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炸裂・烏賊キャノン 丸吞みシーサペント大量発生事件4

  イチ達にとって幸運がいくつかあった。

ひとつは、シーサーペント狩りに参加していた冒険者達のなかで大物に気がついた冒険者はイチ達が最初であった。

ふたつめはパルテルラットや他の優勝候補のパーティは現在それぞれ目前のシーサーペントに対応しており、イチ達が獲物を横取りされる心配も少なかった。

しかしシーサーペントはまるで己の存在を見せつけるように、他の船にもその魚影を知らしめ、まるで冒険者達を惹きつけるような動きで沖を目指しているではないか。

そうなると必然、興奮した他の冒険者達も大物を追いかけて集まる事になる。


 「みんな集まって来てます! このままじゃ横取りされますよ!」


 見張り台のイルハが悲鳴をあげた。


 「なあに、こっちにはミュルガルデがいるんだ。そこらの船に負けるもんか」


 エルビアニカがそう言った通り、ガンバリーニャ号のスクリューはミュルガルデのマナで更にその回転力を増し、その推力で他の船をどんどん引き離しシーサーペントに追いつこうとしている。


 「よし! メイメイは捕鯨砲の準備! 烏賊キャノンを使ってみる。他のみんなは巻きまれないように伏せてくれ!」


 そう言ってイチは烏賊キャノンと呼ばれた筒状の武器を肩に構えた。

これはヘルヒャンが発明した新兵器で、金属製のパイプの先に尖った酒瓶のような物がついた当時としては奇妙な武器で、これが現代のロケットランチャーの元になるとはこの時ヘルヒャンに知る由もない。

酒瓶状に作った弾頭の尻に推進剤を詰めた棒状の部品がついており、螺旋回転しながら飛翔する。

その姿は水を吐き出して飛翔する烏賊の姿に似ている。

ヘルヒャンはライフルや拳銃の弾丸が水中の獲物にまるで効果を発揮しない問題を解決するため、弾頭や飛翔速度を工夫し、計算上は船上から水面を狙っても水深20mまでを狙える武器を発明した。

イチはヘルヒャンからこの烏賊キャノンを試してみるようお願いされていたのである。


 「もう目と鼻の先ですよ!」


 見張り台のイルハが叫ぶ。


 「メイメイ、捕鯨砲は任せる!」


 既に船首の捕鯨ではメイメイが照準を海中のシーサーペントに向け、浮上と潜航を繰り返して泳ぐシーサペントの背を狙っている。

他の甲板上のものはイチの言葉に従いイチの背後を避け甲板に伏せた。

烏賊キャノンは射撃時、後方に強烈なバックブラストを噴き出す。

巻き込まれれば火傷では済まないだろう。


 「イチ! 合わせなさい! ひとつ、ふたつ!」


 メイメイはガンバリーニャ号の8間程先に潜っているシーサーペントの背中に捕鯨砲の先端を向けた。

大きい。

胴体だけでも小さな釣り船くらいはある。

イチは既に烏賊キャノンの安全装置を外し、グリップ後ろの撃鉄を起こしている。


 「「みっつ!」」


 イチとメイメイのコンビネーションは絶妙であった。

まず浮上してきた背中を狙い、メイメイが捕鯨砲をシーサーペントに命中させた。

弾頭は鋭い銛になっており、返しが着いているので一度肉体に食い込めば簡単には抜けない。シーサーペントに声帯はないが、この生物が苦しみ悶えると口吻から水と空気を吐き出して独特の波長を持つ「ぼおおおおおおお」という調子の悪いボイラーのような鳴き声を出す。

銛には頑丈なロープがついているので、船とシーサーペントが繋がれる事になり深く潜ろうと暴れる巨体に引っ張られて船が大きく揺れた。

しかしメイメイが魔導ウィンチをすぐさま作動させてシーサーペントの潜航を阻止、

そのタイミングを見定めたイチが引き金をひいて烏賊キャノンを放った。

烏賊キャノンの酒瓶状の弾頭はイチの乳房や尻をその衝撃でビリビリと揺らし、後方の宙空に凄まじい噴煙を吐き出しながら海中のシーサーペント目掛けて突進し、その巨体の骨を叩き割っても静止せず、脂肪を抉り肉の深くで止まった所で先端が弾け、シーサーペントの身体を体内から破壊した。

飛散した肉片と内臓のかけらをまき散らして。


 「すさまじい威力だな」


 肉片と血煙で海を赤く染めたシーサーペントの死骸を見て思わずイチは呟いた。

獲物を屠った達成感よりも、自らが用いた武器の恐ろしい破壊力に圧倒されている。

その破壊を生み出すエネルギーは音波となってイチの鼓膜を襲い、一時難聴を引き起こした。

音はあまり聞こえないが、周囲に気を配ればエルビアニカやイルハが歓声をあげ、シーナなどは飛び回って喜びを伝えている。

イチは読唇術でシーナが「優勝ですよ優勝! こんな大きなシーサーペントはなかなかいないですよ! 賞金は山分けですよね? シーナ、今回はあまり活躍の場面がなかったかもですけどちゃんと賞金は山分けしてくれますよね? シーナ賞金で何買いましょう? 新しい枕が欲しいと思ってたんですよ!」と言っているのがわかってしまった。

どうやら彼女は音のない世界でもやかましいらしい。


 _____しかし。


 イチは改めて周囲の様子を見ました。

見える範囲で他のパーティは、イチ達の成果に驚きともため息ともつかぬ声をあげる者達や、不漁の為に途方に暮れる者達、見つけたシーサーペントを逃すまいと躍起になる者達が見てとれた。


 _____静かすぎるな。


 難聴になったからではない。

例年に比べて今年の漁はあまりにも活気がない。

通常、シーサーペントは群れを作って生活している。

しかしその群れは緩やかに互いの危機を伝える程度の群れで、シャチやイルカのように連携して狩りをしたりはしない。

群れに危機が迫ると少しずつ危険な場所から離れようとする個体が出始め、それに釣られて他の個体も避難を始める。

その為、丸呑みシーサーペント討伐大会はある程度の個体を討伐すると自然の流れでシーサーペントが遠洋へと逃げてゆき、3時間もしないうちに終わる。

が、まだ始まって1時間も経っていないというのに周囲の空気が終了時のそれと似ているのだ。


 ____今年は群れが小さいのか?


 それなら、良い。

10年を通して毎年一定数を駆除しているのだ。不自然はないし納得もできる。

だが、イチは彼女の師であるリャン・ハックマンがかつて言っていた言葉を思い出していた。


 ____「自分の感覚を信じろ。いつもと違うと感じた時、そこには必ず罠がある」


 周囲の状況がどうであれ、既に十分期待できる成果を得たのだから早く戻ってしまったほうが良いだろう。


 鳴り響く耳鳴りの中、パーティに帰還する旨を伝えようとしたイチは青ざめて叫ぶエルビアニカとシーナの顔を見た。

嫌な気配を感じ、背後を振り向こうとしたが、


 「_____!!!!???」


 イチは突然声を失った。


 「_____むぐうううう!!!!???」


 イチは脅威を確認する前に帽子を甲板に落としてブヨブヨとした肉色の膜に頭を包まれて視界を奪われてしまった。

聴力を奪われたイチは背後から奇襲をしかけてきたシーサーペントに反射できず、ほとんど無抵抗のまま頭を呑まれてしまったのである。


皆さまの感想やレビュー、評価が作品の方針に良い影響を与えます。


小説も、読者様と物語のコミュニケーションですからね。


1話完結なのでイチ達のこんな姿が見たいなどの要望などもあれば是非!

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