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偽物帝の後宮暮らし ~暗殺寸前の帝の影武者になったので、ついでだから後宮改革してみます~  作者: 岡崎マサムネ


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28.解釈違いなんだけど!!!!!!!!

「本物の藍様はどこで何してる」


 その言葉を、蘭華は脳内で反芻する。

 藍皇帝を「藍様」と呼んでいること、やたらと詳しく見ている様子、それから並べ立てられた賛辞。

 そしてこの脅しの意図。


 蘭華は脳内で一つの仮説を立てた。

 この男も――自分や志勇と同じなのでは、と。


「藍様に何かあったら、ただじゃ置かない」


 どこか苦しそうにすら見える表情でそう吐き捨てた男に、蘭華は確信した。

 やはりこの男は、藍皇帝を案じている。

 それならばと、唇を舐めて声を絞り出した。


「確かに私は影武者です」


 蘭華の声は落ち着いている。

 いや、努めて落ち着いた声を出そうとしていた。


 孤児の育ちだ。力では到底かなわない相手から殴られたり、首を絞められたり、殺されそうになったり。そんな経験も一度や二度ではない。

 その経験が、今、この状況であっても――蘭華を冷静にさせていた。


 まっすぐに男の顔を見ながら、言う。


「ですが、私をここに遣わせたのは――藍皇帝本人です」

「は、?」


 男が目を見開いた。

 ここまでで初めて見る顔だ。

 蘭華の手首を押さえつけていた腕の力が緩む。

 その機を逃さず、蘭華はさっと布団の上で男から距離を取った。


「じゃあなに」


 男はわなわなと唇を震わせて、まるで――独り言のように言う。

 ゆらりと立ち上がってこちらを見る姿は、まるで幽霊のようだった。


「藍様は、アンタが藍様の影武者やるの、認めてるってこと」

「え? はい」

「か、」

「か?」

「解釈違いなんだけど!!!!!!!!」


 男が叫んだ。

 近くにいた蘭華の鼓膜がびりびりと揺れるほどの声だった。


 蘭華の背後の屏風から顔を出した燕星も、何事かという顔をしていた。

 どうやら蘭華の身を案じてそこまで近寄って来ていたらしい。

 ぽかんとしている二人のことなどお構いなしで、男は美しい黒髪を振り乱して地団太を踏んでいる。


「ゆ、許せない!! こんな、美意識低い野犬が!!」

「野犬!?」

「藍様のお墨付きだなんて!! 嫌、無理、絶対無理、受け入れらんない!!」


 苛立ちに任せて枕を放り投げたり屏風を蹴倒したりと大暴れする男。ふーふーと肩で息をしている。

 しばらくその様子を眺めていたが、やがて蘭華がおずおずと声を掛けた。


「あのー、春の宮、さん?」

「紫雲」

「紫雲、さん」


 短く告げられたそれを名前だと判断して、蘭華は呼びかける。

 蘭華は経験則として知っていた。

 相手を説得したければ――名前を呼ぶものだと。


「紫雲さん。利害が一致してると思いませんか?」

「なに?」

「知ってのとおり、藍皇帝は今命の危機にあります。それを守るために私は影武者として命を受けました」


 自分の胸を手で叩きながら、紫雲の顔を見上げる。

 紫雲は首だけで振り向いて、蘭華の方を見ていた。


「紫雲さんも、そうなんですよね? きっと誰かの命令で、――そして、紫雲さんの意志で。藍皇帝を守るために、ここに来た」

「……それが、何?」

「私が影武者でいる限り、帝は少なくとも後宮内では安全です。そして……紫雲さんは私が殺されようとどうなろうと関係ない」


 ぴくり、と蘭華の背後で、燕星が動いた。

 こういうこと言うとまた怒られそうだなぁと思いながらも、蘭華は言葉を続ける。

 後で燕星に怒られるよりも、今この場を穏便に乗り切る方が大切だ。


「私を囮にして藍様を守れるなら、安いものじゃありませんか」

「……ふぅん」

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