24.ずいぶんと山吹色した新時代だな
蘭華の背後で「いい加減にしろ」を顔面に貼り付けて彼女のつむじを見下ろしていた燕星は、広間から出るや蘭華の首根っこをむんずと掴んで持ち上げる。
「おい、何企んでる」
「ふっふっふ……射礼の宴には殿方も後宮に来るじゃありませんか」
蘭華はにやりと笑って、人差し指をピンと立てた。
後宮は男子禁制。だが射礼の宴のときだけは、集まった貴族の男たちも向かいの御殿から後宮の様子を垣間見ることができる。
目ぼしい貴族の娘が後宮に集められてしまっているこのタイミングでは、男たちは射礼の折にしかまともに女子と出会う手立てがない。
きっと血眼になって美しい娘を探し、何とかして下賜されるようにと祈ることだろう。
蘭華の狙いはそこだった。
人差し指を燕星の鼻先に突きつけて、言う。
「射礼で殿方に投票券を配るんです」
「投票券?」
「『上手だった子とか応援したい子に投票してね』って。射礼は三ヶ月に一回ありますから。一年で四回の投票を経て、上位五名を決めるわけです」
「その五人を新嘗祭に出すわけか」
燕星の言葉に、蘭華が頷く。
なるほど、どうやって上位を決めるのか、帝の独断かと思っていたら、一応公平性のあるやり方を考えていたわけか。そうして切磋琢磨させるという考え自体は悪くない。
燕星がそう感心していると、蘭華が言葉を続ける。
「で、射礼の時には投票券をおまけにつけた扇や羽織を売るわけです」
「は?」
「お金の匂いがしますね、燕星さん」
ふふふ、と悪い笑みを浮かべていた。
そこで燕星は思い出す。
そうだ。こいつは後宮から妃を減らして、支出を減らして――あわよくば金まで稼ごうとしているんだった。
「人間、五人組くらいだとね、興味ないな~ってなっちゃうんですよ」
「何の話だ」
「それが四十六人もいるとね。『この中で一番好みの子は誰かな』って思考になるんです」
「何の話だ?」
「それで自分の応援してる子に『応援ありがとうございます!』って言われたら、誰でも嬉しくないですか?」
燕星が押し黙った。
多少なりとも思い当たる節があったのだろう。そう、人間心理と言うのはそういうものだ。
「その上その子が檜舞台に立てるって言うなら――ちょっとくらいお金使っても、応援しちゃうんですよねぇ。人間って」
蘭華の目は爛々と輝いていて、確かにこちらを見ているはずなのに――どこか、未来を見据えているような。
来たるべきそのときのことが、まるで見てきたかのように頭に浮かんでいるような、そんな生き生きとした表情をしていた。
「射礼でのお披露目が済んだら、本物の帝に頼んでどこか常設で公演が出来る機会を設けてもらうのが一番いいですね。貴族って山ほど儀式やってるんですからもう一つくらい捻じ込めるでしょう」
ぐふぐふと笑う蘭華の首根っこを離して、床に下ろしてやる。
呆れたように彼女を見下ろして、燕星はやれやれと首を振る。
ダメだこれは。筋金入りの守銭奴だ。
「もう後宮が金食い虫と呼ばれる時代は終わったんです」
えっへんと蘭華が胸を張る。
時代も何も、後宮を金食い虫と呼んでいるのは蘭華だけである。
「これからは! 後宮が!! 自分でお金を稼ぐ時代!! 見えますか燕星さん!! これが新時代の幕開けです!!」
自信たっぷりに言う蘭華を前に、燕星がため息の代わりに呟いた。
「ずいぶんと山吹色した新時代だな」




