48.誰も「帝様げぇむ」が実在するかどうかなど気にしていない
宴も無事に終わり、隠れ家へと引き上げてきた蘭華と燕星。堅苦しい儀礼用の冠を外して、蘭華はふうと息をついた。冠、頭が蒸れるのである。
「これ六組はくっつけましたよね……私お見合いおばばの才能あるかもしれません」
そう一人ごちる蘭華。
その様子を見ながら、これまでじっと黙っていた燕星が口を開く。
「何だ、あれは」
「あ~、嘘です。あんな遊びほんとは大陸にもないんですけど」
「そうじゃない」
誰も「帝様げぇむ」が実在するかどうかなど気にしていない。
持って帰ってきたくじを蘭華に突き出しながら、燕星が問い詰める。
「何故毎回当たりが引ける」
「このくじ、全部違う紙で作ったんです」
燕星の問いに、蘭華が事も無げに言った。
言われて燕星が紙を手に取って、まじまじと見る。
確かに手に取るとわずかに質感が違う、ような。
少しざらついているもの、滑らかなもの、目が粗いもの。
それは手に取ってよくよく見れば確かに違いがある、気がする、という程度の差だ。むしろそう言われてから眺めても同じにしか見えない物もある。
だが――蘭華にとってはその程度の違いで十分なのだ。
「種類が違うってことは、値段が違います。あとは当たりくじの値段を覚えておくだけですよ」
「……」
「ついでに、どの値段の紙にどの番号を割り振ったかも覚えてますから。目当ての二人を選ぶのも楽勝です!」
「…………」
蘭華がふふんと自慢げに胸を張った。
燕星は思った。それは技術の無駄遣いではないか、と。もっと使い道があるのではないか、と。
関心どころか白けた目をしている燕星に、褒められ待ちをしていた蘭華がズッコケる。
「何ですかその顔」
「いや」
「……もしかして燕星さん、羨ましくなっちゃいました?」
「は?」
蘭華がにやーっと笑みを浮かべて、燕星の顔を覗き込む。
何の話だと燕星が眉間に皺を寄せた。
「燕星さん無口で愛想ないですけど、身元もしっかりしてますし、いい人ですし。どなたか紹介しましょうか?」
「必要ない」
けなしているのか褒めているのか分からない蘭華の台詞に、燕星はやれやれとため息をついた。
妃の紹介をすげなく断られ、ちぇ、と小さく呟いた蘭華が、はっと顔を上げる。
「え。燕星さん、もしや既婚……?」
「だとしたらこんな仕事は断っている」
即答されて「そりゃそうですねぇ」と呟いた。
命がけで偽物の帝の護衛、しかも勤務先は後宮。妻子持ちならやりたくない要素がてんこ盛りだ。特に妻子のない蘭華だってやりたくない。
だが燕星も貴族の男。そろそろ結婚していておかしくない年齢だというのに、必要ないということはないのでは。
「いいんですか、跡継ぎ」
「兄がいるから問題ない」
「お兄さんがいるんですか」
燕星の答えに、蘭華は目をぱちくりと瞬いた。
意外そうな声を出されたのが気になったのだろう、燕星が聞き返す。
「何だ」
「いえ。てっきり燕星さんは、妹か弟がいるのかと思っていたので」
「……何故そう思う」
「うーん。面倒見の良さとかですかねぇ」
蘭華が顎に手を当てながら、考えるような素振りをする。
年下の蘭華に対する態度が手慣れているような気がしたのだが……官吏学校で後輩と接しているうちに養われたものなのだろうか。




