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ブリーフィング 何も知らない女の子に感度3000倍を説明するのは難しい 感度3000倍なんて怖くない!2

  カスツールから依頼内容を確認した後、イチは依頼遂行に必要な情報を彼女の仲間であるエルビアニカと共に調査した。

エルビアニカはイチと同じく狼階級の冒険者ではあるが、人並み外れた調査能力があり、今までの実績から言っても大烏の階級にいるべきと他の冒険者から認められていたが、本人の意向もあり狼階級に留まっていた。


 そして2人(主にエルビアニカ)の調査によりヘンナ―の潜伏先を突き止めた。

彼はスウィートバウムから北東にある都市国家シベースに近い山林の中にある遺跡を根城にし孤独な研究を続けているという。(※1)


 ここで古代遺跡についての基礎知識をおさらいしておくべきであろう。

古代遺跡についてはあらゆる学者がその存在について現在でも議論を重ねているが、中でも有力とされる説は古代遺跡が旧支配種族の生活や軍事の場であったとする見方である。

この考え方では遺跡とは過去に滅んだ旧種族が利用していた地下施設であり、旧種族は遙か昔の古代に超世界規模の戦争により滅んだと主張されている。

滅亡の理由はマシン兵器。ウィルス兵器。原因不明の出生率の消滅。大量破壊兵器に伴う異常気象。それによって発生した飢饉。衛星兵器による大破壊。などと考えられている。

この学説では今この世界の全種族は2代目の種族に相当するものと見做しているのがこの学説である。

彼らはマシン兵器や衛星兵器、細菌兵器から身を守る為に地下に居住空間を作っており、その為、現代においても無数の遺跡が存在し、18世紀で調査されたのは一部しかない。

それは遺跡の中で生き延びた古代の生物や生物兵器により特異な環境が生まれてしまい、危険生物が蔓延る魔窟と化してしまった為なのだが、それは別として遺跡については現代でもまだ十分に研究されていない。


 遺跡に関する講釈はこの程度で良いだろう。

今回の話で言えば、ヘンナ―は旧種族の遺跡を研究所として利用できると考え潜伏したという事が説明できればそれで良いか。


 イチはヘンナーの潜伏先に侵入する為のブリーフィングを彼女の住まいであるルーナハイムの居間にて今回の依頼に共に当たる仲間のイルハとヘルヒャンを前に作戦を共有していた。

出来る事ならエルビアニカも仲間に加えたかったのだが、今回の依頼にはイチを入れて3人しか連れて行けなかった。(※2)

これは後述する狂熱病の特効薬が3つしかない都合である。


 ブリーフィングに関しては特別面白みのある内容ではなかったので大部分は省略させてもらうが、イチは机の上にヘンナ―が潜伏しているはずの『バクスィンの遺跡』の地図を広げ遺跡内で予想される脅威や、留意すべき点を話し各自の役割を把握させた。

イチはオリーブ色のタンクトップとグレーのショーツというラフな格好で話している。


 「バクスィンの遺跡は既に調査が終わっているから、危険生物などは特別存在していないはずだが、最新の情報ではないから注意が必要だ。ヘルヒャンは脅威を事前に察知して、私に伝えてくれ」


 「はいよ」


 ヘルヒャンと呼ばれたハーフコボルトは気だるげな表情でイチの言葉に同意すると赤いメッシュの入った金髪を掻いた。

彼女は不良に憧れているハーフコボルトだが、手先が器用で冒険に便利な装備を開発したり不調になった銃器を修理できるので仲間たちから重宝されていた。

その他、人族よりも嗅覚や聴覚に優れるのでポイントマンをやらせても優秀であるためイチは今回の依頼にヘルヒャンを連れていける事を喜んだ。

背丈は160cmほどだがブラサイズはC60ほどで、まあ平均的である。

普段は彼女が自作した迷彩柄の冒険装束に身を包んでいるが今は部屋着の白いタンクトップと尻尾穴の開いた白い獣人用のローライズを履いている。


 「イルハは私がヘンナ―を確保するのを援護してくれ。状況によってはイルハがヘンナ―の確保に回り、私が援護するが、それは状況次第だな」


 「はい。心得ました」


 打って変わって黒髪を短く切り揃えた少女はイルハ・ルチオリーヌ。中世的な顔立ちと髪型のせいで少年に間違えられる事も少なくないが、普段彼女が上体に着けているプレートアーマーに隠されたその胸はH60と豊満である。

今は白い肌着と黒いスパッツを履いていてその魅力的な胸が彼女の女性らしさを主張していた。

彼女は騎士の称号を授かっており、騎士道精神を重んずる真面目な少女であり、その剣術は剣の価値が下がったこの時代でも他の冒険者から一目置かれていた。


 「そして、これは重要な事だが今回の目標であるヘンナ―は狂熱病の研究者だ。魔法も使えるとのことだ」


 イチの口から出た“狂熱病”という言葉を聞いてヘルヒャンとイルハの顔が強張った。

前回でも触れたがこの時代、狂熱病は不治の病であり死に至る恐ろしい物と見られていた。


 「依頼主のカスツールから聞いた情報では、ヘンナ―はどうやったか想像もつかんが更に毒の強い狂熱病を生み出したらしい。そして奴の使う魔法は『生物を操る魔法』らしい。狂熱病をうつすために生物をけしかけてくる事が予想できる」


