39.「何それ。美しすぎるオレへの罰?」「ソウデスネ」
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久しぶりの新作長編でどきどきしていたので嬉しいです。
更新時間がブレブレでライブ感満載ですが、引き続きあたたかく見守っていただけますと幸いです。
いよいよ射礼の日がやってきた。
事前に何度も特訓しただけあって蘭華の変装の出来がいつもとは桁違いである。これなら部屋の端と端まで離れれば、目を細くしなくても見間違えるくらいには似ていた。
妃たちからも「何か帝今日きりっとしてない?」と囁く声が聞こえてくるほどだ。
当の蘭華は、いつも私はきりっとしてないですか。ぬぼっとしてますかそうですか、と少々気分を害していた。
気を取り直して、射礼の準備が進む月の御殿を見回す。
廂から突き出すように建てられた的が目に入ってきた。反対側の本殿から狙うのだから当然だが、かなり大きい。蘭華が両手を広げたくらいはありそうだ。
蘭華には弓の心得はないが、これくらい大きければまぁ、当たるのだろうか。
そして次に、月の御殿に集った妃たちを見回す。
遠くからでも目を引く美人はもちろんのこと、身長が高い、低い、ふくよか、痩せぎみ、優しそう、気が強そう、武術の心得がある等々、「これは!」と思う妃を選び抜いた精鋭たちだ。
きっと本殿の男たちがどきどきと胸を高鳴らせること間違いなし。
美人を選抜する以上、紫雲を選ばないというわけにはいかなかった。他の妃たちに示しがつかないからである。
だがここで紫雲が目立ってしまうと、この射礼の宴が紫雲の一人勝ちになってしまう恐れがあった。紫雲当人も藍皇帝以外に興味がないので、彼がモテたとて誰も幸せにならない。
そのあたりを鑑みて、出来るだけ向こう岸から目に着かないように、蘭華の傍に控えさせておくという判断になった。
「いいですか、前に出すぎないで下さいね。できるだけこう、ムスッとしててください」
「何それ。美しすぎるオレへの罰?」
「ソウデスネ」
ふぁさっとぬばたまの黒髪を風に靡かせる紫雲。その美しさに妃たちがほうっと息を呑む。そりゃあ、美しいでしょうよ。一億ですもん、一億。蘭華は遠い目をしていた。
紫雲のさらに後ろでは、志勇が箏で見事な音楽を奏でている。
志勇は誘っていないが当然のようについてきた。紫雲とは真逆で、外見以外のすべてにおいて恐るべき能力を発揮していたためか、他の妃たちも咎める様子はない。
だが、こそこそと「やっぱり秋の宮様って、帝のお気に入りなのね」という囁きが聞こえてきたのを、蘭華は聞き逃さなかった。
どうしよう。帝の風評被害が留まるところを知らない。
気を取り直して、向こう側の男たちに目を凝らす。
手紙を出した効果もあるのか、若い男の姿も相当数見受けられる。背が高い男に低い男、がっちり、もっちり、自信がありそう、なさそう、その他諸々。
こちらからでもある程度、背格好や顔つき、立ち姿は視認できた。あちらもそれなりに粒ぞろいである。
帝――のフリをしている蘭華の手前、大きな声ではしゃぐことはしないが、妃たちがこそこそと向こう岸の様子を囁き合う声も聞こえてきた。
いいぞいいぞと、蘭華は内心でほくそ笑む。
見えるということは逆説、向こうからも同じくらいはこちら側の人間の姿かたちが見えているということだ。蘭華は垣間見の成功を確信するとともに、しっかり帝らしく見える化粧をしてもらってよかったと胸を撫でおろした。
人事は尽くした。あとは何組くっつけられるか、天命を待つばかりだ。
兄さんは――まぁ来ないだろう、こういう場には。
蘭華の兄は女にも弓にも、神にも興味がないのである。
どぉん、と太鼓の音が響いた。儀式の開始の合図である。
向こう岸で何やら偉そうな服を着たえらそうなちょび髭が話しているのが聞こえるが、こちら側にはかすかに声が届く程度で、何を話しているかまでは聞き取れない。
おそらく祝詞か何かで大した意味はないのだろうと聞き流す。
どん、ともう一度太鼓が鳴る。
向こう岸の廂の下から人がざっと下がったかと思うと、今度はそこに弓をひっさげた男が五人、横並びに並んだ。
こちら側の的も、五つ。あの五人が順番に的に向けて矢を射るのだ。
もし自分が射手だったら、最初も嫌だけど最後も嫌だな、と思う蘭華。
じゃあどこがいいかと言うと……二番目だろうか。最後に近づくにつれ、失敗した時の取り返しがつかない気がするからだ。




