『リオ、出発する』その①
とりあえず私はマユに治療を施し、朝まで寝るように指示した。そして私も寝た────
朝。メイドの一言で目を覚ます。
「おはようございますリオ様。現在の時刻は7時15分でございますが、起床なされますか」
「あと五分……」
「……分かりました」
彼女は離れていった……しかし何か聞こえる。
彼女は何か話しているのか……?
「世界を統治する王様も朝には弱いようですね……」
「起きるぁあああああああああ!」
雨水をろ過して取っておいた樽から水を汲み、顔と口を洗って居間に戻ると、食卓には缶詰があった。
ツナ缶が山盛り、皿に盛ってあった。
「食料が尽きました」
「まあ……さすがに半年もすればそうか」
私はマユの座る向かいに腰掛け、ツナを食べ始める。そしてある程度無言の時間が続いたら、私は話し始めた。
「……で……マユ。色んなことを整理したいのだが」
「食事中に喋らないでください」
この毒舌メイドが!
もう大人はいないんだから、煩わしいことを言うな!
「大人は……いないというか、死んだんじゃありませんか?と私は予想してみたのですが」
「!」
「リオ様があの『木』に捕まっている間、寝言を言っていましたが……お父様と会話なさっていたような」
「……ああまあ……多分合ってるよ」
大人は死んだ。
恐らくだが……私もそう予想している。
そもそも、生きていようが死んでいようが、それを確かめるすべは無いのだが……
「私が見たのは三途の川だろうな」
「ぷっ」
「笑うんじゃない……実際にこんな超常的なことが連続して起きているんだ、天国も地獄も信じられそうなんだよ……」
そして私が会ったのは多分、父の幽霊で……あの川の先は亡者の国だったのかもしれない。
「……しかしそうすると、……いえそうじゃなくても、疑問が一つ湧きあがりますね」
「ああ……」
ずっとここで話しているのもアレなので、私とマユは、ショッピングモールに買い出しに出かけた。
……嘘だ。買わない。盗むんだ。
家の前の坂を上っていく。
マユは歩くのが速いな……
「大人というのは昔からあった概念だが……ちょうど20歳から上がいなくなるというのはおかしい。もし、例えば『大人は25歳から』という風に定義されていたなら……また結果は違ったはずだ」
「人為的に起こされたことということですか?」
「……」
そんなことは不可能なはずだが……
ハーメルンの笛吹き男じゃあるまいし……
「まあ人為的にだとしても、私は少なくとも、大人の消失を実行したのは何か超常的な力が働いたとしか思えません」
「何故?」
「色々調べましたが、結構ギリギリセーフの人がいたようで……」
「……確かに、そこまで正確に人が判別するのは不可能だな。システムが判別しているのは明らかだ」
「はい。そのギリギリセーフの人は、生まれた時に、何日の何時何分何秒まで記録されていたそうです。二十歳になるのを楽しみに待ってたとかなんとか……」
「じゃあ誕生日は9/12の24:10あたりか……なんかどっかで聞いたような……?」
「?」
「なんでもない……勘違いだ」
私たちは坂を登り終わると右に曲がった。
ここからは真っ直ぐである。
「まあもう考えても無駄っぽいな」
「ですね」
「次にわからないのは成長が止まったことだ」
残された子供の体はその時から成長が止まり、今も動いていない……私は16才、マユは……
「そうだマユ、お前は何歳なんだよ」
「10歳です」
「マジ⁉︎」
「嘘です。でもこれぐらい見抜いてください」
彼女は16歳……同い年だったらしい。
「さっき話したギリギリの人もご存命ですから、やはり体は成長しないものかと」
「……なんか、これも考えても仕方ないよな」
「ですね」
私は、自分でも誇らしい世界一の頭脳を持っているが、さすがに想定外だ……全く何もわからない。
「いや待てよ……?」
しかし一つだけ解決の糸口があった。
「……じゃあ、能力だ。能力ってなんなんだ?もしかして……こんな凄いことをやってのける能力が……」
「ありません」
マユは強く否定した。
