第十三話 祓魔塾二年の力(1)
「それでは改めて依頼の説明をしよう」
翌日広場に集められた4人は長老から説明を受けることになった。空は快晴とまでは行かないものの心地よい陽気である。依頼の内容は、村の周辺の怪魔の討伐と調査だ。普段は防衛戦線部隊が対処しているのだがどうも最近急に大量発生するようになって猫の手も借りたい状況らしい。まぁ猫の手では祓魔できないのであるが。
「それでシモンたちに森を探索させて怪魔を討伐させていたんじゃ。その最中にあなたがたと出会って交戦したようだ。なにせ最近は怪魔に組する野蛮な連中も出てきているらしいからの。どうやら勘違いをしたらしい。誠に身勝手で申し訳ないが彼らを許してやってほしい。」
長老は依頼を説明するとともに再び深々とお辞儀をした。どこまでも礼儀の正しい長老である。
「問題ありませんよ。気にしていませんし、むしろ僕が攻撃した彼らの身のほうがよほど心配です。かなり手加減はしましたが…。大丈夫ですか?」
確かにそうだ。虎徹は襲われたものの攻撃は一切受けていない。一方のシモンたちは正当防衛とはいえ虎徹に、最強祓魔師に攻撃されたのだ。当然無事ではないように思えたが、
「あぁなんとかな。まだ若干首が痛えけど気にしちゃいないさ」
虎徹に手刀を叩き込まれたシモンは首をさすり朗らかに笑う。他の人達もシモン同様そこまで重傷ではないようだ。
「それで?俺らはどうすりゃいいんだ?」
「クソガキと他の3人には俺らと一緒に周辺の警備を手伝ってもらうつもりだ」
「クソガキって?」
「君しかいないんじゃねーの?」
後ろの泡子が風船ガムをぷーっと膨らませながらぶっきらぼうにそう言った。
「え」
零夜が顔を赤くして怒るその様子を見てシモンは槍を肩にかけ満足気に笑った。
一方のチーム暗闇はというと……
1日前に遡る。
虎徹のような無鉄砲がリーダーではないので、特に何も起こらず比較的順調に進んでいた。1人負のオーラを出して鳥車の上に座っている暗闇先生のおかげなのだろうか。
「君たちに真面目な質問を2つします」
いきなり勉励が真面目な口調で反対側の席に座る拳心と五右衛門の2人に問いかける。
「君たちは……童貞ですか?」
意味のわからない質問だ。意図がわからない上にそもそもそれを知って何になるのか。2人ともポカーンと口をあける。
「……はい?」
拳心が聞き間違えかと思い、もう一度尋ねるもやはり同じ質問が返ってきた。いったいなぜそれを問うのかと尋ねると、
「いいから質問に答えろよワイルドボーイども!それによってオレとお前たちとの関わり方が変わる!これは死ぬか生きるかと同じくらい重要な問題なんだ!」
どうやら興奮状態で何を言ってもまともに話が通じないようだ。いきなりのむちゃくちゃに勉励の隣に座る波羽はクスクスと笑って、半分諦め口調になりながら
「まーた始まったよ、勉励の童貞かそうじゃないか問題。玲瓏座、伊邪那岐、こいつは初対面のやつには毎回これ聞いてんだ…勉強のしすぎの弊害かな…?」
「俺はそうだけど…」
「私もだが…」
2人とも自分の口からその言葉を発するのに抵抗があるらしくそっぽを向く。直後、
「おー!我が勇ましき後輩たちよ!どうやら僕と君たちとは固い絆で結ばれているようだ!これは運命!いや、宿命…」
全くの暴論にそろそろ波羽が終止符を打つかと動こうとしたところで、
ブワッ……!
