19.「兄さんの真似です」「二度とやるな」
帳簿から大方の犯人を予想した蘭華と燕星が女官たちのところを訪れると、すでに該当の女官たちは顔面蒼白で平伏していた。
帳簿を見られた時点で覚悟をしていたのだろう。そのくらいに偽装工作が杜撰なものだった。
当然黒幕は彼女たちではない。
後宮に出入りしていた修繕担当の職人から、家族に良いものを食わせたいだろうと唆されて――一回だけのつもりが、今度はそれをネタに「次も協力しなければバラす。後宮にいられなくなるぞ」と脅されたのだ。
そこからは職人たちの言いなりになって、どんどんと盗むものの量や価格が嵩んでいき、今。と、そういう事情であった。
さめざめと泣く女官たちを見て、この女官たちを摘発しても根本解決には至らないと判断した蘭華と燕星。
もちろん実行犯である女官たちもお咎めなしと言うわけにはいかないが――元を絶たなければならない。
相手も馬鹿ではない。現行犯で、言い逃れのできない状況で抑える必要がある。
それには荷を運び出した瞬間を抑えるのでは弱い。どこの家に運び込むのかまで確定した状態で捕えなければ、あれこれと理由をつけて罪を逃れようとする可能性があった。
そういう理由で、蘭華自らが荷車に忍び込むに至ったのであった。
予想通り、犯人は建物修繕の職人を派遣している商家の者だった。
資材を運ぶフリをして空の荷車を後宮に運び込み、仕入れた余分な反物や衣料品を載せる。そして昼間に簡単な修繕だけ済ませ、まだ途中だからと荷車を置いて帰る。
寝静まった頃に裏口から荷車を回収していたというわけだ。
「再発防止策が必要ですね」
「犯人は捕まったんだ、もういいだろう。大人しく影武者をしていろ」
「どうせ命がけなんですから、私のお金を一銭でも多く回収しないと!」
「…………」
燕星が藍花の顔をじとりと睨む。
今回の一件で燕星にとって蘭華の「命がけ」が冗談でも何でもないことが分かってしまったからである。
金のためなら命捨てそう、と、そう思われていた。
「関わった女官は減俸、降格。商家は廃業。十分だと思うが」
「『はっはー、人間って学習しないですよね。ほんと救えない』」
「…………」
「兄さんの真似です」
「二度とやるな」
ひどく冷たい声を出された。
蘭華自身もあまり兄の真似を多用するつもりはなかった。何故なら真似をしているうちにだんだん似てきたら嫌すぎるからだ。
「そこで、考えたんです」
「何をだ」
「まず、後宮と取引したいという商人を集めます」
蘭華がどこから持ってきたのやら、じゃらじゃらと碁石を床に広げた。
それをいくつかの山に分ける。
「それぞれ得意分野があるでしょうから、自分たちが卸したい品物と、その価格をそれぞれ示してもらって――一番安い値段を提示したところと契約すると決めてしまいます」
碁石の山一つにつき、一つの碁石を選び出し、それを山の頂点に置いていく。
燕星はその手元をじっと覗き込んでいた。
「たとえば絹織物はここ、海産物はここ、と。そして決めたところには、後宮御用達の認定印を押した証書を渡します」
碁石の横に、銅貨を並べていく蘭華。これが証書の代わりらしい。
燕星がふと、蘭華の顔に視線を向ける。
真剣な表情で碁石を弄っているが、その瞳は爛々と輝いているように見えた。
「そうすると、その商家は後宮御用達、帝や妃のお墨付きを名乗ることが出来るわけです。きっと他の貴族もこぞってその商人と取引したがるでしょう」
銅貨と碁石を一緒に、ぎゅーんと上に持ち上げる蘭華。
そしてその碁石を、山の中の他の色の碁石と交換する。
「認定印は毎年更新して、年ごとにどの商人と契約するかは値段や仕事の質によって変更していきます。いくら安くても必要十分な仕事をしてもらえないのでは意味がないですからね。次の年も契約を取りたければ手は抜けないわけです」
まるで立て板に水を流すように、つらつらとよどみなく話す蘭華。その声は、少しだけ弾んでいる。
燕星はついつい蘭華の顔をじっと見つめてしまう。
どこか浮ついた様子は、新しい玩具にはしゃぐ子どもとさして変わりなかった。




