第二話 最悪なる別れ
ハァハァハァハァハァ……
何も考えちゃだめだ…何も考えるな!今は…とにかく家に…
田んぼ道をひたすら走り、家を目指す。
カァーカァ…バサバサッ!
空は赫く、カラスが不気味な声で鳴いている。
完全に思考を放棄し、走って家に着くことだけを考える。否、思考を回したとて今の状況は到底理解できまい。
ドックン!ドックン!
心臓が激しく鳴り、急に激しい頭痛に襲われる。思わずその場に膝をつき頭を抑える。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い、苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。
ウウッ…ック…アアァ゙!
突如、頭に謎の記憶が流れ込んでくる。
ーキャア!何あれ…!ウワァ!痛い!痛いよぉぉぉぉ!誰か助けて!
バリッ!ゴリゴリ!ブシャッッッ!ー
クラスメイトが次々と怪物に襲われ、悲鳴をあげている。その中には親友竹内の姿も…
これは…なんだ?!…俺は何を見てるんだ?!
ーバリバリバリッ!ー
突如漆黒に包まれた謎の生物が現れた。それはとても人間とは表せないような……
「お前も⋯お前もさっきのバケモノの仲間なんだろ!!」
先ほど竹内から放たれた言葉がふと脳裏をよぎる。
まさか…これが…俺なのか…?
その俺(?)は三体の怪物を一体一体戦闘不能にすると、1箇所にまとめ黒い球体を放ち怪物を消し去った。3つの人魂と窓際が欠損した教室だけが残る…
そこまでの記憶が脳内に流れ込んだところで頭痛が治まった。
そんな…だからみんなは俺をあんな目で…
フッッ…ック…!オワァァッ!
ーズシャアァァー
嫌な記憶を振り払おうとし、今まで以上に全力で走るが、途中で足がつまずき激しく転倒する。家はもう目視でも確認できるほど近づいている。500メートルもない。しかし零夜は何か違和感を感じていた。
見慣れたはずの家、なのに何かおかしい。なぜだろう、嫌な予感がする…
ーズキンッッ!ー
先ほど転んだときに捻った箇所が痛む。走るのをやめ、歩いて家に近づき、扉を開ける。家の中は夕方なのに暗い。普段ならば居間の電気がついているはずなのだが。
「ば、ばあちゃん?」
呼びかけても返答はない。靴を脱がずに居間まで走る。そこにもいない。祖母はいつもはこの時間に間違いなく家にいる。いったいどこに………
家中を探し回ってもいない。すると裏庭への扉が少しだけ開いているのが見えた。わずかな隙間から赤い液体が見える。
まさか!と思って裏庭に出ると………
そこには、四肢を引きちぎられ、口からはひどく吐血した祖母智恵子の遺体が見るも無惨な姿で転がっていた。
「は?」
ーオエエエエエエエェェェェェェェッ!!ー
膝から地面に崩れ落ち、耐えられず嘔吐する。零夜の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
ー零夜!早く起きなさい!学校遅刻するよ!ー
ー零夜!今日はあんたの好きなオムライスだよ!ー
ー零夜、おかえり!ー
ーいってらっしゃい!ー
ばあちゃんと過ごした記憶が鮮明に蘇る。けんかした思い出、一緒にご飯を食べた思い出、料理を教えてもらった思い出、裏山にタケノコを採りに行った思い出。数え切れない思い出が走馬灯のように零夜の脳内に流れ込んでくる。
「あ…あぁ…ああああああぁっっぁぁー!あぁぁっぁああああ!」
溢れ出る涙が止まらない。なんで…なんでこんなことに……!いったい誰が…!
ーバキバキバキッッ!ピーーー!ピィーーー!ー
後ろの竹林から竹が何本も倒れる音が聞こえ、鳥が何羽も飛んでくる。
ーダァァァン!バキバキバキ!ー
そうだ!じいちゃんは…?!今日はいないはず…じゃああの大きな音は?!おもむろに立ち上がり、吐き気を抑え竹林へと歩いてゆく。
ハァッハァッ…!竹林を駆け抜ける。地面には足跡が残っている。
「これはじいちゃんの…!」
少し行くと、普段は竹に覆われているはずの場所がすっかり何もなくなっている。
フンッッ!ドオリャァァァ!バシッ!
