33.え~ほんとかわいい~似合う~
蘭華の声を合図に、大広間に一人の妃が入ってきた。
その姿に、一同息を呑む。
最も位の高い紫の唐衣を一番上に、涼しげな白や浅黄の着物を重ねている。裳も普段の正装と比べてやや短く、取り回しをしやすくなっていた。
見た目も爽やかでありながら、光沢と細やかな模様のある生地が質の良さを感じさせており、色遣いにも安っぽさがない。
そして何より――制服を着用しているのが、とても美しい妃だった。
すらりと長く白い首が生かされ、華奢な体つきが分かるようなやわらかな立ち姿。扇を持つ指先の細さも目を引く。それでいて頬はふっくらと桜色に色づき、長い睫毛が悩ましげに伏せられた目元を紅とともに彩っている。
ほう、と広間に恍惚のため息が溢れた。
「どう!? 綺麗でしょ!!」
その妃の隣に並んで、蘭華はえへんと胸を張る。
だが誰一人、蘭華のことなど見ていなかった。隣の妃が恥ずかしそうにそっと視線を外す様があまりに悩ましく、みなそちらに夢中であった。
その様子をちらりと確認して、蘭華はほくそ笑む。
男は綺麗な女が好きだ。
そして女だって、綺麗な女は好きなものである。
多くの女が美しい着物や宝飾品が好きなのだから、当たり前だ。
美しいものには感動し、憧れる。これは人間の本能みたいなものだろう。蘭華はそう考えていた。
「え~ほんとかわいい~似合う~てか肌白いとやっぱ映えるね~いみじいみじ~」
調子よく褒めそやしたところで、妃が袖で隠しながらも蘭華の脇を扇の柄でつつく。
ちらりと視線を向けると、「オレが美しいのは当たり前だろ」と低い声が降ってきた。
にやりと笑っているその口元に、蘭華もへらりと笑って応じる。
そして再び妃たちに向き直った。
「この制服は、こちらの春の宮が余と一緒に考えてくれました! 女性を美しく見せながら、窮屈にしない仕組みや温度調節しやすい仕組みが盛りだくさんの! 超機能的な制服!」
そう、これこそが蘭華の作戦だった。
最も美しく身分の高い妃である春の宮が作った制服を、春の宮が魅力的に着こなす。
これ以上に女性の心を掴む方法はないと、蘭華は確信していた。
そして最後に一押し、畳みかける。
「し・か・も。こちらの着物、特注品です! 後宮にいる間しか着られません。ここから出ていったら二度と! 着る機会はないわけですね!!」
今だけ。限定。
その言葉に、妃たちの瞳の色が変わる。
人間心理として、この言葉には弱いものだ。
そしてこの制度がきちんと運用されれば、後宮の制服を身に着けていることは他者から見ても一種の社会的地位の表れになる。
若くて美しく、高い身分と教養に恵まれた女性しか入ることを許されない場所……蘭華のような下級の貴族なぞでは女官としてすら潜り込めない後宮に属していた証になるのだ。
ここまでくればもう、「身に着けた方が得」というより、「身に着けない方が損」だと、そう思わせることが出来るはずだ。
蘭華は手応えを感じてぐっと拳を握る。
ていうかそもそも「くれる」って言うならもらえるものはもらった方が得だしね。
私だったら後宮出たら速攻で売るけど。そういう需要もありそう。中古市場開拓まで見込めるとは、もう金の匂いしかしない。
ぐふ、とこぼれそうになる笑みをにっこり笑顔に変えて、蘭華が広間の妃たちを見回した。
「と、いうわけで。制服、みんな着てみたいよね!」
誰も反対しない、どころか――早く着てみたいと囁き合う声すら聞こえてくる。
こうして後宮に、制服制度が導入されたのであった。




