第十二話 初任務は苦労してなんぼ
出発から3時間、なぜかチーム虎徹は森の中を彷徨っていた。周りには鬱蒼とした木々が生えており、おとぎ話の迷子シチュエーションを彷彿とさせる。この世界の森はこんな感じのものばかりなのだろうか…
こんなことを考えて現実逃避しても変わらないので何があったか説明しよう。事の発端は3時間前に遡る。
―3時間前虹龍都結界外にて―
「それじゃあお互い任務頑張っていこう!」
2台の鳥車を前に、チーム虎徹とチーム暗闇は二手に分かれた。
「お互いまた会うときは誰も欠けてないようにね!」
虎徹がニコニコしながら言うが、全くもって縁起の悪い冗談である。暗闇先生以外は全員顔を引きつらせてそのバッドジョークにドン引きしていた。
チーム虎徹は鳥車に乗って草原を駆け抜け、丘をくだり、森を抜け、軽快に順調に進んでいた。どうやらセカンドアースはファーストアースよりも自然が豊かで空気が美味しいらしい。きれいな景色と澄んだ空気に魅了されすっかり任務のことなど忘れ遠足気分でいた。
あの頭のおかしい講師が変なことを言い出すまでは…
「そろそろ目的地だし今日は天気もいいからここからは徒歩で行こうか!」
その軽弾みな発言に3人が危ないからちゃんと鳥車で行こうと提案するが、
「大丈夫だって〜!もうここから15分もしないし〜。この森を突っ切ればすぐだから!」
典型的なフラグだと零夜は感じていたが、虎徹がここまで言うのなら問題はないだろうと思ってしまった。
そしてそれは零夜以外の2人もそうだった。虎徹が鳥車の御者に大丈夫ですと伝えると、御者は一言、お気をつけてとだけ言って元の道を引き返していった。
森の空気は涼しく心地よかった。自然由来の香水の香りが鼻から入り、体いっぱいに伝わる。そんな心地よさに感動していたとき、虎徹が雰囲気を思いっきり壊すような驚きの発言をした。
「オッカシーナ〜!ここらへんだと思うんだけどな〜」
そうはいっても周りには木や草しかなく到底「村」と認識できるものはなかった。つまり………
「え…それって迷ったってこと…?」
「いやこの地図通りに来てるからそんなはずはないんだけど〜」
3人が虎徹の持つ地図を覗き込むと、そこには小学生、いや幼稚園児が描く絵よりもっと酷いものが描かれていた。それを見た零夜は、
「アー、コンナトコロニオイシソウナキノコガアルゾー」
と言い、完全に現実逃避。近くのいかにも毒のありそうなキノコを食べようとするので全員でそれを止める。
「待て零夜ぁ!早まるな!」
「もういやー!おうちに帰るー!もがもがっ」
パニックになって奇声をあげ始めたところで虎徹が零夜の口のなかに手ぬぐいを突っ込み素早くテープで口まわりを巻いた。なおも抵抗しようとするので体中をロープで巻いてそのまま引きずって行くことにした。
「ふぅー、やっと静かになったね!」
「ぼぶばばびばべんぼべぶぶびべぶばばび(もう騒ぎませんので許してください)」
しかし零夜の言っていることなど気にも止めずに先に進んでいく。引きずられてから10分、尻が痛い。引きずられているせいで服にも汚れがついた。それより気になるのがここまで進んでいるのに未だに森を抜けられない上にどんどん森らしさが増してきていることだ。徐々に日光も当たらなくなってくる。
「はぁ( ´Д`)=3、もうしょうがないから空から確認するよ…」
全員がそれができるなら最初からやれと言わんばかりに落胆の目で虎徹を見る。なぜこうも毎回無茶をしたがるのだろうか。もしかすると拳心よりも零夜よりも無邪気かもしれない。
パッ!タッ!パッ!