 イチの説明を聞いてイルハとヘルヒャンは顔を見合わせた。

自分たちだけで挑むにはあまりにも危険な依頼だと思わざるを得なかったのだろう。


 「怖いか?」


 「怖いに決まってるだろ!」


 イチの言葉にヘルヒャンが「バウ」と吠えた。

見ると耳が垂れてきており言葉通り恐怖を感じているようだった。

ヘルヒャンはコボルト族の血が濃いので感情が身体に出やすい。


 「僕も、正直怖いです。だって、狂熱病にかかったらもう…」


 イルハも素直に感じた事を口に出した。

イルハもヘルヒャンもかつてイチと共に危険生物の討伐や非合法組織の制圧なども経験しており、決して臆病ではない。

その2人が率直に恐怖を伝えるという事からも当時いかに狂熱病が恐れられていたか伺えるだろう。


 「もちろん、今からでも参加するかどうかは2人の判断に委ねるが、まあ最後まで話を聞いてからでも遅くないだろう」


 イチは予め用意していた特殊な木製の箱を机の上に載せ、イルハとヘルヒャンに見せた。


 「なんだよ、こりゃ」


 ヘルヒャンが怪訝そうに箱を眺め鼻をヒクヒクさせ臭いを確かめようとしている。

その箱は魔法に長けたものであればマナの痕跡から何かしら特殊な効果のある魔道具であることがわかっただろう。


 「この中に狂熱病の特効薬が入っている」


 イチの言葉にイルハとヘルヒャンは驚きの顔を見せた。


 「狂熱病の特効薬だって!?マジかよ!?」


 「すごい………!」


 何しろ不治の病と呼ばれていた狂熱病である。

 その特効薬に当時どれほどの価値があるか考えるまでもないであろう。ヘルヒャンなどは素直に興奮し尻尾を揺らし振り始めている。


 「箱を開けると魔法が解け薬効が薄れるらしく今見せる事はできないが、注射器が3本入っている。もし狂熱病に感染したらすぐに注射すれば助かる」


 イルハとヘルヒャンはイチの言葉をまるで疑わず表情を明るくさせた。

もしここにタオ・メイメイがいたらその特効薬の信頼性に疑問を抱きイチにツッコミを入れていたであろう。

が、イルハとヘルヒャンは素直である。

イチの言う特効薬という言葉を疑うことなく奇跡の薬と信じて目を輝かしている。

だが、イチはこの薬についてとんでもない副作用がある事を知っているので内心穏やかでなかった。

この時、イチが内心で何か迷いを感じている時に唇を吸って「ヂュ」という音を出す癖をそこに居合わせたエルビアニカが見ていた。

ちなみにエルビアニカは紫の煽情的なTバックに、胸をタオルで隠しているだけでほとんど裸であった。

この季節、連邦は暑いのだ。本当に困る。


 「特効薬だが、実は副作用というやつがあるらしい」


 副作用という言葉にイルハもヘルヒャンも耳馴染みがない。


 「フクサヨウ?ですか」


 「フクサヨウ?なんだそりゃ?」


 「そう。副作用だ」

 

