14.余の命令なのに~?? 主命なのに~??
「あんなに皮目がぱりっとして身がふわっとした干物は初めてでした……」
「本当に遠慮なく食べると思わなかった」
「残したら罰が当たりますよ」
「お代わりしていたが」
「白米おいしい」
翌朝。
朝食をたらふく食べてから、蘭華と燕星は太陽殿に向かって歩いていた。
少々無理をして胃袋に詰め込んだが、今後いつあのようなご馳走にありつけるか分からないのだ。蘭華には食べないという選択肢はなかった。
歩くと廊下が軋んで小さな音が鳴る。
その音に合わせて満腹のお腹を摩りながら廊下を進むと、妃たちと何度もすれ違った。
妃たちは立ち止まって、お辞儀をして蘭華たちを見送る。その様子をちらちらと確認して、蘭華が小声で燕星に話しかけた。
「燕星さん燕星さん」
「何だ」
「皆さんすんごい着飾ってません?」
「それは後宮だからな。当たり前だろう」
燕星がこともなげに言う。
確かに初めて帝が後宮に渡ったとあって、一種の祭りと言うか、一番盛り上がっている状態であることは間違いないだろう。
妃たちが少しでも帝の目に留まろうと気合を入れているのも自然なことだ。
だが――物の値段が分かってしまう蘭華には、はっきり言って目に毒であった。
綾絹の唐衣、八十五万金。真珠の髪飾り、六十万金。錦の着物、百万金。
ってことはあの妃一人で総額二百四十五万金、そこに本体価格を足したら、三百万金……
「あれが全部税金から出てると思うとくらくらしてきました……」
「妃や妃の着物は大抵持ち込みだ」
「え?」
「女官は制服だが」
がつんと頭を殴られるような衝撃を受ける蘭華。
あ、あれ? 後宮って国家予算の五分の一がつぎ込まれてる、とかって話じゃなかったっけ。
てっきりこの見るからにきらきらしい着物や装飾品に予算が割かれているからだと思っていた。それはもう湯水のようにじゃぶじゃぶと公金が投入されているのだと思っていた。
だが……着物も装飾品も、後宮の予算から出ていないとすれば。
「後宮に来る妃は皆家を背負っている。家の力を示すためにも力を入れるところだろう。……まぁ、出所は各々の領地で収められた税ということには変わりないが」
「……燕星さん」
脇に控える妃を見ながら、蘭華にだけ聞こえるかどうかといった声で呟く燕星。
その横顔を見上げて、蘭華は言った。
「後宮の出納帳って、見られます?」
○ ○ ○
「というわけで帝が出納帳を見たいと仰せだ」
「は、はい!?」
蘭華と燕星は、さっそく予算管理を担当する女官たちのところへとやってきた。
いきなり帝が現れて、女官たちは騒然としている。その様子になど構わずに、蘭華は袖口からそろばんを取り出してじゃらじゃらと振った。
「余、計算の練習したいんだ~! 数字はトモダチ! 怖くないよ!」
にこにこと人懐っこい笑みを浮かべながら、蘭華が女官たちに歩み寄る。
お願いお願い、と下から見上げてのおねだりも忘れない。
さっと女官たちが気まずそうに目をそらした。
「み、帝にお見せするようなものでは」
「え~?? 見せられないの~?? 余の命令なのに~?? 主命なのに~??」
蘭華が首を傾げながら、顔を背けた女官の前に回り込んでその顔を覗き込む。
順番に女官たちの顔を窺って……そして、「ふーん?」と呟いて腕を組んだ。
「燕星~、これってもしかして不敬なんじゃないかな~??」
「えっ」
「確かに主命に背くのは不敬と言えますね」
「えっ!?」
さーっと女官たちの顔が青くなる。
その眼前に「ん!」と手を差し出した。
「出して」
「で、ですが……」
「叛逆罪って、だいたい切腹だよね? うわ~、こわ~い」
「…………」
「出・し・て」
蘭華が笑顔の下からドスの利いた声を出した。
女官たちはそれでも顔を見合わせておどおどと躊躇っていたが……最終的に帳簿を差し出した。




