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スウィートバウム連続下着泥棒事件2 リャン・ハックマン登場

  イチ、シーナ、タオ・メイメイの3人は冒険者ギルドの某支部へと向かった。


 イチらが暮らすルーナハイムはスウィートバウム地区の冒険者通りと呼ばれるメインストリートから外れた場所にあり、某支部へは歩いて行っても20分ほどで着く。


 ルーナハイムの周囲は同じようなアパートが並んでおり、この時代で既に住宅街の基本的な雰囲気は確立されていたので読者の想像も難くないであろう。

流石に電信柱や駐車場、コンビニエンスストアなどはないが乾物屋や駄菓子屋など、小さな商店がポツポツとあったりするのは今も変わらない。


 これを冒険者通りに入ると様相が一変する。

石畳で舗装された道路を行き交う冒険者達。時折馬車や馬が中央を走り、昼頃にもなれば常にガヤガヤと喧騒が絶えない。

周囲を見渡せば冒険者をターゲットとした武器屋、道具屋、魔道具屋などの商店が目立つが、無論冒険者でないスウィートバウム地区の住人の為の生活用品店や肉屋、魚屋などの食料を売る店も多い。

子供の為のオモチャ屋や、ボードゲームなどを売っている遊具店などもあるし、前述の通りおしゃれが庶民に普及しているので床屋やアパレルショップの他、下着屋や帽子屋などの専門店も多い。

また冒険者はしょっちゅう身体を壊すので小さな診療所やマッサージ店、疲れを癒すための公衆浴場も点在している。

他にも美容室や現代で言うコンビニのような店、質屋や安宿やジョークグッズ専門店、出会い風呂など現代の都市部にありそうな施設は、電気設備のインフラを必要としない物であればあらかたこの時代に揃っていたと見て良いだろう。


 最後に特筆すると、一番多いのは飲食店である。

一番小さいものはフルーツ売りの屋台から、大きい物は中級のレストランまで。また酒を出すBARから現代で言うホストクラブやキャバレークラブのようなものまであちらこちらにあった。

 

 異種族間の相互理解が活発に行われたのが旧バルティゴ王国末期であり、スウィートバウムは人族は無論のこと、獣人族、蛙人族、爬虫人族、鬼人族、多種多様な種族が集まっていた為に色々な種族の味が集まっており、通りには常に美味しそうな臭いが漂っていたと言われている。


  少々街の情景に文字量を割きすぎた。



 イチたちは冒険者通りの中央にある冒険者ギルド某支部にたどり着いた。

この施設の外観は石材を多用しており飾り気がなく、ある種砦のような雰囲気を出しており、事実有事の際には小規模な戦術拠点としての利用も考えられている。

これはバルティゴ都市国家連邦内の冒険者ギルドではどの施設でも共通する建築思想であろう。

だが堅牢な威容に反して某支部の内部事情はお粗末である。

門番を見ればその城の程度がわかると言われているが、今日の門番はカルビンと言うコボルトの若者と過去にも名前が出たパターソという男で、カルビンは蚤でもいるのかしきりに身体を掻いているし、パターソなどは槍を立てたままコクリコクリと船を漕いでいる。

そしてその様子を見ても誰も何も気にしていない。

これでは門番を立てないほうがまだマシというものであろう。


 「しっかりしろ! 門番が寝てどうする!」


 イチはそんな某支部の体たらくに腹が立ってパターソの鼻をデコピンで弾いた。


「ほわっ!? あっ、イチさん____? お疲れ様です」


 パターソは眠りから覚めると顔を赤らめて己の胸を右手で二度叩く冒険者式の敬礼で答えた。

どうやらこのパターソという若者はイチに恋慕の情が芽生えているようだった。

そんなパターソを見てタオ・メイメイは不機嫌そうにフン! と鼻を鳴らした。タオ・メイメイもパターソもイチよりひとつ階級が低い山猫に位置している。


 イチたちが某支部に入るといつもと様子が違う事に気が付いた。

某支部内部は過去に描写もしたが、我々の時代の市役所のようなものを想像してもらえばその内装が想像しやすいだろう。

冒険関係をメインに考えるなら、依頼書が貼られた大きな掲示板の前に冒険者達が仕事を探して集まっており、手ごろな依頼を見つけたら依頼書を掲示板から外して案内係の職員の元へ行く。

案内役の職員がカウンターで冒険の契約など事務手続きを行っている冒険者達の順番の整理をしていて、今の時代と違い整理券の発券機などはなかったのでそのための人員を必要としていた。