 イチはイルハとヘルヒャンの言葉に気まずそうに頷いた。


 「そうだな、例えるなら辛い物を食べると汗が出たり、紅茶を飲むと夜眠れなくなったりするような奴だな」


 「???」


 イルハとヘルヒャンは不思議そうに首を傾げた。

ヘルヒャンなどは「クゥ~ン」と不安げな唸り声をあげている。

イチのたとえ話はあまりにも下手だった。


 「その、だから、なんか股のほうがムズムズするような感じと言うか、腹の中が疼くというか、切なくて居ても立っても居られないような気分になって動けなくなるんだよ」


 「それは、お腹が痛くなるという意味ですか?」


 イルハもヘルヒャンも理解に苦しみ困った顔をしている。

イチが説明するような感覚になった事がないのかもしれない。



 「とにかく、特効薬を使うと、しばらく動けなくなるんだ。それでけ知っておいてくれればいい」


 「動けなく…?痺れたりするんですか?」


 「うん、まあ、そんな感じかな」


 イチの返事はどこか不明瞭だ。


 「なんだよ。気持ち悪りぃ言い方だな。まさか危険な薬なんじゃねえだろうな?」


 ヘルヒャンは不信感を露わにして目を細めている。


 「危険はない。危険はないが。まあ、動けなくなるという事だけ覚えておいてくれ。それになにより狂熱病に罹らないように気を付けるのが一番だ。他の事で質問は?」


 イチはやや急ぎ足でブリーフィングを終わらせようとした。

イルハもヘルヒャンもそれ以上イチに聞くべき事が思い浮かばず、明日の準備もあるのでどこかモヤモヤしたまま彼女たちの部屋へと帰って行った。


 「どうしたんだい?何か奥歯に物が挟まったような言い方してさ」


 椅子に腰かけ難しそうな顔をしているイチにエルビアニカが話しかけた。


 「あんな言い方じゃイルハもヘルヒャンも不安になるじゃないか。イチちゃんらしくもない。そんなに危険なものなのかい?それは」


 エルビアニカは机の上にある特効薬が入った箱を指さした。


 「いや、本当に危険はないはずなんだ。ただな。その。イルハとヘルヒャンに説明するのはちょっとな」


 「なんだい。あたしだったら言えるってのかい?」


 エルビアニカがイチの様子を窺うと僅かに顔を赤らめている。


 「実は、特効薬の副作用なんだけどな」


 「なんだけどな?」


 「感度が3000倍になるらしいんだ」


 「感度が……なんだって?」


 「だから、感度が3000倍になってしまうらしいんだ」


 「3000倍」


 つまり、カスツールが作った試作の特効薬は副作用として感度が3000倍にあがってしまうというとんでもない代物だったのである。


 「3000倍って……」


 エルビアニカは同じ言葉を反芻して苦笑した。

エルビアニカも29年もバルティゴ連邦で生きており冒険者としても長い。人生経験として妙な薬を使ったりしたこともあるが、いくらなんでも感度3000倍とは何事か。


 「せ、正確には感度が3000倍になったように感じてしまうという事らしいんだが、とにかくまともに動く事は難しくなるだろう」


 ここで言う感度とは聴覚や視覚の感度が上昇するというわけではない。そういう感度とは別に、身体が酷く敏感になってしまうのだ。ここで言う敏感とは、肌の感覚が敏感になると言っても差し支えないが、どちらかというともっと特定の部分が敏感になってしまい妙な感情が押さえきれなくなってしまうという事である。


 「だけどそれならそうと言ってやればいいじゃないか」


 「イルハとヘルヒャンに?」


 「うーん………そうだねぇ」


 エルビアニカはイチに言い返されて「確かに」と思ってしまった。

イルハもヘルヒャンも“うぶ”である。

イルハは連邦の中でも最北の都市国家デーニズの奥地の村から上京してきた少女で、限界集落に近い集落で育ったため色恋を知らずに育ち、同じ世代の女子が知っているような知識がない。

ヘルヒャンも同じくモルカルという東部の都市国家で生まれ、過保護な父親に大切にされ、素行の悪い友人に近づかせないよう育てられたため同じくそういう知識に疎い。


 「メイメイやシーナ、ミュルガルデだったら話すんだが、あの2人には話しずらいものがあってだな」


 無論、イチも経験こそないがそれなりに物事も知っているし、鎮める方法も知っている。

イチが言った3人も年相応に知っていたり、ませているので知っていたり、素行の悪い連中に囲まれて育ったせいで知っていたりする。


 「そうだね。知識がないなら、話したところで意味がないかも知れないね」


 言いながらエルビアニカは一瞬イチの代わりに二人に説明してやる薬を引き受けようと考えたが、そういう経験がない以上話したところで理解させるのは難しいだろうし、「副作用で動けなくなる」という結果がどのみち変わらないなら特に理解させる必要もないだろう。


 「まあ、狂熱病に罹らなきゃいいことさね。うまくやんなよイチちゃん」


 「そうさ。何が感度3000倍だ。使わなきゃいいだけの事さ」


 そう言ってイチとエルビアニカは笑いあった。

感度3000倍の副作用をもつ特効薬使いさえしなければ良いのである。


 ____感度3000倍なんて怖くない!


 そう心の中で思うイチであった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(※1)エルビアニカが行った調査であるが、彼女は冒険者ギルドや街の事情通、馬車輸送業の人間に取り入ってヘンナ―の動向を掴み、また奴隷商から決定的な情報を得てヘンナ―の潜伏先を突き止めたと言われている。

恐らく、彼女の得意な『身体』を多少使ったのだろう。

尚、エルビアニカの調査協力に足してイチは当然対価を払っている。長い余談なので備考として記しておく。


(※2)他にもイチには信頼できる冒険者の仲間がおり、例えば優秀な前衛であるタオ・メイメイ、魔法使いのシーナ・アハトゼヘル、治癒魔法使いのミュルガルデなどがいたが彼女らは別の依頼の為スウィートバウムを離れていた。


皆さまの感想やレビュー、評価が作品の方針に良い影響を与えます。


小説も、読者様と物語のコミュニケーションですからね。


1話完結なのでイチ達のこんな姿が見たいなどの要望などもあれば是非!

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