虎徹が華麗な身のこなしで複数の木を飛び渡り一本の木のてっぺんにたどり着いた。見るに、進んできた方向とちょうど垂直の方向に村が見えた。どうやら地図通りに進んだはずが違う方向に進んでいたようだ。
責められるのを覚悟で虎徹が木から降りてその旨を皆に伝えようとしたとき、3人はなぜか動けずにいた。 何が起きたのか。それは彼らの後ろを見れば簡単だった。
「そこを動くな」
弓を構えた複数人の男が零夜たちに狙いを定めて今にも放とうとしている。少しでも反撃の素振りを見せたら容赦なく撃つようだ。それを本能で察した3人は身動きを取ることができなかった。まぁそもそもロープで縛られているミノムシ零夜は残りの2人に任せるしかないのであるが。
「もしかしてこの近くの村の人ですか〜?」
3人は射られるかもしれない恐怖で動けずにいる。だがこの男だけは違った。能天気な口調で男たちに話しかける。
「動いたら…射る!」
「だめだよぉそんなに力を込めたら〜コントロール悪くなっちゃうよ〜?」
気づけば先ほどまで10メートル以上距離があった虎徹が1人の男の後ろに立っていた。そのことに零夜はおろか、弓を持った男たちでさえ反応することができなかった。
「何?!」
そのまま虎徹は強いパンチ(本人はめちゃめちゃめちゃめちゃめちゃ手加減しているパンチ)をその男の腹に叩き込んだ。その衝撃で男は何本もの木を突き破りながら遠くの木まで飛ばされる。
先ほどまでは完全に男たちのペースだったが、規格外の登場により、一気に劣勢に立たされる。危険を感じ隊長と思わしき人間が背中から槍を取り出し虎徹に向かって走り出す。
「でやぁぁぁ!今だっ!放てぇ!」
隊長は自らの危険を顧みず、果敢にも一人で突っ込んだ。そして仲間に矢を放つように指示をする。しかし誰一人として打つことはしなかった。その光景に驚く隊長だったが、
「なぜ放たない?!」
パシッ!
隊長は虎徹に槍を掴まれ身動きがとれなくなった。
「くっ!あいつら腑抜けたか…」
「それは違うよ。彼らは君のために矢を放たなかったんだ。」
「俺の…ため?」
隊長なら気づけと言わんばかりの顔をする虎徹。
「だってさー、あの場面であいつらが矢放ったらどうなるかぐらいわかるでしょ?頭に血がのぼってなかったらね〜」
思わずハッとする隊長。何かに気づいたようだ。
「お前ら…まさか俺に矢を当てないために…戦場での情は身を滅ぼすだけだと教えただろう?!」
「それでも!俺たちに良くしてくれた隊長を射ることはできませんっ!」
隊員が口をそろえて叫ぶ。目には涙が浮かんでいる。
「お前ら…」
なんとも感動的な場面だろう。しかしこのような場面で雰囲気を壊していくのがこの男である。
「もーいい?話は済んだ?…というかこの男の言うとおりだよ。戦場での情は無駄なんだって。隊長の命なんか気にせず打てばよかったのに。それでも僕に傷は付かないけどね。だから負けるんだよ?」
そう言うや否や隊員が全員一気に意識を失い倒れる。
零夜たちには虎徹が一歩も動かずに攻撃したように見えた。事実、虎徹の足は同じ場所にある。常人には見えなかったであろう一撃。しかしそれは確かに繰り出された。見えていないだけで、虎徹は目にも止まらぬ速さで10人ほどを制圧したのだ。
「なるほど、これは俺たちでは歯が立たないわけだ。」
その言葉を最後に隊長も虎徹の手刀により気絶した。
「さて答え合わせをしに行こうか!この人たちが僕たちが目指す村の住人なのかを」
さて問題となったのがこの村人と思わしき男たちの運び方だ。どのようにするか考えたが4人で運ぶのは現実的ではなかったので結局まとめて縄で縛って引っ張っていくことにした。しかしよく見ると確実に村人ではない人間が一人縄に縛られている。
「よっしゃ!出発!ってうんなんで俺まで縛られてんのかな?」
当たり前のように引っ張っていこうとする3人にすかさず突っ込む零夜。3人が同時に、
「また騒がれても困るから」
「ギャー!騒がない!騒がないからこの縄解いて!」
と早速騒ぐ零夜はそのまま男たちと一緒に村まで引きづられていくこととなった。虎徹が空から村を確認してからの道のりは順調だった。最初からそうしていればよかったものを。しかし3人は未だにある疑問を払拭できずにいた。
「そう言えばあの地図は誰が描いたの?」
そうだ。すっかり忘れていたが男たちに襲われた原因はあの幼稚園児が書いたような地図のせいだ。
「あれは塾長が書いたものだよ」
塾長といえば最初の入塾式で話していたあの爺さんのことか。きっちりしてそうな感じだったが、案外不器用なのかもしれない。いや、そうに違いない。
「あ、あれじゃないかな?」
出発から5時間ほど、鬱蒼とした森を抜けようやく目的地の村を発見した。空はすでに赤く成り始めている。
「パパ〜!」
何人かの子どもが向こうから笑顔で走ってくる。
「あれ?パパ…じゃない?」
走ってきた子どもたちはどうやら自分たちのパパが帰ってきたのだと勘違いしたようだ。虎徹の足元まで走ってきて不思議そうに虎徹を見上げる。こうして見ると、虎徹の大きさがよく分かる。彼は身長187センチくらいあるだろうから小さい子供と比較するとその差がありありと分かる。
「待ちなさい〜!」
子どもたちの後ろから一人の女性が走ってくる。
「あなたたちは…?」
普段見かけない人間の存在に驚く女性。集まっていた子どもたちが女性の後ろに隠れる。
「あー、僕たちは…!」
その時虎徹の近くの家から1人の老人が出てきた。年齢は70歳ほどに見える。杖をつき、よちよちと歩いてくる。
「こんな辺鄙な村に来るとはいったいどこの旅人かな?ん?後ろにいるのは…」
「あー、僕たちはあなたがたの依頼を受けてやって来た祓魔塾の者です。こちらにいる男の方たちに道中突然襲われたのですが…」
「シモン!」
女性が叫ぶ。やはり襲ってきた男たちはこの村の人間だったらしい。縄で縛られている彼らを見て長老は深く頭を下げた。
「村の者が大変失礼しました!わざわざ我々の依頼を受けて下さったのに⋯」
女性が彼らの縄を解こうとして何かに気がついた。
「ん?1人私たちの村の者ででないのが縛られていますが⋯」
ムー!モガモガッ!
