第三話 覚醒
ーシャキィインー
祖父龍玄を見送り、悲しみにくれていたのも束の間、突如背後に裂け目が現れた。
「おやおやぁ?なんと感動的な場面なんでしょう!すばらしい!自身の大切な家族を目の前で殺されるなんて…今最高に悲しい気持ちでしょうに!ハッハッハハッハッハ!」
裂け目から出てきた男は、高らかに笑いながらゆっくりと零夜のところまで歩いてきた。
「んん?どうしました?震えているではありませんかー!」
零夜の肩がわなわなと震える。
「なんで…なんで…俺から全部奪うんだよぉぉぉ!じいちゃんもばあちゃんもクラスのみんなと過ごした楽しい生活も!!なんでぇぇ…!」
零夜は男を振り返り思い切り睨みつける。
「いいか!馬鹿が!この世にはなぁ!弱者と強者がいるんだ!!弱者はなんの権利も与えられず、ただ強者に奪われ朽ち果てるだけなんだよぉぉ!!ヒャハハハハ!お前が奪われたのは全部お前が弱いせいなんだよまぬけぇぇ!」
男は声が裏返るほど高ぶった様子で零夜を嘲笑する。
その刹那、零夜の脳裏に先ほど龍玄から言われた言葉がよぎる。
「力あるものは力なき者を助け、闇を祓うんじゃ」
あぁ、じいちゃんあれはこういうことだったんだね。力がないやつはこういう奴らに蹂躙される…
だからそのために力を振るうんだね…零夜は男の方を向いて立ち、睨みつける。
零夜の目にもう涙はなかった。ただ、その目にはしっかりと憎悪は宿っている。こいつだけは絶対に許してはいけない。
「おやぁ?もう泣きわめき散らかすのは終わりですか?つまらないですねぇ…」
「お前…名前は?」
零夜はもう男の安っぽい挑発には乗らなかった。鋭い眼光で男を睨みつける。
「私ですか?私に名前なんてありませんよ。私はただあの方のために命を張るのみ…」
「あの方っていうのは誰だ。」
零夜が声を低くして言う。
「クックックッ。先刻お前の大切な祖父を葬ったあのお方だよ。」
「そうか…」零夜の目が更に鋭くなる。
「あ、そうそう!あなたクラスメイトとの楽しい時間を奪われたとおっしゃってましたねぇ。あの時教室に3体の怪物を放ったのは私ですよ。もともとは私もあの怪物とほとんど変わりはなかった…ですが特別にあなたを葬るために魂と霊力を分けていただいて…」
とすれば自らの不幸の始まりはこいつだということになる。男は忘れたふりをしていたのかはたまた本当に忘れていたのかは分からないが零夜の怒りのスイッチを入れるには十分な発言だった。
「もういい。しゃべるな。」
零夜の憎悪は、怒りは、頂点に達していた。
ーおらぁぁぁ!ー
零夜が男に思い切り殴りかかる。それを男は片手で受け止める。すかさず左手で脇腹を狙う。パシッ!
スパンッ!パアッ!パアンッ!連撃を繰り出す零夜。反撃を許さないように隙を作らずひたすらに攻撃を打ち込む。静かだった竹林が騒ぎ出す。
ーセイヤァァッァ!ー
右手で男の顔面を狙う。しかし、その攻撃は読まれて… ボゴッ!
「うっ!ほう?やりますねぇ」
攻撃を食らって仰け反ったのは男の方だった。
「右手で顔面を狙う素振りを見せて、あえて空振り…その勢いを利用したまま左脚で蹴りを入れ込んでくるとは…どこでそんなことを教わったのですか?」
「じいちゃんさ」
零夜は幼少期を思い出す。
「よいか零夜!強い相手だと真正面からの攻撃はいとも簡単に防がれる。だからこのように殴るふりをして
から左脚で蹴りを入れる!人はこれを不意打ちとか卑怯とか言うが関係ない!これも戦いの知恵よ!ガハハハハ!」
バキバキバキッ!太い木が根元から倒れる。
「こう?」
そう言い、じいちゃんの顔面を殴ってから蹴りを入れた。
「痛っ!」「零夜ぁ!フェイントだから本当に殴ったらだめじゃろうがぁぁぁ!」
「逃っげろ〜!!」「待たんかぁぁ!」
じいちゃん……ありがとう…
「ほぉ…?あの老爺の孫なだけはある…才能だけは一級品というわけか…こちらからも行きますよ?」
スパァン!バシッ!スパアッ!ドゴッ!バシィィン!バスッ!
