29.紫雲の紫雲による紫雲のための藍様講座
大変申し訳ありません、昨晩寝落ちてしまいました……
ということで今日は朝と夜に更新します、どうぞよろしくお願いします。
紫雲が小さく頷きながら、ゆっくりと蘭華に向き直る。
その目は先ほどまでとは違い、しっかりと蘭華を見ている。
蘭華は交渉に手ごたえを感じた。今度はちゃんと話が通じた、気がする。
「それは確かに一理あるけど」
「ですよね!」
「オレはアンタみたいのを藍様として扱うなんて御免だから」
「ですよ、え?」
にっこりと、紫雲が笑った。
男だとか女だとか、そんなものはとっくに超越しているような――両側の口角が見事に対称に上がった、うつくしい笑顔だ。
その笑顔のままで、紫雲ががっしと蘭華の肩を――着物を掴む。
「せめて藍様の一億分の一でも美しくなってからにして」
「はい?」
「はい脱げ」
「ぎゃー!!??」
むっしと、まるで無花果の皮でも向くようにひん剥かれて、蘭華は咄嗟に悲鳴を上げた。
もちろん帝らしくたっぷり着こんでいるので、多少剥かれたところで肌が見えるようなものではないが、だからといって剥かれてよいものでもない。
というかここまで剝かれたらほとんど下着である。
両手で胸元を隠しながら、蘭華が必死で抗議する。
「な、なな、何を!!??」
「着物の着こなしも化粧もなってないから。そのくらいちゃんとして」
「だ、だだだ、だからって脱がします!?」
「は? ……あー」
顔を赤くして喚く蘭華。一応うら若き乙女としては当然の怒りであった。
それをきょとんとした顔で見ていた紫雲は、ふとその胸元に視線を落とし――そして、「はんっ」と嘲笑する。
蘭華は知った。美人に鼻で笑われることの屈辱を。
「ごめん、貧相すぎて気づかなかった」
「失礼すぎる!!」
「野鼠に興味ないから安心して」
「失礼がすぎる!!!!」
憤慨する蘭華を横目に、紫雲は化粧道具が入った箱を引き寄せて何やら吟味をし始めた。
まったく聞いていない。
その様子にもう我慢ならないと、蘭華が屏風の向こう側に向かって叫ぶ。
「燕星さん!! 出番です燕星さーん!!」
が、燕星はそこにはいなかった。
あれ、さっきまでいたのに、と視線を彷徨わせると、寝所の出口に向かってすたすたと歩いていた。
そしてちらりと蘭華を振り向くと、やれやれとため息をついて言う。
「済んだら呼べ」
「今!!!! 今が助ける時ですよ!!!!」
「小腹が空いた。何かつまんでくる」
「護衛より小腹を優先しないでください!!!!」
「はいアンタはこっち」
護衛の任務をほっぽりだそうとする燕星とごちゃごちゃ問答しているうちに、準備を終えた紫雲に首根っこを掴まれる。
そこから紫雲の紫雲による紫雲のための――そう、決して蘭華のためではない――藍様講座が始まり、あっという間に夜が明けたのだった。




