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偽物帝の後宮暮らし ~暗殺寸前の帝の影武者になったので、ついでだから後宮改革してみます~  作者: 岡崎マサムネ


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45.私6割、燕星さん2割、紫雲さんと志勇さんが1割ずつ

 食後の甘味まで食べ終えてお茶を啜った後で、蘭華がそういえば、と紫雲の方を向いた。


「紫雲さん。今日もお化粧の御指南、よろしくお願いします!」

「別にいいけど」


 蘭華の言葉に、紫雲がぱちくりと目を瞬く。


「もう射礼も終わったのにまだやるんだ」

「いえいえ。この後もう一仕事ありますので」


 蘭華がへらりと笑って答える。

 そのもう一仕事が何なのか紫雲には見当がつかなかったが、――紫雲としても憧れの藍皇帝の影武者である以上、変装のクオリティは高いに越したことはない。


 最初の似ても似つかない姿よりも幾分マシになったことだし、これからもそれを維持してもらった方が良いでしょう。相変わらず品のなさは解釈違いだけど、と紫雲は自分を納得させて、蘭華が用意した化粧道具に視線を向けた。


「あれ。それって……」

「ああ、これですか。兄さんからもらったんですけど。お化粧道具じゃなかったです?」

「これ大陸で大流行の髪油じゃない!!」

「へ?」


 蘭華が懐に戻そうとするより早く、紫雲がその瓶をひったくった。

 小ぶりな陶器の瓶には色鮮やかな絵付けが施されている。蘭華も大陸の品だとは思っていたのだが……まさか、そこまで人気の品とは思っていなかった。


「この繊細な紋様に、販売元の印。間違いない。これすっごい高いのに……え、何でこんな野良猫に……」


 まるで捧げ持つようにその瓶を掲げていた紫雲が、蘭華を振り返ってぼそりと呟いた。

 野犬だの野猿だの、毎回ひどい言われようである。


 扱いに少々気分を害しつつも、蘭華は紫雲の言葉が腹落ちしなかった。何故かといえば、紫雲が手にする瓶は……それほどの値打ち物には見えなかったからだ。

 微妙な顔をする蘭華を見て、理解していないからその顔なのだろうと判断したのか、紫雲が説明を付け加える。


「こっちだと髪に油を塗った後で香を焚くでしょ? でもこれはもとから油に香りがついてるんだって!」

「へぇ」

「ねぇ、後でちょっとオレにも貸して」

「あー」


 身を乗り出した紫雲の手から、瓶を取り戻す蘭華。

 瓶をじっくり眺めて――そして、言った。


「たぶんこれ、偽物ですよ」

「は?」

「だって値段が全然、紫雲さんが言うようなものじゃないですし」

「あ。そういや前、値段が分かるとか何とか」


 言ってから、紫雲が蘭華の手元の瓶の栓を抜いた。

 そして顔を近づけて、はたはたと手で仰いで香りを確認する。はらりとぬばたまの黒髪が人房垂れる様子は、完全に美しい女子のそれであった。


「…………確かに、匂いもしないか」


 紫雲も自分なりに確認して、蘭華の言葉に納得したらしい。

 しかしそれはこの髪油が偽物らしいという部分だけで――何故そんなものを蘭華の兄が寄越したのか。それは理解できなかった。


「でも、その瓶は間違いないよ。劣化か何か原因で香りが飛んだだけなんじゃないの?」

「それなら確かに値は下がりますが……劣化した油……何やら嫌がらせの匂いがしますね……」

「いや、兄君がわざわざ持たせてくれたのだろう?」


 化粧の話はちんぷんかんぷんだからという理由でそれまで黙っていた志勇が、突然話に入ってきた。

 蘭華と紫雲としては、そんなことよりも志勇には化粧の方に興味を持ってもらいたかった。――いや、この恵体は化粧ではどうにもならないだろうが。


「もしかして、中に唐辛子が入っているのではないか!? もしもの時はこれを敵に掛けて目つぶしをしろという……」

「まどろっこしー」

「そんなことをやっている間に死ぬぞ」


 志勇がおそらく蘭華の兄のことを非常に好意的に解釈しようとしたものの、紫雲と燕星から手ひどく切り捨てられていた。

 燕星のは私怨だろう。


 蘭華は小瓶を手に取って、軽く揺する。ちゃぽんと中で液体が揺れる音がした。


「まぁ、護身用にはなるんですかね」


 そう一人ごちた後で、蘭華は紫雲の手ほどきを受けながら、藍皇帝としての完成度をいくらか上げて、すっくと立ち上がる。


「さて、行きますか!」

「死にかけたのに。アンタほんと懲りないよね」


 そう呟いた紫雲の顔は呆れたような台詞とは裏腹に、どこか嬉しそうだ。

 座ったままの彼の顔を見下ろして、蘭華はぐっと両手を握る。


「まぁ、落ち込んでいても仕方がないですし、次の手を打ちましょう」

「次の手? アンタをどこか軒下にでも吊るしてみる?」

「ちっちっち、そっちじゃありませんよ紫雲さん」


 紫雲の軽口を、蘭華は指を振って否定する。

 そして瞳を伏せてたっぷりもったいぶった後で、ぱんぱかぱーんと両手を広げた。


「妃の人員削減大作戦の! 次の手です!!」

「………………」


 その場にいる蘭華以外の3人が、沈黙した。

 やがて紫雲が心底呆れかえった様子で口を開く。


「金にがめついのは勝手だけど。一人でやれば?」

「な、何でそんな冷たいこというんですかぁ!! 私たち仲間ですよね!? ね!? うまく行ったら成功報酬はちゃーんと山分けしますから! 私6割、燕星さん2割、紫雲さんと志勇さんが1割ずつでどうでしょう!?」

「中抜きがとんでもないな」


 身振り手振りで大仰に「儲かりますよ!」と示す蘭華。燕星が眉間に皺を寄せて蘭華を見下ろしていた。

 その中で、志勇がそろそろと遠慮がちに手を上げる。


「妃を追い出すのは、その……可哀想じゃないか?」

「いえいえ違いますよ志勇さん。ここにいて通ってくれるか分からない帝を待つよりも、心から愛し愛される殿方と一緒になった方が幸せ。そういうものじゃないですか?」

「た、確かに……!」

「アンタちょっと人を疑った方が良いって」


 あっさり懐柔された志勇に、紫雲がやれやれとため息をついた。

 そして蘭華に向き直ると、じとりと彼女を睨む。


「で? 今度は何を企んでるの?」

「ふっふっふ」


 蘭華はまたもったいぶるように笑ったあとで、ででんと大きく胸を張って宣言する。


「集団合同懇親会。略して合懇(ごうコン)を開催いたします!!」


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