身の毛がよだつようなすさまじいオーラを全員が屋根の上から感じた。恐ろしいほどの霊力であり、気を抜けば今にもその餌食になりそうだ。皆が震えていると、上から
「もう少し…静かに…してはくれませんかね…眼鏡山君…」
「す、すみません…」
「それより暗闇先生これ以上その霊力を出すと鳥車の御者さんが耐えきれません………」
無論この場を脱したいという気持ちもあったが、事実、拳心の言う通り御者があと一歩のところで気絶しそうになっていた。ようやく暗闇先生が霊力放出を緩めると、体がこわばっていた全員が解放される。
「もう一つの質問をしましょう。」
先程よりやや小さい声で暗闇先生に聞こえないようにする。
「なんでこっちのチームには女の子が一人もいないのですか?!モガガガ?!」
再び大きな声を出そうとする勉励。今度は暗闇先生が霊力を解放する前に波羽が勉励の口を塞ぐ。幸いにも暗闇先生はぼーっとしてたのか聞いていないふりをしていたのか分からないが、霊力を飛ばしてこなかった。
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
チーム暗闇はチーム虎徹と異なり、日がまだ照っている時間帯に到着した。鳥車の御者に感謝をして村へ入っていく。目的地の村は非常に静かだった。5人が歩いていても誰一人として家から出てくる気配がない。誰かいないかと声を上げながら散策していると、
「なんか臭くね?」
拳心が鼻をつまむ。拳心に言われるまでは気付かなかったが、言われてみれば異臭がしないこともない。歩くに連れその臭いはより確かなものへと変わった。その答えは一件の家の裏にあった。
「うおっ?!」
拳心が驚き、突如その歩みを止める。
角を曲がるとそこには男の死体が5つ、6つほど転がっていた。どれも四肢断裂、見るも無残な姿で放置されている。その山の上に1つ死体を貪る異質なものがいた。怪魔だ。そいつはあぐらをかいて両腕に携えた人の腕を聞くに堪えない音でバリバリと食している。暗闇先生たちが来たことに気がつくとこちらを振り返り血に塗れた口を綻ばせてニヤリと笑った。そして低くかすれた声で、
「お゙⋯ま゙⋯えも⋯食べ⋯る゙⋯?」
「怪魔が⋯しゃべった?!」
「今まで言葉を話す怪魔なんか出会ったことないですよ?!」
勉励と拳心が同時に驚く。無理のないことだ。彼らは今まで怪魔と幾度となく遭遇してきたが、人間と同じ言語を話す怪魔とは出会ったことがない。五右衛門と波羽も態度に出さないだけで内心驚いていた。
しかし、暗闇先生だけは違った。
「みなさん…落ち着いてください…怪魔は…喰らった魂の数だけ…強く賢くなります…この怪魔もおそらく…数え切れないほどの魂を…喰らったのでしょう…」
暗闇先生は落ち着いた声で、それでも怪魔から意識を背けることなくしっかりと怪魔を見つめる。
直後、怪魔の姿が骸の山から消える。
「ーーー!」
凄まじい速さでヒュンヒュンと音を立てながら建物を蹴り飛び回る。速すぎて目で追うことは不可能だ。どこかのタイミングで確実に攻撃を仕掛けてくる。それを理解している全員は攻撃に備える。誰が最初の標的となるか。
カキィィィン!
