23.四十人くらいの女子を一堂に集めて踊らせるのが流行っている
さっそく巡業のために後宮を後にする妃たちを見送った、翌日。
また広間に妃たちを集めて、蘭華が言う。
「余、舞が見たいな~」
昨日とほぼ同じ流れで、皆がこの後の展開を察した。
蘭華の目くばせを受けて、燕星が苦々しさを隠しもせずに言う。
「と、帝が仰せだ」
「はいッ!!」
さすがに予習済みだけあって、昨日よりも素早く準備が進んで、踊りが得意な妃たちが集められる。
惜しくも楽団の選出からは漏れた妃たちが演奏する雅楽に合わせて、舞踊が始まった。
その中でひときわ踊りの上手い妃――秋の宮こと志勇を視界からはじき出す。
舞踊まで段違いとか、やはり紅家で貴族子女向けの講座とかを開いたら大変儲かるのでは。金の匂いがする。否、金の匂いしかしない。
志勇以外の妃を眺めて、吟味する。
これも音楽と同じだ。今まで見てきたもの、価値の高いものとの整合性から採点して、価値を算出していく。
だが――舞踊は楽器ほどはずば抜けた人材がいなかった。
とはいえそこは後宮、そもそもの技術は皆十分なものを持っている。粒ぞろいで、甲乙つけがたい。
むしろこうして大勢で踊っている様子を見る方が一体感があっておおっと圧倒されるものがある。
じっくり舞踊に見入っていた蘭華が、はたと気が付いた。
なるほど、これは。
ここにいる「すべて」を組み合わせた時が――もっとも、価値が高くなるのか。
「燕星。新嘗祭の舞姫って、普通五人とかだっけ」
「毎年四、五人選ばれるものだったかと」
「五ってさ……少なくない?」
「は??」
唐突に何を言い始めるのだと、燕星が素に近い反応を返した。
それを無視して、蘭華は広間に向かって両手を広げた。
「余、たくさんの女子が踊ってるのが好きかも~!」
「え、そ、そうですか?」
「今年の新嘗祭はこれでいこ!」
「は!!??」
燕星が蘭華の口をがばりと手のひらで覆って、自分の身体ごと後ろを向く。
あまりの早業に、妃たちには何が起きたかよく見えていなかった。
妃たちに悟られないように自分の身体で蘭華を覆い隠しながら、燕星は低くドスの利いた声で詰め寄る。
「どういうつもりだ」
「噂によると海の向こうの島国では、四十人くらいの女子を一堂に集めて踊らせるのが流行っているとか……いないとか」
「いないんじゃないか」
「今四十六人くらいいるみたいなんで、このまま集めて躍らせてみましょうよ」
「出来るわけあるか」
歴史と伝統のある祭りだぞ、と小声で怒鳴る燕星に、蘭華は首を傾げる。
蘭華は神を信じていない。その歴史と伝統とやらがある祭事に対しても、金の匂いがする催し事という程度の、貴族にあるまじき認識を持っていた。
だが、普段口数の少ない燕星がこれほど言うのだからと、一度思考してみる。
新嘗祭。五穀豊穣国家泰平、そのあたりを祈念したり神に感謝したりする、宮中祭祀の中でももっとも大きな祭だ。
今年取れた新米をお供えして帝が食べて……という儀礼的なものもあるが、貴族がもっぱら注目しているのが5人の舞姫による舞踊の奉納である。
これに選ばれるかどうかでその後の嫁入り先、ひいては家の未来までかかってくるような一大イベント。
その従来の新嘗祭の形式を重視するなら……たとえば。
「余、良いこと思いついた」
「帝?」
「この四十六人から、選抜された上位五人が新嘗祭の舞台に立てるということにしよう」
「帝!!??」
女官たちがざわざわとざわめき始める。
燕星が鬼の形相で蘭華を見ているが、一度口に出した言葉は引っ込められない。
「今度射礼の宴あるじゃん? その時にさ、まず一回みんなで踊ってみてさ。そこで上手だったり人気だったりした子が本番で踊れる、ってことで」
「そ、それなら、まぁ……」
「ある意味平等、でしょうか」
「きちんと練習すれば、評価されるということですものね」
妃たちの間には、予想していたよりもずっと肯定的に受け入れられている。
おろおろしている女官たちと般若の燕星を無視して、蘭華はぱちんと手を打った。
「じゃあ決まり、ってことで! みんな、練習頑張ろうね!」
「はいっ!!」
にっこり笑って言った蘭華に、妃たちが元気に返事をした。




