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感度3000倍パンチ! 感度3000倍なんてこわくない!7

  遺跡の出口付近でヘンナーは意識を取り戻した。

彼は狂気に吞まれてはいたものの、やはり今まで培ってきた知性は衰えていなかったのだろう。

イルハに背負われながら気絶したふりをして周囲の状況を冷静に読み取り、反撃の可能性を思料した。

口には猿轡が嚙まされていたが、彼にとっては幸運な事に僅かに舌を操れる隙間があった。これであれば集中と時間を要するものの魔法の詠唱は可能である。

そしてこれはイルハの不始末だが、彼女はイチが蟲に刺された状況に焦りヘンナ―のボディチェックを十分に行わなかった。

普段通りの彼女であれば十全にヘンナ―の身体を改めただろうが、今回はできなかった。

ヘンナ―は正気を失って尚、計算高い人物でいずれ来る襲撃者を予期して捕縛された際の対策を講じていた。

彼は得意の蟲を操る魔法を活かす為、彼が羽織っている白衣の中に蟲を潜ませていた。

それはオオカミキリムカデと呼ばれる蟲で、人の腕ほどもあるムカデで強靭な牙は1トンを越える圧力を生み出す。

更に牙とは別に毒針を持ち、ヘンナ―はこの蟲にも狂熱病を仕込んでいた。

この蟲を2匹、腕に巻き付かせて隠していたのである。


 ヘンナ―はイルハとヘルヒャンが遺跡の出口でイチを待っている間に気を抜いて談笑している様子から状況を窺い、イチが

まだ遺跡内にとどまり遅れて着いてきている事を知った。

それを好機と見て、彼は猿轡を嚙まされながらも舌を動かし魔法の詠唱を完成させるとオオカミキリムカデをイルハとヘルヒャンにけしかけた。


 オオカミムカデはイルハとヘルヒャンに音もなく這いよると、その毒針を突きさし2人を狂熱病に感染させた。

イルハもヘルヒャンも加速的に発現する狂熱病の症状に抵抗虚しく無力化され、ヘンナ―は自身を縛っていた縄を蟲に切らせると自由の身となった。


 「ひひひひひひ! 安心しなさい! 後で薬を打ってやる。カスツールの作った副作用が出るような失敗作とは違うぞ! 完成した薬だぞ! 私が発明したんだ!」


 ヘンナ―は狂ったように笑うとオオカミキリムカデを戻し、ヘルヒャンの銃であるカーペイト14式カスタムを奪い取り彼の研究室へ駆け出した。狂熱病の薬を取りにである。


 彼はイルハとヘルヒャンの話からイチに起きている異常を把握していた。


 「ひひひ、カスツールの馬鹿め。感度3000倍の副作用なぞ、無能も良いところだ。見ておれカスツール。今に私が完璧な薬を世に広めて……」


 銃を片手に独り言を呟きながら通路を急ぐカスツールだったが、彼は道の先に異様な物を見て思わず息を呑んだ。


 通路の先にはイチがいた。

足取りはまるで壊れた人形のように揺れているが、それでも仲間の危機に駆けつけるためにしっかりと一歩一歩足を進めている。

馬の尾のように後ろに垂らした金髪はいつのまにか解けてしまったのかウェーブがかって背中まで垂れ、そして前髪は額の汗ではりついている。

シュー、シュー、と奇妙な呼吸を繰り返し、眼は憔悴しながらも不屈の光を宿して碧く光っている。

そして、床に視線を落とすとそこには血の痕が彼女の辿った道筋のように残っているのだ。

右手には愛用のカーペイト15式、左手には切っ先が赤く染まったナイフ。


 「ひひひ! ひひひひひひひひひひ! 貴様、ひひひひひ! まさか!!!」


 「ふーっ! ふーっ! ふーっ!」


 イチは答える代わりにカーペイトの引き金を引いた。


 「うわあああああああああああああああっっっっっっっっ!!!」


 叫んだのはヘンナ―ではない。イチのほうである。

イチの精密無比な射撃術は狂った感覚の中でも正確な照準を維持し、ヘンナ―が奪ったヘルヒャンのカスタムカーペイトを弾き飛ばした。

しかし3000倍の感度が銃撃の衝撃と振動で彼女を限界に到達させ、イチは膝から崩れ落ちその銃とナイフを落としてしまった。


 「ひひ、ひひひひひひひひひ! く、狂っとる! お前は狂っておる! ひひ! しょ、正気を保つために自分を刺すなど!!!」


 ヘンナ―はやはり聡明な人物だったのだろう。

少ない情報で全てを理解した。


 イチはかつて師であるリャンから不始末をやらかした冒険者への制裁として尻をナイフで刺すと言うやり方があるのを聞いていた。