怪魔が狙いを定め、縮まっていたばねのように一人に向かって飛んでくる。それはーーーーー
「む…!私か…!」
五右衛門が辛うじて鞘で攻撃を食い止める。抜刀する時間はなかった。いや、見えない攻撃を受けきったことがそもそもすごいことなのだろう。受けた刀がキシキシと音を立て怪魔の力の強さを物語る。
「キヒヒヒッ!」
怪魔は鞘から手を離し空中で半回転するとそのまま五右衛門に蹴りを入れた。しかしこれも五右衛門は鞘で軽く受け流す。そのおかげで飛ばされることなく、一歩のけぞる程度で済んだ。
五右衛門に攻撃を防がれたのを見て、怪魔は再びヒュンヒュンと音を立て建物を飛び渡り始めた。
「にゃろう!」
拳心が半笑いでしきりに飛び回る怪魔を目で追おうとする。今ここで考えられる祓魔方法は3つだ。1つ目は怪魔の足場である建物を破壊し、地上戦に持ち込む方法。だけど、これはもし建物の中に人がいた場合彼らを巻き込んでしまう。2つ目はひたすら遠距離から攻撃をし続ける方法。拳心たちの霊力が途中で尽きる可能性があるからこれも得策とは言えない。3つ目は暗闇先生一人に頼る方法。これは論外。おそらく彼に任せたらこんな怪魔祓うのにそう時間はかからないだろう。何より拳心たちの育成にならない。誰もが具体的な策を思いつけずにいたその時、
「虫巣くん…お願いします…」
「わかりました」
ー虫羽使操功 第一技 紅粉青蛾ー
波羽が武功を展開したとともに数千匹の蛾が一斉に現れ空の一箇所に集まった。目にも止まらぬ速さで飛び回る怪魔。波羽の合図でやつに蛾が纏わりついたかと思うとそのまま動きを封じ込め、建物の壁に固定した。あの速さの怪魔を止めるなんて信じられない。
「〜〜?!」
怪魔も自身の動きを封じられたことに驚きを隠せず、発狂する。必死に脱出しようともがくも蛾の拘束は強く抜け出すことはできない。
「でもあれじゃあ決定打には…」
拳心が拳を握りしめ武功を展開しようとすると、
「まー見ててくれよな」
フフンと得意気に波羽が笑う。一体どういうことなのか。見た感じだとあのままでは祓うことができないように思えるが。
刹那、怪魔の体が赤く光り始め、口から大量の血を吐き出す。これは一体…
「ぃ゙やだぁ゙まだぢにだぐなぃ゙ー!がびじもべいやぼごぼばなぎゃ!たずげ…べしゃ!」
蛾の大群に覆われた怪魔は汚い断末魔をもらし、壁に貼り付けられたまま崩壊していった。結局やつに抜け出す隙はなかったのである。肉体はすべて昇華し、後には魂が残った。あっという間の出来事である。
「な、何をしたんだ?!」
拳心と五右衛門が同時に振り返ると、波羽がニコニコしながらピースをする。
「毒と熱さ」
紅粉青娥は波羽の霊力で蛾を生み出し、意のままに操る技である。波羽が言うに、生成した蛾は毒粉を持っているらしい。加えて、たくさんの蛾が怪魔に集まることで熱を発生させ怪魔を溶かした。
「俺の武功の本質は虫を変幻自在に操ることにあるんだ」
初めて見る先輩の武功の強さに感激する拳心。自分の武功の強さとはまた違った強さがあるのか。今までそれなりに実戦を積んできたが、この手のものは見たことがなかった。特級怪魔といい、講師や先輩の実力といい、祓魔塾に入ってからは見たことない景色ばかりを見ることができている。
何はともあれ、急襲してきた怪魔を倒した一行。無残な肉塊となった人達に手を合わせる。暗闇先生が彼らが胸に「祓」と刻まれたバッジを付けていることに気が付いた。
「この人たちは…祓魔師…ですね」
「え?!」
「おそらく…私たちより…先に来て…住人と何かしら…接触が…あったと…思われます。そして…この怪魔と…遭遇し……」
暗闇先生がそこまで話したところで波羽が殉職した祓魔師にもう一度手を合わせ、涙を流す。
「あなた方の無念は俺たちが晴らします。どうか安らかに…」
「では村人は一体どこに行ったのでしょうか、そもそも生死は…」
一段落つき、勉励が皆に問いかける。確かにどこへ行ったのか。暗闇先生が言った通りさっきの祓魔師と接触があったのは間違いない。彼らが手引きしどこかへ避難させたのか、それとも皆すでに怪魔に襲われてしまったのか。
ゴゴゴゴゴ……!!
「その答えは…あそこに…あると思います…」
大きな音を立ててきしむ建物を指差して暗闇先生は鋭く目を細めた。
第13話読んでくださりありがとうございます!この1週間僕は体調不良で活動が全くできていませんでした。読者の方々、本当に申し訳ありません。
次回 第十四話 壁 2026/11/6(金)公開