その男は縄から脱しようと暴れている。
「あぁいいですよその子はこのままで!」
虎徹が笑いをこらえながら平然を装った口調で話す。他の二人も同様にそっぽを向いて笑っている。
そこでようやくシモンと呼ばれた隊長が目を覚ました。隣にいる零夜に向かって、
「なんだお前は?」
「お前こそ何なんだよ!」
「俺はシモン!この村の防衛戦線部隊隊長だ!で、襲いかかった俺達はまだしもなんでお前まで縛られているんだ?」
「それがよー聞いてくれよ!なんか騒いだら虎徹先生に縛られてよー」
「ぷっ!馬鹿だなぁ!」
腹を抱えて大爆笑する隊長ことシモン。その様子に腹がたった零夜は、シモンに頭突きする。両者譲らず頭を合わせ続けバチバチしている。
「お前だって虎徹先生にボコされたくせに!」
「あん?あんだけ強いやつに勝てるわけねぇだろ!!」
「確かにそれはそうだわ。それより全く俺ら可哀想だよな、縄で縛られて」
「あぁ⋯!お前とは気が合いそうだな!」
頭突きのしあいをやめ、打ち解け合う二人。それを見かねた虎徹と女性が縄を解き始める。森を彷徨っていたせいであっという間に空は完全にオレンジ色になった。
「さて本日はもう遅いですし明日改めて依頼の説明をするので空いている宿舎でお休みください」
長老により案内された宿舎で零夜たちは夜を越すことになった。できれば今日依頼について聞きたかったが焦っても仕方ないので寝ることにした。一方の虎徹は宿舎の屋根に腰掛け、零夜が人喰いの森から帰参し昏睡状態になっているときのことを思い出して目を細めていた。空には月が昇っている。
ー緊急臨時講師会議にてー
祓魔塾の講師が集まる講師会議、議題は人喰いの森での件だった。
「⋯それでは今回特選組が襲われたのは偶然ではなく誰かによる故意的な操作があったということですか?」
「⋯はい⋯あの⋯特級怪魔は奇妙な⋯強化のされ方を⋯していましたから⋯私があたりの怪魔を一層したにも関わらず⋯」
この陰気口調で話すのは暗闇影男よりほかいない。現場で特級怪魔と相対した彼がこう言うのだから間違いはないだろう。
「でー?残穢がないなら誰が犯人かわかんなくないー?」
「それに関してはわしから話そう⋯この都の結界はわしが取り持っていることは皆知っていよう。それ故結界外からの干渉や異常があればわしが感知できる。しかし、今回はそれがなかった。つまり⋯」
「結界内、祓魔塾か街に怪魔側の人間がいる⋯?!」
「そういうことじゃ。あくまで可能性の話だがな。各学年の特選組担当はくれぐれも気を抜くことがないように。無論それ以外も然り。もしかすると狙いは虎徹が連れてきた1年の⋯」
1人の講師があらかじめ塾長が用意した資料を見て驚く。そこには1人の名前が赤字で書かれていた。それはかつて幻魔を追い詰めた栄光の世代筆頭の孫、
「神代零夜⋯蓮華真珠功の継承者⋯!」
第十二話読んでくださりありがとうございます!ようやく試験が終わり活動を再開する事ができました!これからも頑張っていくので応援よろしくお願いします!
さて、今回辿り着いた東の村では一体何が起こるのでしょうか。初任務編いよいよ始動!次回をお楽しみに!
次回 第十三話 2026/10/23(金) 公開