尻には人体を機能させるための重要な血管や神経を避けて傷を与えるのに適しているので、命を奪わず強烈な痛みを与えるのだと言う。



 イチは正気を保つ為に己の尻を自らナイフで突き刺したのだ。


 ____誰が、お前に!


 地面に膝をつき荒い呼吸を繰り返しながらイチは心の中で反論した。

狂気に堕ちた者に己の正気を否定されるなど皮肉も良いところだ。


 「ひひ、し、しかし、私を撃たなかったのは愚かであるなあ! カスツールの薬など使うからだ! 一度達してしまえば、しばらくは動けんだろう!」


 ヘンナ―は握っていた銃を弾き飛ばされ右手を痛めたが、銃は所詮借り物の武器。彼の本領は蟲を操る魔法にある。

ヘンナ―は四つん這いになり震えるイチに近づくとオオカミキリムカデを這わせた腕を伸ばし更にイチに毒を与えようとした。


 「カスツールの薬で異常が起きている身体に狂熱病を感染させたらどうなるか、良い実験データがとれそうだ! ひひひひひひ!」


 イチは気が触れそうな浮遊感の中でヘンナ―の腕から伸びるオオカミキリムカデが毒針を突き刺そうと近づいてくるのを確かに見た。


 「うぅ………、うあ…………………………、くっ……………………うおお」


 なんとか立ち上がろうと筋肉に意志を込めるが下半身に神経が通っていないかのように自由に動かない。

歯を食いしばり、瞳を揺らし、涎を垂らしながら尻肉からも血を流している。

喩いイチが不屈の精神をその魂に宿していたとしても、今の状態を跳ね除けるのはあまりにも困難であった。

むしろこの状況まで持って行けた事は奇跡に近い。

精神が奇跡を呼ぶとして、その奇跡は何度も呼べるようなものだろうか?


 何度も呼ぶのがイチである。


 「ひひひひひひひひ! 貴重なサンプルとして私の発明の糧となってくれ!さあ!」


 ヘンナ―の腕から伸びたムカデはその牙をむき出し、彼女の首筋にその毒針を突き立てた。


 そしてその毒針の痛みがイチの精神に再び奇跡を産んだ。


 「うわ、うわあああああああああああああああ!!!!!」


 やにわに彼女の下半身に意志の力が伝達し、まるでゴムが弾けたような勢いで彼女の筋肉を爆発的に動かした。


 「りゃあああああああああああああああああああ!!!!」


 イチは右拳を振り上げると、ヘンナ―に突進し全身の体重をのっけた上で彼の頬に渾身の打撃を繰り出した。


 「ぐわああああああああああっ________!!!」


 感度3000倍パンチ!


 「ああああああああっっっっっっっ! う、あ、はっ………………………………んあああああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」


 ヘンナ―の顔面が強烈な打撃で歪み、彼の頭蓋骨を超衝撃的に揺らし意識を奪うと同時に、イチは何度目かの限界に達し股間から思わず温かな体液を失禁してしまった。


 「ううう"う"っ____あうっ、ふっ、あっ____あっ___くぅっ、___んんんうううぅ」


 最早イチは一種のトランス状態に陥り、限界に達し続けたまま気絶したヘンナ―を己が普段持ち歩いている拘束具で縛り付け、ブリブリにトリップした目でヘンナ―の身体を完璧にあらためると今度は二度と魔法を詠唱できないように完璧な猿轡を噛ませた。


 そして流れる血と体液で何度も足を滑らせながらもイルハとヘルヒャンの元に辿り着くと、手をガクガクと震わせながらも2人にカスツールの薬を注射する事に成功したのだった。


 「うあああああああああああっっっっっっっっっ!!! くっ、ふぅっ、ぅっ、______んはっっっっっっっっあ!!! ______んっ、くっ、ああっ! ______はああああああああ!!!」


 そしてイチはその場に倒れ込むと獣のように吠えた。

周囲を震わすような、しかし甘く湿り気を帯びた官能的な声色で吠えた。

その声が状況を打開した事に対する勝利の雄叫びだったのか、はたまた別の感情から生まれた喘ぎだったのかは読者の判断に任せる事にする。

任せたまま、ひとまずはこの『バクスィンの遺跡』で起きた珍事を書き残す。


皆さまの感想やレビュー、評価が作品の方針に良い影響を与えます。


小説も、読者様と物語のコミュニケーションですからね。


1話完結なのでイチ達のこんな姿が見たいなどの要望などもあれば是非!

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