じいちゃんと謎の男が戦っている。
ーピカッ!ドカーン!ー
突如じいちゃんの手から青きレーザーのようなものが放たれる。「グァッッッ!」それが謎の男の肩を貫通すると、彼は悶え苦しんだ。勢いのまま後ろの竹に衝突する。
「とどめだっ!!」
じいちゃんが叫び手を上にかざすと赤い巨大な光の玉が出現した。
それは零夜が教室で出した黒い球体と似たような……
「じいちゃん!」零夜が思わず叫ぶ。
「零夜?!なぜここに!」じいちゃんがこちらを向き、一瞬意識を俺に向ける。
その刹那、竹に寄りかかり悶えていた謎の男がニヤリと笑い、瞬きの間にじいちゃんに間合いを詰める。
「フヘヘへッッッ!取ったぁぁぁ!」
ーグシャッッッッッッ!!ー
気づけば、謎の男の手がじいちゃんのみぞおちを貫通していた。
「ッッッック…!カハッッッッ!」
じいちゃんが吐血する。男が龍玄の腹から勢いよく腕を引き抜いた。龍玄がガクッと崩れ落ちる。
「じいちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
零夜が泣き叫び、駆け寄る。自身が祖父の意識をこちらに向けさせたがために彼は致命傷を負った。そのことをひどく後悔する。いや後悔などという言葉では抑えきれない。他ならぬ自分が祖父を殺したようなものなのだから。
一方、謎の男は血にまみれた右腕を振り払い浅い呼吸をしながら、龍玄から離れていく。
「ファーストアースでは活動できる限界がこれか…これ以上は魂が持たんな…やつも殺したいがこの体でそこまでのリスクを背負う必要はない…」
ビッ!謎の男が指で空間を切ると、そこに裂け目ができた。裂け目は漆黒で奥がどこまであるのか見当もつかない。そこに男はゆっくりと歩いて行く。
バシッ!
零夜が近くの石を拾い思い切り男の頭目掛けて投げつける。とびきりの憎悪を石に乗せて。すると鬼のような形相で男は振り返った。
「クソ餓鬼がッ…わざわざ俺が手を下す必要もない…!お前の死の時もすぐに来る…!」
男は零夜に反撃せずにそのまま裂け目へと入っていった。
「待てよ…!クソやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
零夜の叫びが木霊すると竹林に再び静けさが戻った。
「ううぅぅぅぅ…!じ、じいちゃぁん…」
男が消えただ一人残された零夜が嗚咽を漏らす。
「泣くでない零夜…全く…高校生がみっともないぞ!」
じいちゃんは吐血し、苦しみながらもいつものように歯をニカッと見せながら笑う。自らの死を悟りながらも零夜を安心させるためにその顔は苦痛に歪まないよう必死に耐えている。
「でも、じいちゃんが…じいちゃんが…!嫌だよ!死なないで!じいちゃん!」
「良いか零夜…よく覚えておくんじゃ。人というのは、何かを為すためにこの世に生を授かり、それを為し遂げたときに役目を終える。わしの若い頃はなかなかなもんでな…それが零夜に会ってからは変わったんじゃ。お前をきちんと育ててみようと思った。零夜と智恵子と幸せな生活を送れた…それで十分じゃ…」
じいちゃんの腹部からは徐々に血が広がっていく。竹林が鮮やかな緑と赤色に染まっていく。
「何が十分なんだよ!!まだ…!まだこれから一緒に…一緒に…」
零夜はもう元に戻れないことをわかっていた。学校でのこと。祖母のこと。それ故に言葉に詰まる。
「智恵子…わしらは良い孫を持ったな…」
フッと笑い、空を見つめる。赫い空には星が見え始めていた。
本当なら自分の代でこの悲劇に終止符を打つはずだった。しかしそれは叶わなかった。ならば取るべき手段はひとつしか残されていない。
この子に重い宿命を負わせたくはないんじゃがな…
ハァ…ハァ…ヒュゥ…ヒュー…
息が途切れ途切れになり、龍玄に最期の時が近づく。
もう最期か…天は…決断の時を…待っては…くれないのだな…
「神代零夜を…蓮華真珠功第12代継承者に任ずる…」
ピカァァァ!
龍玄の身体からまばゆい光が放たれたかと思うと零夜の身体も同様に光りはじめた。
「こ、これは?!」
「今を精一杯生きろ…!そして力あるものは力なき者を助け、闇を祓うんじゃ!!」
零夜の光が最高に輝き、虹色の光に変わる。
「じいちゃん…!」
龍玄は自身の胸を叩きこう告げた。
「零夜よ…魂が…魂があれば再び会うことも叶うじゃろう…!それとな…朝わしが謝ったことを訂正させてもらえんかの。『すまん』じゃなくて『ありがとう』じゃったな…!」
死の淵に立たされながらも、欠けた歯を見せ再び二カッと笑った。
「じいちゃん……俺の方こそありがとう…!じいちゃんとばあちゃんと暮らした日々本当に幸せだったよ!」
微笑むじいちゃんに零夜も涙をこらえて笑い返す。
最期くらい涙を見せずに笑って見送ってやろう…
シュゥゥン…
零夜と龍玄から光が消えたとき、龍玄の口元はもう動かなかった。口角は上がっており幸せそうな顔をしていた。閉じた瞳からは一筋の涙がこぼれ落ちている。
「じいちゃん?」
「……」
呼びかけても返事は帰ってこない。
スゥー…大きく息を吸い込み空を見上げる。こらえていた涙が、思いが、込み上げてくる。
じいちゃん…俺は…
ーシャキィインー
悲しみにくれていたのも束の間、突如背後に裂け目が現れた。
第二話を読んでくださりありがとうございました!第一話から読んでくださった方には感謝しかありません!大切な家族を失った零夜はこのあとどうなるのか?!第三話もぜひお楽しみに!!