男の方も防戦一方から脱し、攻撃を織り交ぜてくる。両者は譲らず、蹴られては守り、隙があれば攻撃を繰り出す…
先に隙ができたのは男の方だった。零夜が素早く背後に回り込み頚椎に一撃を入れようとする。
取った!そう確信した瞬間、
「やれやれもう少し楽しめるかと思ったのですが…ここらで終わりにしましょう…」
ふいに男が零夜の方を振り返る。そう、男はあえて背後を取らせたのだ。
ー魔爪ー
シャキィイン!零夜の腹に深い傷が入り竹林の奥まで飛ばされる。同時に数十本の竹も一緒に切れる。
「ックゥ!」
突然の攻撃に零夜の思考は停止した。
何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ。蹴りでも殴りでもない。ひっかくようなモーションを取っただけ…武器を使わず俺の腹を割いた?!
男は零夜が飛ばされた場所までゆっくりと歩いてくる。なぜ先ほどの攻撃は自分の腹を割いたのか。その答えには至らずとも零夜の心には揺るぎない一つの感情が存在していた。
「殺す…殺す…お前だけは殺す!」
再び教室の時と同様に零夜の体から黒き稲妻のようなものが出始める。目が赤くなり、体勢を低く構える。
その瞬間、家へ向かうときに見た記憶を思い出す。自身が原因で多くの友を巻き込んだことを…
「その目は鬼赫の目!なぜお前が?!」
辺りを見回すと、いくつかの民家があった。零夜はわかっていた。次に教室と同じことをしたらそんなレベルで済まないことを。
「思い出せ!自分のすべきことを!俺はこいつを殺す!もう、さっきみたいにはならない!」
零夜から出ていた黒き稲妻が収まり目ももとの黒色に戻る。
あの男と戦っていたときのじいちゃんを思い出せ!!
ー頼む!じいちゃん、力を貸してくれ!!ー
男がこちらに迫ってくる。何もしなければこのまま死ぬ。「出ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ー蓮華真珠功 蒼ー
ヒュイイイン…パアンッッ!
凄まじい音とともに構えた指先から蒼きレーザーが飛び出す。
それは零夜へと向かってきた男の腹を貫通し……
ドサッ!男は後ろへと飛ばされ、仰向けに倒れた。「やったのか?!うっ…!」
ドサッ!零夜も同時に倒れる。
「か、体が動かない…殺ったかどうか確認しなきゃいけないのに…!」
だがその必要はなかった…
「クックックッ!」男が吐息交じりに笑う。
男はふらつきながら立ち上がる。腹を貫通したのに…!
「つくづく私は運がいい!魔核をギリギリのところで外れるとは…それにしてもまさかすでにあの老爺から継承の儀を済ませていたとは…!あの方の言う通りここでこいつは殺しておかねば…!!」
零夜のもとへとふらつきながらやってくる。
あと一撃、一撃だけでいい…!さっきのあれを…頼む!動け…!動いてくれ俺の体…!
しかし、零夜の体は攻撃の反動で痺れて全く動かない。
男は無情にも零夜へと近寄ってくる。
ハァハァハァハァ…ック…!もう…ここまでか…ごめんじいちゃん俺…やっぱり……
とうとう男が倒れている零夜の前へと辿り着く。
「あの世でじいちゃんと仲良くするんだな!継承者ぁ!」
ー魔s…ー
零夜が思わず目をつぶる。しかし、いつまで経っても攻撃は来ない。恐る恐る零夜が目を開けると男は零夜に向かって腕を伸ばしたまま、静止している。
「え?」
「ア、アア…なぜ貴様がここにいる…?!」
「それじゃ、ばいばい〜!」
男の後ろでまた別の男がそういった途端、男の体に無数の線が入った。
ピシィ!スパァン!
先程まで零夜を痛めつけていた男の肉体はいとも簡単にバラバラに散った。
その肉体が塵となって消えると紫色の人魂のようなものだけが残った。そしてそれもすぐに消えた。
な、なんだ?!こいつも敵か…?!あの男を一瞬で殺すなんて…!勝てなくても…最期まで抗ってやる…!
なんとか、反動を耐え立ち上がり拳を構える。その瞬間、男はすでに零夜の後ろに立っていた。
「これ以上抵抗されても困るからね…君はこっちに必要な人間だから。」
そう告げると零夜の首にすばやく手刀を打ち込んだ。
ドサッ!一撃で零夜は地面に倒れ、気絶した。
ここは…どこだ?か、体が動かない…!
零夜は一面真っ白の世界にいた。うつぶせで体が固定されている。ふと顔を上げると、見慣れた背中が見える。白髪の男、紛うことなき神代龍玄その人だ。
「じいちゃん!俺だよ!」そう叫ぶが、じいちゃんは一向にこっちを向かない。
ーカツカツカツー
それどころかじいちゃんは零夜と反対側に歩いていく。
「じいちゃん!待って!じいちゃん!俺をおいて行かないで!」
視界がぼやけ、最後に見えたのは歩き去るじいちゃんの後ろ姿だけだった。
「じいちゃぁぁぁぁぁん!」
第三話読んでくださりありがとうございます!第三話に続き第四話も投稿頑張ります!
応援よろしくお願いします!第一話から続けて読むと面白さが倍増するのでぜひ!




