『リオ、出発する』その②
「このメスがきゃあ……ふざけんじゃねえぇ!」
「そして『第二の技能』!」
彼が近づいてくる。
私は蔓を拳に纏わせ、手の形にして切り離す!
拳を前に突き出すと、蔓の塊は飛んでいく!
「なっ⁉︎」
「『手袋を作ってロケットパンチできる』!」
残念ながら、さほど威力は無い。
人間が殴るよりずっと弱いエネルギーだ。
しかし!撹乱にはなるし、何より……
「蔓はそのまま残る!」
「んの野郎!」
ロケットパンチはやはり普通に防がれるが、彼の周りに蔓が飛び散る。私がそれを引っ張ると、彼の体に絡まり、拘束具となるのだ!
「うおっ⁉︎」
「便利だろう?さあ次は『第三の技能』!」
私は蔓を切り離し、彼を蹴り倒した。
すると、さっきまで仲間が近くにいて銃が使えなかった仲間たちが、一斉に構えて、撃ち始めた。
見たところ、あと5人……いや6人いるようだ。
「あの女を蜂の巣にしてやれぇ!」
「り、リオ様!」
「マユ、下がって見てろ……さあ撃つなら来い!」
私は頭を防御し、彼らの銃撃を受ける……
私の体をおよそ18発ぐらいの弾丸が貫いていく。
だがしかし。
「な、何!」
「直るんだよねー!」
【シェヘラザード】は万能薬である。
それも移植するタイプの万能薬である。
弾丸を受け、体が傷ついても、即座に肉体は修復を始める……さながら、吸血鬼のように!
「そしてこうだ!」
「……!」
私は手首から『細長い棒』を取り出す。
長さはわずか1.5メートルほど、しかしこの棒、よく、『しなる』のである。
銃弾を受けながら、彼らの拳銃を弾き落としていく。弾き落とすと、ロケットパンチで拘束していく。
残るはあと1人となった。
「ひ、ひぃいいいい!」
「どうした?戦わないのか?……」
「くっ…クッソぉおおお!どうしてお前らなんかに……俺たちゃ平和にやってきたんだぞ!」
「平和に?どういうこと?」
「どういうことも何も!ここの食料はみんなで分け合ってんだよ!西高の生徒とかと!」
「奇遇ね……私も西高よ。このメイドの方は全然違うんだけど。それに強奪しにきたんじゃないし、誰かいたらお裾分けしてもらうつもりで来たの。……というか、そもそも商品を勝手に盗んでるのはお互い様でしょ」
「誰がてめえらなんかにやるかバーカ!このモールの物は一つ足りともやらねえ!」
「何でよ……」
「うるせぇ!てめえら女のガキに何かやるっていうのが凄くムカつくんだ!ここで殺してやる!」
「……」
私は彼の銃口を額に当てた。
そして彼の方をジッと見つめると、彼は目をそらした。
「弱点がある……それは脳だ。脳から指令を出せなくなれば、この【シェヘラザード】という能力は使えない。だから君がこれから引き金を引けば私は殺せる」
「……⁉︎(なんだこいつ⁉︎どうしてこんなことをするんだ⁉︎……頭がおかしいのか⁉︎)」
1分間、その場の動きが止まった。
彼は汗をだらだら流して、最終的には銃を落とした。
「……ふふふ」
「く……クソォ……降参だ!」
「安全装置外すの忘れてたわよ」
「ああああああああああああああ!!」
しかし彼は既に拘束した。
まったく、便利な植物だ……
「……でもリオ様、脳が弱点っていうのは本当ですよね……いいんですか、言っちゃって」
「良いんだ。むしろ戦うやつみんな脳を狙ってきてくれたらどれだけ楽か」
「……それもそうですね」
私たちは食品売り場に歩いて行った。
するとそこには結構な量の缶詰があった……
「……」
「あれ?多すぎないですか?」
「だよな……」
「高校の生徒と分けてるって言ってましたよね。嘘だったんでしょうか?」
「……というかあいつらはそもそも何なんだ?……今は子供しかいないのに、『学生』じゃなかったのか?」
私たちがカバンに缶詰を詰めていたその時だった。……私は、妙に明るい場所があることに気づいた。
「ん?」
「リオ様、いかがなさいました?」
「いや……ちょっと向こうに行ってみよう。天窓があるのか……やたら明るいぞ?」
「ん……確かに、何でしょうあれは?」
私たちが歩いていくと、次第に、このショッピングモールに起きている異変に気付いた。
「っ!……これは……」
「……リオ様、何ですかこれは」
「知らん……!」
壁に大きな穴が開いていた。
暗いショッピングモールに光が差していたのはそこからだった……何故こんな穴が……?
