49.「ばか!!」と思うと同時に「やりそう!!」と思った
そんなことを考えながら、蘭華は思考の傍らに話を続けた。
「お兄さん、どんな人なんです? 未婚なら妃の誰かご紹介しますよ」
「……兄は」
燕星の口調がやけに重苦しく、蘭華は思考をやめて燕星の顔を見た。
いつも眉間に皺が寄っていることは多いが――それは蘭華のせいであることも多いが――今の顔は、普段よりも暗く陰っている。
「父と一緒に、投獄されている」
投獄。その言葉に、蘭華はまた目を瞬く。
牢屋に入れられているということは、多くの場合罪を犯したということだ。
この人のよさそうな燕星の家族が、投獄。その二つがあまりしっくりこずに、蘭華は燕星の話の続きを待った。
「先帝の弟がいるだろう」
「はい。帝の叔父さんですよね。帝位を狙って帝を暗殺しようとしているという、噂の」
「そいつと結託して帝を害そうとしていると噂を立てられた」
「……あー」
そこで、蘭華は燕星の事情を察する。
兄に何か弱みを握られているのだろうと思っていたが――弱みどころか。
家全体が御取り潰しの危機だったのだ。
それを脱するための、起死回生の一手。帝を狙う暗殺者を自ら捕えて、その犯人を見つけ出す。
そのために文字通り命を懸けて――この後宮にやってきたのだ。
もちろんそこに至るまでには、蘭華の兄の手引きがあったのだろうが。
「それで、私の護衛に」
「父と兄の潔白を証明するには、これしかないと」
「それは相当崖っぷちですな~」
蘭華が苦笑いする。
考えてみれば、影武者本人である蘭華に命の危険があるのと同じように、それを守ろうとする護衛の燕星にも危険はある。伊達や酔狂では引き受けない仕事だろう。
燕星がここにいる理由。それを垣間見て――合点がいった。
さすがに人が良いだけで引き受けたりしないだろうと、どうせ兄に弱みを握られているのだろうと思ったが、そうか。そういう理由か。
「私と一緒ですね」
「……例の、駆け落ちの件か」
「……そうですそうです。うちの養父も投獄されてるので」
蘭華はへらりと笑って、頭を掻いた。
まだ暗い顔をしている燕星に、蘭華は乾いた笑いを浮かべて言う。
「似た者同士ですね、私たち」
「一緒にするな、父も兄も無罪だ」
「養父さんだって悪気はないですよ」
「その方がたちが悪いだろう」
「そうなんですよねぇ」
そう、悪気はないのだ。
兄からその話を聞いたとき、蘭華は「ばか!!」と思うと同時に「やりそう!!」と思った。蘭華たちの養父は、そういう人間であった。
「あの兄さんをして予想外のことをしでかす人というか、あの兄さんを尻拭いに奔走させられる唯一無二の人材というか。ちょっと一回何らかの罪に問われた方が良いんじゃないかってくらい人が良いのが困り者で……今回実際投獄されて、多少なりとも反省してくれてたらいいんですけどね」
「お前の家族は全員おかしい」
「そういう燕星さんの家族は、きっと全員いい人なんでしょうね」
眉間に皺を寄せる燕星。その表情に、蘭華はふはっと噴き出した。
「本日六組くっつけた実績のある未来のお見合いおばばから、燕星さんに助言を授けましょう」
にーっと笑いながら、蘭華が偉そうに胸を張る。
「燕星さんにはきっと、年上の女性がいいですよ」