「能力というのは個人の技術のうちです……私なら武器を上手く取り扱う能力、リオ様は開発した植物の力を使う能力。何も超常的ではないのです」
「……」
そう言い切れるかはともかく。
妙に納得した……確かに、この世界だって、急に大人が消えただけで、何も、ファンタジーになったわけではないのだから……
私たちはショッピングモールの中に入っていった。自動ドアをこじ開けると、中は真っ暗だった。
「……となると……」
「考えても無駄ですね。謎は解明できません」
「……だね」
地図を確認し、食品売り場の方へと進む。
缶詰をいくつか拝借しよう……
「ああそうそう……リオ様」
「ん?」
「シェヘラザードについてなのですが。結局あれは、リオ様と融合して初めて完成だったということですか?」
「……まあそうだな。しかし……」
「?」
「私が奴に吸収されるという未来もあった」
「……!」
もし私が取り込めなければ。
行動の主体はシェヘラザードの方になっていただろう……本当に恐ろしい話だ。
自分の作った『木』に取り込まれるなど……
「リオ様」
「ん……どうしたの?」
「『自分の作った』……ではありませんよね」
「……ああ。そうだね。今となっては消えちゃったけど、かなり沢山の人に協力してもらった」
「その中に『未成年』はいませんでしたか」
「……」
痛いところを突かれた。
なんということだ……このメイド……鋭い。
さすがは毒舌が売りというだけある。
「……えっと……」
「未だ生存しているであろう、未成年の協力者です。いなかったのですか?……あなたのように頭の良い人が」
「……いた」
『アイツ』だ……彼の話はもう少し隠しておこうと思っていたのだが、仕方ない。嘘はつかない主義だ。
「1人だけ……私に並ぶぐらい賢いのがな」
「!……『並ぶ』って……」
「ああ。とんでもない天才だ……実はマユ、私は家に帰ったら提案しようとしていたんだよ。『そいつに会いに、アメリカまで行かないか』とな」
「……!」
マユは驚いている。
何に驚いているかは知らないが……
「……分かりました。家に帰ったらゆっくりお聞きしますね……」
「そうか。ありがとう」
そして話すことが無くなって、無言で私たちは歩き続けていた…………すると、周りの静けさが、やたら不気味に感じられてきた。
今更だが、よく見ると色々、破壊の後があったりする。大人がいなくなって、盗まれた物も多いだろう。
……食料は残っているのだろうか?
「動くな」
「……………………えっ」
「手を挙げろ。降伏すれば何もしない」
その時だった。
私たち2人の周囲に、黒い布をまとった謎の男たちが現れた!……銃を持っている!
「…………」
「リオ様……下がってください」
マユは落ちついている。
そして……私も落ちついている。
銃口を向けられているのに妙に静かだったのが気味悪がられたのか、彼らは少し引いた。
「……マユ。あなたこそ下がって」
「いいえ。主人を守るのはメイドの役目です」
「いいから!……シェヘラザードのことを教える」
「……?」
彼らは少しするとまた近づいてきた。
私もマユも手を挙げない……銃はどっちも効かないからだ。……そういえば、この人たち、どうして銃を?
「おい、手を上げろと言ったよな」
「あなた達、それをどこで手に入れたの?」
「うるせえ!撃つぞ!」
「…………」
私はまず彼に近づいていった。
彼はかなり困惑していた……それもそうだ、側から見れば私はただの少女である。
「マユ!聞いておいて!」
「……!……リオ様、一体何を?」
「おい!ふざけてんのかテメエ!」
「私の脳から……銃口までの距離……およそ4メートル。ここまで近ければ『当たる』だろうね……」
「マジに殺すぞ!」
「……私の『つる』は!」
私は勢いよく右手を前へ……すると、指先から、植物の蔓が伸びる!蔓は彼が向ける銃を捕らえ、私が引っ張ると、銃は地面に落ちた。
「……え?」
「な、なるほど……まさかそういう感じとは……リオ様、しかし万能薬をそんな使い方するんですか……?」
「ああ!これが第一の技能!『指から蔓が伸びる』!……最大5メートルまで!」




