3.「…………わーぉ」「そんな目で見るな」
※若干の下ネタがあります。苦手な方はご注意ください。
それからあれよあれよという間にことが進んでいった。豪勢な屋敷に連れていかれて、豪勢な服を身につけさせられる。
そりゃあ帝なのだから豪華な服を着て当たり前だが、身につけるものひとつひとつがとんでもない値打ち物ばかりでくらくらした。
うちの領地が収めた税がこんなことに……と思うと非常に腹立たしく、蘭華は奥歯をぎりぎりと噛み締めた。
髪も結い上げて冠をかぶって、見かけは遠目で見れば年若い男子に見えなくもない、という仕上がりになった。
だがやはりどうにも田舎くさいというか垢抜けないというか、有り体に言えば「三下っぽさ」が否めない。
その上遠目ではなく近目で見たらもろにバレてしまうだろう程度の杜撰な出来栄えだ。
これで帝は無理があるって、本当に。こういうの「服に着られてる」っていうんじゃないのか。
「偽者なんだからもっと適当でいいんじゃ……」
「帝なのですからきちんとしたものを着ていただかないと」
女官にぴしゃりと言われて、蘭華はため息をついた。
慣れた手つきで蘭華を着替えさせた女官たちが素早く部屋から出ていったかと思うと、すぐに外から訪問を告げる声がする。
訳もわからずに蘭華が返事をすると、女官に連れられた一人の男が廊下に控えていた。
背が高く、がっしりとした身体つきの男だ。年のころは、五つ上の兄と同じくらいだろう。
足音を立てずに部屋に入ってくるその身のこなしには無駄がなく、ただの文官ではないことが蘭華にも分かった。
鋭い視線を向けられ、蘭華は思わず身構える。
男は腰に刀を佩いて突っ立ったまま、愛想のない表情で言う。
「後宮での護衛を担当する、燕星だ。よろしく頼む」
男――燕星の言葉に目を瞬く。
後宮という場所はその性質上、男の出入りが厳しく制限されている。運営する官吏も全員女性が採用されるという徹底っぷりだ。
そんな後宮に赴くというのに、護衛が男……ということは。
蘭華の視線がすーっと下がっていって、男の身体の一点に留まる。
蘭華がどう問いかけたものかと迷っているうちに、男が口を開いた。
「宦官ではない」
「あ、そうなんですね」
そう返事をして頷いて、また蘭華は黙った。
彼の国ではそういった「手術」を受けた男が後宮を管理していると聞いていたが、この国ではあまり主流ではない。
それは蘭華も知っていた。
だが、それならば。
「ええと……じゃあ、どうして後宮に入れるんですか?」
年頃の女子である蘭華には非常に聞きづらい質問である。
しかし今回は年頃の青年である燕星にとっても説明しづらい内容だったらしい。
わずかに視線を泳がせたのち、重苦しく口を開いた。
「……つけている」
「つけ?」
「つけているから問題ない」
「な、何を?」
燕星が苛立った様子で、蘭華に耳打ちする。
蘭華は両手で口元を覆った。
なるほど、ソレがアレしないように、金属の型を嵌めて、さらに鍵を。
つまるところ、物理的に悪さが出来ないようにしているわけである。
世の中にはそんなものまであるのかと、蘭華の視線はついつい該当の代物がある場所に向けられた。
「…………わーぉ」
「そんな目で見るな」
「いえ、あの、いいと思います。趣味は人それぞれですから」
「好きでやっているわけではない」
燕星が額を押さえてため息をついた。
後宮に入るには仕方ないとはいえ……そんなものを着用するくらいだから、多少は……ね。
育ちの良くない蘭華は、世の中にどれほどの変態が溢れているのかについて、それなりに理解があった。
一点を見つめたままの蘭華に、燕星がもう一度ため息をつく。
「立場上やむを得ず、だ」
「あー……はい」
そういうことにしておいた方がよさそうだと判断して、蘭華は適当に相槌を打った。




