21.全帝が泣く的な~??
翌日、大広間に妃たちを集めて、帝に扮した蘭華が言う。
「余、楽器の演奏聞きたいかも~」
しん、とその場が静まり返る。
「なんか~すっごい雅で? いとやんごとなし的な?? 全帝が泣く的な~?? そういう演奏聞いたら余、メロメロになっちゃうかもな~??」
蘭華がちらりと燕星に視線を向けた。燕星は蘭華にだけ分かる程度に「面倒くさ」という顔をしてから、しかつめらしく妃たちに命じた。
「と、帝が仰せだ」
「は、はいッ!!」
大慌てで楽器の演奏が得意な妃たちが集まった。
箏や笙をはじめとして、様々な楽器が広間に並べられる。
特に事前に練習をしたわけでもないが、そこは腕に覚えのある者たち。少し言葉を交わして確認をしたのみで、帝を迎える祝いの場に相応しい艶やかな曲の合奏が始まった。
「……」
なかなか聞くことのない、大編成の雅楽。
蘭華は黙って、音に耳を澄ませる。
蘭華には芸術は分からない。芸術に感動するような感受性というものはそもそも持ち合わせていなかった。
だが蘭華には、値打ちが分かる。
これは感性ではない。ただの技術だ。これまでに聞いてきた音楽、それに対する世間の評価。
それをただただ数値化して、金銭に換算する。
頭の中でそろばんを弾いて、値打ちを見出す。それにはほんの瞬きほどの時間があれば、十分であった。
一人での値打ちが最も高いのは秋の宮、志勇であった。
完全に頭一つ抜けているのが分かる。だが何故彼が嬉々として演奏に参加しているのかの理由は分からない。貴方は黙って座ってていいんですよ。
雅楽まで極めてるとか紅家の花嫁修業どうなってるんだよ、と蘭華は胸の内で突っ込みを入れた。
その花嫁教育を事業化すれば相当儲けられるのでは。紅家の女官との渡りを志勇に頼むべきだろうか。
志勇のことはさておいて――他の妃たちの価値に目を向ける。
そしてそれを、掛け合わせる。
複数の演奏者を、どのように組み合わせるとどのような結果になるのか。
それを頭の中で割り出していく。
互いの価値を削ってしまう組み合わせもあれば、その逆。組み合わせることで何倍もの値打ちを生み出す組み合わせもまた、存在していた。
すべては、経験則。
蘭華がこれまでの人生で見聞きした物事、触れてきた社会の裏表、――そして兄に叩き込まれた知識。それらを総動員して導き出したものだ。
蘭華はまだ年若い。だが、だからこそ――蘭華はこの試行錯誤を、楽しめる。
間違っていたとて、やり直せばいい。どん底を味わったことのある蘭華にとって、今ここで失敗することなど恐れることではなかった。
だからこそ――挑戦できる。
曲が終わったところで、蘭華はにこりとほほ笑んで、妃たちに言った。
「そこの、琵琶の左から二番目、箏の右端、それから左端の笙と、篳篥、前に」
呼ばれた妃たちが、一歩ずつ前に歩み出てくる。
蘭華はにこにこと人懐っこい笑顔を浮かべて、妃たちの顔を見回した。
「いいねいいね、キミたち輝いてるね、良い波来てるね!!」
妃たちは戸惑っている様子もあったが、どことなく誇らしげだ。自分の演奏には自信があるのだろう。
彼女たちにびしりと両手の人差し指を突きつけて、蘭華は言う。
「キミたち、楽団組んじゃいなよ☆」
「へ?」
「そんで国内巡業しちゃいなよ☆」
「え?」




