、お許しください!! 蘭華はまだ十五です、子どもです、何も、何も分かっていないのです、どうかご寛恕を!!」
「は、白殿?」
「もしもお怒りが静まらなければ私の命で償います、腹を斬ります!! ですからどうぞ、蘭華だけは!!」
「????」
帝がまったく事情が読み込めない、と言った顔で首を傾げた。
無理もない。
蘭華は養父に手紙を書いて、それを志勇に託した。
兄の手引きで身を隠している養父を探し出して、手紙を渡させたのだ。
その手紙には、嘘が書かれていた。
帝の影武者として後宮に遣わされたものの、そこで帝に男色の噂を立ててしまって今にも処されそう、と。
恐ろしいことに「処されそう」以外はほぼ事実であった。
それを見た養父は大慌て、唯一の肉親である兄の昭可を連れて帝の御前にはせ参じた、というわけである。
蘭華では兄の意表を突くのは難しい。だが――彼女の養父であれば、兄の予想の斜め上をいけることを、蘭華は経験上よく知っていた。それを最大限に利用した形である。
兄に意趣返しをするためならば、立っている者は親でも使うのだ。
「ほら昭可、お前からもお願いするんだ!」
養父が昭可の頭を掴んで、自分と同じように平伏させる。
その様を見て、蘭華は内心でやったと諸手を上げる。すっと胸がすくような思いがした。
やーい! 土下座させられてやんの! ぷーくすくす!!
貼り付けた胡散臭い笑顔の裏から、昭可の歯ぎしりが聞こえてくるかのようだった。
暗躍が趣味の昭可としても不本意だろう。いい気味だ。
「ほう、そなたが昭可か」
帝が微笑んで、昭可に視線を移す。
昭可の肩がぴくりと震えた。
「そなたの妹から話は聞いた。相当に切れ者らしいな」
「いえいえ、恐れ多いことで」
「はい!! 兄さんはとっても頭が良いんです!! 自慢の兄です!! ねっ! お兄ちゃん!!」
「蘭華……」
昭可が低い声で蘭華を呼んだ。そして帝にはぎりぎり聞こえないくらいの声で、蘭華に向かって吐き捨てる。
「お前、兄を売る気ですか!」
「買い手がついてよかったですね」
蘭華はべっと舌を出した。
そして自分の後ろを振り返る。そこで礼を執っているのは――志勇と、紫雲。そして、へろへろになりながら今広間に到着した、晴暁だった。
これが蘭華の立てた作戦の全貌だ。
失せ物探しが得意な晴暁に、昭可が匿っている養父の居所を探してもらった。
そこに隠密行動が得意な紫雲を潜入させて、養父への手紙を渡してもらった。
そしてそこに屈強な志勇を投入して――兄が逃げる前に、養父と兄を両方抱えて、この場に引きずり出したのである。
蘭華一人では、為しえなかったことだ。
昭可は間違いなく、蘭華が一人で何を企むか、何を仕掛けるか考えるはず。その裏を突いたのだ。
「友達」のいない兄さんには分からないでしょうと、蘭華はそう予想したのだ。果たしてその見込みは、的中する。
操るのでもなく脅すのでもなく、誰かの協力を得ることは――数少ない昭可の苦手分野であった。
「白殿、どうだろう。昭可を余の傍に置くというのは」
「そ、それで蘭華を許していただけるのですか!」
「許す、というのはよく分からぬが……」
「ああ、なんと寛大な御心!! 感謝します! ほら、昭可!! お前もお礼を言いなさい!!」
「……ありがたき、幸せ」
昭可が養父に促されて、奥歯の間から声を絞り出す。
一緒になって頭を下げる養父に、さらにいっそう床に額をめり込まされていた。
その様に、蘭華はやったぞーと叫び出したい気分だった。




