32.皆のお金は余のお金というか
数日後、蘭華はまた妃たちを大広間に集めていた。
前回の楽団と踊り子の件で、妃たちの間には「またか」半分「今度は何を言い出すんだ」半分の空気が漂い始めている。
その妃たちを前に、蘭華がさっとひと揃えの着物を取り出した。
「余、制服作っちゃった~!」
ぱんぱかぱーん、と着物を皆に披露する蘭華。
皆おしとやかな貴族子女、誰も言葉は発していないが――「はい????」という顔をしていた。
「妃の皆が豪華なお着物着て余のこと迎えてくれるのは嬉しいよ? 毎回違う着物選んでくれたり、季節の柄取り入れたりとかね? ちゃんと見てますよ帝は」
うんうんとわざとらしく大きく頷いて見せる蘭華。
嘘ではない、ちゃんと見ている。
主に値段を。
「でもほら、毎回毎回仕立てるのってやっぱり大変だし、その度にみんなのご実家とか領民には負担をかけてるわけで。余は皆の帝だけど、皆あっての余というか、民あっての余というか。お金あっての余というか、皆のお金は余のお金というか」
つらつら立て板に水を流すがごとく話す蘭華。
賢い妃は怪訝そうな表情をし、そうでない妃は不思議とすらすら耳を滑っていくその声に、何だかよく分からないけど帝は私たちのことを考えてくれているんだなぁという気分になっていった。
「それにほら、こういう競争ってどんどん過熱して暴走しがちだし、持続可能な後宮とはなんたるかをね、考えていきたいわけです帝的には。そこで余、考えました」
ぱちん、と手を叩いた蘭華。
再度、先ほどの着物を広げて皆に見せる。
「皆で同じ服を着ればいいんだ、と!!」
「み、皆、同じ……?」
ざわざわとざわめきが広がる。
女官は区別のために同じ着物を着用しているが、妃は完全に自由だった。ざわめきの中には困惑や、あまり肯定的でない反応も見て取れる。
多少の反発があるのは蘭華にとっては想定内である。
一つ一つ懸念事項を潰すように、蘭華は指折り数えて説明していく。
「基本的には位で色と装飾を分ける。この辺は男性の狩衣と一緒だよね」
まずは男性貴族と同じ仕組みであることを強調する。
ここで、属性によって色や位が固定されることへは文句を言わせない布石を打った。
「で、それは一番上の着物だけで、中の着物は統一。もちろん重ね着する中に持ち込んだ着物を着て工夫したり、装飾品を足したりしてもいいけど、後宮から支給するのは同じものにする」
次に装飾品や重ね着の自由度を説明し、これまでに用意した装飾品や着物が無駄にならないことを伝える。
これは効果があったようで、あからさまに安心した顔をする妃もいた。
これまでは襦袢などは後宮で支給していたけど、それも妃によって好みがあったり着物に合わせて作り直したりとかなりの支出になっていた。ここが統一出来るだけでもかなり担当女官の業務負担が改善される。
業務負担が改善されるとどうなるかと言うと……他の業務に手が回るようになる。人員の有効活用だ。
そしてさらにうまくいけば、人員削減に繋がる。
基本的に後宮の財政の多くを占めているのは人件費である。そこが圧縮できる可能性があるなら多少の反発、いくらでも押し通そうというのが蘭華の考えだった。
「さらに夏用と冬用で生地を別にして作成して、季節が変わったら衣替え。おしゃれは我慢と根性って言うけど、やっぱり夏は涼しい恰好、冬はあったかい恰好が自然だし」
ざわめきがどよめきに変わった。
蘭華は心の中で頷く。
もうすぐ夏が来る。
暑いよね、十二単。
ただでさえでも重く動きにくいのに、その上夏の暑さとくれば正直に言って着たくない、というのが本音だろう。
そこを突いて、快適さを目の前にぶら下げて見せる。
「大きさは大・中・小、童用の四種類から選んで、基本は帯で調整。ただ極端に体の大きさに合わない場合は申請の上別途相談ってことで。まずは希望の大きさを選んでもらうために、実物の見本を持って係の女官が御殿を回るから、全員ちゃんと回答してね」
蘭華がそう締めくくる。だが、妃たちの中にはまだ戸惑いの色が濃いように見えた。
皆の表情を見回して、蘭華がわざとらしく首を傾げる。
「あれ~? みんな帝が作った服着たくない?? 余、夜なべして考えたのに?? もしかして帝の美的感覚をお疑いですかぁ〜??」
「い、いえ、そんな!」
「そういうわけでは、」
「ただ少し、驚いて……」
口々に否定とも肯定ともつかない言葉をこぼす妃たち。
それを見て、蘭華は腕を組んでうんうんと首を縦に振る。
「そうだよね。着てない布見ただけだと分かんないよね。そこで、今日は見本をご用意しました!」
「え?」
「お願いしま~す!!」