 様子が違っているというのは、いつも以上に人が……特に女性冒険者が多いのである。

この時代、冒険者達は魔王大戦時に英雄的功績を残した勇者達の影響を受け、地方の若者が冒険者に憧れて都市部に上京するという大冒険者時代であった。

しかしながら先の戦争で若い男は戦って死ぬ者が多かったので、この時代は冒険者の女性比率は元々多い。

それにしてもいつも以上に女性が目立つようだった。

ともかくこの時代、魔王大戦後に一時訪れた平安の時代にはネズミの子供が生まれるように冒険者の数が増えていたのである。

そしてどこの世界でもそうだとは思うが、山猫、狼、大烏、髑髏の順に並ぶ階級の中で割合を占めているのは山猫階級であり、更にその下にバッチをつけられない駆け出し冒険者は無数にいた。

この階級は決して上下関係を決めるものではなかったが、階級があがるとより高度で報酬の高い依頼が受けられるようになり、狼階級からは冒険者ギルドから名指しで高難度の冒険を依頼される事も発生する。

そのため、大烏階級になるとギルドから直接依頼された仕事が多くなるので自然とギルドの施設に滞在する時間は減る。

この日の冒険者ギルドには大烏のバッチをつけている女冒険者も数人いた。

様子を見ていると、どうも仕事を探しに来たというよりは各々で会話しながら情報交換をしているらしい。


 「なんですかね? 何か楽しいイベントでもあったりするんですかね? なんだかワクワクしますね」


 シーナはそんな様子に若干浮かれている様子である。

このやかましい少女は自分がやかましいせいか、ワイワイと賑わっている場が好きである。


 ____そんなわけないと思うがな。


 イチは逆に人が多い集まりは苦手である。

現代で言うボッチやコミュ障というわけではないが、パーティーなどに呼ばれても誰と何を話せばいいのかわからなくなってしまうのだ。


 どうしたものかとしばらく周囲の様子を窺っていたイチではあるが、そのイチに声をかける者がいた。


 「やぁ。まさか君らも盗まれたクチかい?」


 赤い髪を馬の尾のように結んだ背の高い女性がイチ達に声をかけてきた。


 「パルテルラット先輩」


 この女性はミラ・パルテルラットという冒険者で大烏の階級に属している。だいたいいつも黒く塗った革鎧に流行のショートパンツ。腕はガントレットで守っている。大口径で反動も大きいバルザック8式拳銃を女性ながら使いこなし、近年注目を集めている冒険者であり、若い冒険者達にも人気がある。

イチはかつてこのパルテルラットとパーティーを組んで人食いワイバーンの討伐に挑んだ事があった。

その為お互い多少は見知っている仲だ。


 「盗まれた、というともしかして」


 「うむ。私も彼女らも下着を盗まれている」


 どうやらここに集まっている女性冒険者達は皆下着を盗まれ、この某支部に情報収集に来ているようであった。


 「先輩もですか」


 イチは驚いた。

根拠はないが大烏の階級にありイチ達と違って個人宅を所有しているパルテルラットまで下着を盗まれるような事はないと思っていたのだ。


 しばらくパルテルラットと話していると、次のような事がわかった。

どうやらスウィートバウム地区で下着を盗まれているのは女性が多く、冒険者だけが盗まれているわけでもないらしく、酒場の娘やレストランのウェイトレス、踊り子、マッサージ屋の娘なども被害に遭っているらしい。

盗まれた者の多くが夜中に下着を干していたという。

こうなると犯人はひとりではなく、何かしらの目的を持った組織的な犯行に思えてくる。


 「しかし、いったい下着なんか盗んでどうするのでしょう」


 「うむ、そこが解せないんだよ…」


 イチはパルテルラットと話ながらあれこれ考えていたが、急に某支部の奥から不穏な臭いが漂ってくるのを感じ、背筋がゾクリと震えた。

パルテルラットを見ると同様に顔を緊張させている。

その臭いは酒と吐しゃ物と妙な具合に乾燥させた葉っぱを焚いた臭いが混ざり合って生まれるある意味熟成された悪臭で、その臭いの意味を知る者は皆顔を強張らせる。


 「おー、随分集まってんなー。結構々々」


 低く静かだが、何故かどんな声よりも通る不気味な声に某支部は一瞬静まった。

皆の視線の先にいたのは、自然に気崩れた事務服に身を包み黒髪を一本に結って肩から垂らし、どこか狂気を感じる闇翠色の瞳を持つ長身の女性。

かつて『破天のリャン』と呼ばれ、このバルティゴ都市国家連邦に10人しかいない髑髏のバッチを授けられた者。そしてこの冒険者ギルド某支部の支部長代理であるリャン・ハックマンその人だった。


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