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偽物帝の後宮暮らし ~暗殺寸前の帝の影武者になったので、ついでだから後宮改革してみます~  作者: 岡崎マサムネ


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34.あとアンタの女装マジで無理!!!!

「やー、うまくいってよかったですねぇ」

「当たり前だろ。このオレがここまでしたんだから」


 その日の夕方。どんどんと集まってくる制服の申請に蘭華がほくほくしていると、そこに紫雲が現れた。その姿を見て、蘭華がぱっと立ち上がる。


「紫雲さん! ありがとうございます!」

「別に。もう付き合わねぇからな」

「そんなことおっしゃらず」


 蘭華が両手をすりすり揉み手に合わせてにっこり笑うが、紫雲はそれを鼻で笑って躱した。

 予想通りの反応だったのか、懐を温めるためならそんなもの屁でもないのか。

 特に気にした様子もなく、蘭華がぐふふと声を漏らす。


「これで初月の導入費はさておき、月あたり五十万金は費用が浮きますからね。二年も続ければ初期費用を回収してお釣りがきますよ!!」

「ふは、悪い顔」


 蘭華の顔を見て噴き出す紫雲。

 人の顔を見て笑うとは失礼な、とそれには少々機嫌を損ねた蘭華だが、ふと思いついたように言う。


「そうだ、祝賀会をしましょう!」

「祝賀会?」

「紫雲さんが一番の功労者ですから! おいしいものをご馳走しますよ!」

「……ふぅん」


 大げさに「任せてください」と自分の胸を拳で叩く蘭華。

 妙に自信ありげなその姿に、またふっと笑みが漏れる。それが何となく悔しく思えて、そっぽを向きながらぶっきらぼうに返事をした。


「ま、行ってあげてもいーけど」

「よし! そうと決まれば行きますよ!」

「え」


 蘭華が紫雲の手を取って、歩き出す。その後ろを燕星が黙ってついてきた。


 紫雲は戸惑っていた。

 誰かに手を引かれて歩くなど、記憶にある限り経験したことがない。


 目の前をずんずんと歩いていく小さな背中を、不思議な気持ちで見つめる。

 自分の手を握った蘭華の小さな手がなんとなくむず痒く感じられて、妙に落ち着かない。


 だがここは後宮。自分は春の宮で、蘭華はたいへん遺憾ながら帝だ。

 振り払うことも出来ず、出来るだけ淑やかに蘭華に歩調を合わせてついていった。


 最初はどこに行くのだろうかと思っていたが、行き先が近づいてくるにつれてだんだんとその眉間に皺が寄っていく。


「おお帝、どうした!」

「ご飯食べにきました!!」

「そうかそうか! 今日はいい海老が入っているぞ!」

「やったー!!」

「ねぇ」


 両手を上げて歩き出そうとした蘭華の襟首を、紫雲が掴んだ。

 勢い余って蘭華から「ぐえっ」と縁起でもない音がする。


「何で秋の宮に来てるわけ」

「おお、春の宮も一緒か! 海老は好きか!?」


 機嫌良くまだ生きている海老の入った籠を見せびらかす志勇の問いかけを、紫雲が黙殺した。

 首元を整えながら蘭華が見上げると、紫雲はその美しい柳眉をこれでもかと寄せて不機嫌を露わにしている。


 蘭華は紫雲が何故そのように不満げな顔をしているのか分からず、しばし彼の顔をじっと見つめた。

 見てもそのかんばせが一億金の代物であることしかわからなかったので、とりあえず何故ここに来たのかと言う問いかけに答えることにする。


「聞いてください紫雲さん。ここのご飯すごくおいしいんです!」

「飯の話はしてない」

「帝は細いからなぁ! たくさん食べて大きくなれよ!」


 志勇が蘭華の背をばしばしと叩いた。蘭華が勢い余ってちょっと宙に浮くくらいの力だ。

 明らかに帝に対する妃の態度でないことは分かる。

 美貌をものすごく忌々しげに歪めている紫雲を見て、はっと蘭華は気が付いた。


「安心してください。実は秋の宮は男の方でして」

「見たら分かる」

「何!? 俺の変装を見破るとは、春の宮も勘がいいんだな!!」

「ねぇコイツちょっと黙らせて」


 紫雲が志勇の顔を見ようともせず、奥歯から絞り出すように言った。

 それに少ししょんぼりとした顔をしながらも、志勇が厨に引っ込んでいく。

 その背を見送りながら、蘭華が説明を続けた。


「秋の宮――紅志勇さんも、帝を守るために後宮に潜入されたそうで。なので私たちはみんな、帝を守る仲間なんですよ」

「……った」

「へ?」

「オレだけっていったくせに!!」


 蘭華の両頬を片手でぎゅっと掴んで、紫雲が蘭華に詰め寄る。

 額がぶつかりそうな距離に、蘭華はぱちぱちと目を瞬いた。


「お前、何が『正体がバレたのは紫雲さんだけ』って?! 他の奴にもバラしてんじゃねーか!!」

「はぁ、バレたのは紫雲さんが初めてですから」

「じゃあアイツは何で知ってんだよ!?」

「私からバラしました」

「は?」

「ちょっと……圧が強くて……そうでもしないと話にならなかったので……」


 蘭華の言葉に、紫雲が「あー……」と小さく漏らした。どうやら想像がついたらしい。

 蘭華の頬を握っていた手から力が抜ける。その手を取って、蘭華が紫雲の顔を見上げた。


「紫雲さんが初めてですよ。私が帝じゃないって気づいたのは」

「……そーかよ」

「はい。そのくらい藍皇帝のことが好きなんだって、私、ちゃんと分かってますから」


 にこりと微笑む蘭華に、紫雲は気まずそうに目を反らした。

 ……反らした視線の先に、志勇が立っていた。それも超至近距離に。


「飯が出来たぞ!!」

「近いって!! あとアンタの女装マジで無理!!!!」



 ◯ ◯ ◯



「うっっっっま…………」

「そうでしょうそうでしょう!!」

「まだまだあるからな! 好きなだけお代わりしてくれ!!」


 渋々と言った様子で食事に手を付けた紫雲だったが、あまりの飯のうまさに言葉を失っていた。

 何故か蘭華が自慢げに鼻息を荒くしている。その隣では燕星が無心で海老を齧っていた。


「え嘘でしょ……うますぎるんだけど……こんな時間に米食べたら太るのに止まらない」

「志勇さん、春の宮――紫雲さんも私たちと同じ、帝を守る隊の一員なんですよ!」

「死ぬほどダサい隊に入れないで」

「そうなのか! 春の宮は女子の身で大変な任務を背負っているのだな!!」

「オレ男だけど」

「何!!?? そんなに華奢で美しいのにか!!??」

「美的感覚おかしい奴に褒められてもな……」


 そう言いながらも、紫雲はまんざらでもなさそうに味噌汁を啜った。

 海老の出汁がよく出ていてこれもとんでもなくうまい。


「ちなみに俺も男だ!!」

「知ってる」

「見たら分かります」


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