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偽物帝の後宮暮らし ~暗殺寸前の帝の影武者になったので、ついでだから後宮改革してみます~  作者: 岡崎マサムネ


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30.「兄さんと類友!」「おい撤回しろ」

 翌朝。

 げっそりとした蘭華は、のそのそと本殿に向かって歩いていた。


 疲労でげっそりとしているものの、そのかんばせは昨日よりも何故かつやつやきらきら、美しい。

 化粧ってすごい、と蘭華は身をもって知ることになっていた。眉はおろか目の形まで変えるのはなかなか修羅の道だった。

 後ろに控える燕星に対して悪態をつく。


「すぐ来るっていったくせに!!」

「はしゃいでるようにしか聞こえなかったからな」

「お、鬼! 悪鬼羅刹!!」


 蘭華の罵倒にもどこ吹く風といった様子の燕星。

 蘭華の身を案じて屏風の裏まで駆け付けて、いつでも切り捨てられるように構えていたというのに、これである。冷たいやらやさしいやら分からない。

 響いていない様子の燕星に、蘭華がべっと舌を出した。


「兄さんと類友!」

「おい撤回しろ」


 先ほどのすまし顔が嘘のような表情で頭をぐりぐりと小突かれた。

 蘭華は燕星の拳から逃れようとじたばたと暴れる。頭を小突かれると髪が乱れる。乱れると紫雲に怒られる。


 蘭華の脳裏に昨日の地獄絵図がよぎった。あれだけ「藍様」講座をたっぷり聞かされたのに、その後でさっそく髪が乱れた状態でうろついていたのを見つかったら、今度は何時間缶詰にされるか分かったものではない。

 時は金なり。そんなものに付き合わされるのは御免であった。


「紫雲さん、ずいぶん藍皇帝のことが好きみたいでしたね」

「そのようだな」

「着物や化粧の再現まで。きっと帝のことだけじゃなくて、お洒落も好き……」


 そこまで言って、はたと思い至った。

 そうか。紫雲は見目も掛け値なしに麗しいし、化粧や着物にも一家言ありそうだった。

 これはいい人材を見つけたのでは。


 そう思うや否や、蘭華は来た道を引き返して春の宮に舞い戻った。


「紫雲さん!!」

「何」

「私、妃の制服を作りたいんです!」

「は?」


 紫雲の目の前まで来て正座をする蘭華。

 その顔を、紫雲は「何言ってんだこいつ」という表情で見つめている。

 走って追いかけてきた燕星も同じ顔で蘭華の後頭部を見下ろしていた。


 蘭華はかくかくしかじか、緊縮財政予算削減、反物屋に大口注文する代わりに限界値引き、継続注文確約の中間マージン確保で懐ホクホク、その他諸々の説明をして、ぱちんと両手を合わせて頭を下げる。


「紫雲さんにしか任せられないんです、どうかご協力ください!」

「イヤ」


 蘭華のお願いを、紫雲がばっさりと断った。

 ふいと顔を背けて頬杖を突き、気だるそうに言う。


「何でオレがそんなこと」

「昨日の手腕を見て確信しました。あの美しい藍皇帝に心酔されるくらいですから、紫雲さんの美的感覚はそれはもう間違いありません。私が偽物だって気づいたのも、この後宮で紫雲さんが()()()ですし」


 ぴくり。

 紫雲の耳が動いた。

 ぎゅっと目を瞑って頭を下げたままで、蘭華は話し続ける。


「化粧や着物に関する知識や、色の合わせ方も。この後宮内で()()理解が深いのは紫雲さんだと思うんです」

「それは、そうかもしれないけど」


 紫雲がちらりと蘭華に視線を向ける。

 蘭華は今にも土下座しそうな勢いで、両手を合わせたままで言う。


「そして春の宮という地位に、紫雲さん自身の美貌。きっとそんな方が作った制服なら、妃の皆さんも喜んで着てくださるはず!! こんな逸材は紫雲さんしかいないんです!! そしてこれが上手くいけば私もうっはうはのがっぽがっぽの左団扇!」


 ばっと、蘭華が顔を上げた。

 ぎゅっと両手を握りしめて、そして紫雲の瞳をまっすぐに見る。


「だから一緒に!! 後宮の制服を作りましょう!!」


 その勢いに押されて、気づくと紫雲は頷いていた。


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