「穴が開いているのも不思議ですが」
マユは穴から外を覗く。
駐車場の一つが見える。
「壁の残骸はどこに……?まさかリオ様、食べちゃったんですか?」
「はぁ?」
急に毒舌ジョークをぶち込んでくるな。
そして、さほど毒舌でもない。ただのジョークだ。
「冗談は置いておいて、瓦礫が無いということは、彼らはこれを認知していて、片付けたということですね」
「そうだな……ん?」
いや待てよ。それはおかしい。
ここはスーパーじゃないか。食品売り場に穴が開いていて、外から入れるじゃないか。
なら、彼らは何故、こちらを見張らない?
何故、モールの玄関から入ってきた私たちには遭遇し、こちらから入ってくる人間には気づかないような警備体制なんだ……⁉︎
「リオ様」
「ああ……なんかやばいな……」
まさか……彼ら自身の安全の保証が出来ないような、危ない場所なのではないか!
その瞬間だった。
食品棚の中に、おかしい光景があった。
破壊されているのは精肉売り場の横の壁で、私たちを挟んで、正面にはインスタント食品の棚がある。
なのに。
なのにどうして……
麺、麺、麺、麺、麺、みりん、麺、麺……
どうしてここにみりんがあるんだ?
『爆発』した。
「!!! 」
「ぐぁっ……!り、リオ様!」
私たち2人とも、爆発に吹き飛ばされた。
ガードする暇も無かった。……がしかし、『シェヘラザード』で負傷は治すことができる。
「マユ!大丈夫か!今、直すからな!」
「ありがとうございます……でも早く……」
「こんな時も毒舌か⁉︎」
「いえ……そこの……みりんが爆発したんですよね……今……今度はリオ様の後ろの棚に……」
「!」
私は振り返り、吹き飛ばされた先の『文房具売り場』を見る……そこにあったのは『飲むヨーグルト』。
爆発した。
「ぐああっ!」
「く……くそ……何なんですかこれは……」
「……こ、これ、結構強いぞ……『爆弾』!」
私たちは走り出した。
スーパーの外へ!しかしルートを選ばなくてはならない。よりにもよってこんなに奥まで来てしまった!
「リオ様!あの穴から外に行きましょう!」
「マユ!お前はそうするといい!……私はこれをやった犯人をブチのめす!」
「は!犯人って……見当も付いてないじゃないですか!……何で液体が爆発するのかも謎だし!」
「謎じゃない……いいかマユ、付いてくるなら解説してやらんでもないが」
「いいからさっさと話してください!」
「……少なくとも!」
あの『みりん』や『ヨーグルト』が爆発する原理はいくらでも想定できるし、何なら、それらの後ろに手榴弾が置いてあったというのが真相でも良い。
問題は、液体にしろ、手榴弾にしろ、それらは時限爆弾だということ!
「……じゃあ犯人っていうのは!」
「そう!爆発物を私たちの近くまで運んできた奴だ!……ラジコンか何かで持ってきたに違いない!」
「で、でもそれでは、見張りがいない理由が分かりませんが……!」
「……じゃあまだなんかあるんだろう!」
私は立ち止まり、周囲の棚を蹴り倒す。
そしてマユと背中合わせになり、周囲を警戒する。ラジコンやドローンなら、飛行音が鳴っているはずだ。
「……」
「……聞こえるか?」
「黙って下さい」
「えっ……なんかごめん……」
いやいや。王は謝らない。
メイドが!何を口答えしているのだ!
「冗談言うな。何か聞こえたか?」
「……聞こえてきました」
「本当か!」
「空調をつけられたようです」
ダメじゃないか。
これでは何も聞こえなくなる。
「しかしこの広さの空調、全てを使うことはできないだろう。恐らく今は予備電源で生活しているだろうに、電力をそんなに使える訳がない」
「移動しますか?」
「ああ。ここは今すぐ離……」
その時だった。
上から、私たちの横に……何かが落ちてきた。
ゴトッと音がした。
「……これは」
『緑茶』だった。
爆発した。




