第44話 尋問と拷問
全身大火傷を負ったヒズが目を覚ます。全身に激しい痛みがあるが、それとは別に体を動かすことが出来ない。勿論、縄で縛られているからだ。
「うう…ど、どこだここは?」
痛みに耐えながら辺りを見渡すが、見覚えのない場所。と、そこで一人の女が立っているのを発見。
「おい、そこの女!何してやがる!早くこっちに来てこの縄を解け!俺様はエクレア王国第7軍の中隊長ヒズ様だぞ!」
怒鳴り散らすヒズに対して、女が静かに返事をする。
「…中隊長?ああ、昇進したのね。おめでとう。でも私に対してそんな口が利けるほど、出世をしたのかしら?」
「…?んな⁉︎パ、パイア様じゃありませんか!お探ししましたぞ!このヒズめが助けに参りました!」
「全身大火傷で縄で縛られて、それのどこが助けに来たってのよ?少しは自分の立場を弁えろ、このクズが!」
王女の暴言に驚くヒズであったが、現場の状況からして、一つの答えに辿り着く。
「ひょ、ひょっとして…私めを縛り上げたのはパイア様で…?」
「当然でしょう?これからあなたに尋問をするのよ?暴れられたら困るじゃない?」
「は、はは…御冗談を!その様なお戯れは…」
「いい加減、空気を読みなさい。私が冗談を言ってる様に見えるの?」
そう言うと、パイは容赦無く動けないヒズを蹴り飛ばす。呻き声を上げるヒズに対して、パイは更に畳み掛ける。
「いい?単刀直入に聞くわよ?あなたが私を探してたのは…私を殺す為?」
「そ、その様な事はありません!私はただ、行方不明になったパイア様を心配し…」
「はい、嘘。私はね、物心付く頃には、人の顔色を窺いながら生きる術を身につけてきたのよ。これ以上嘘をつくなら、嘘をつく度にナイフを刺していくから。そのつもりで答えなさい」
パイはナイフを数本取り出した。それを見てヒズはビビりながらも、話を続ける。
「いえ、嘘ではありません!私めの任務はパイア様の捜索であり、殺すなどと言う事は…」
「はい、嘘。約束通り、一本目〜」
パイは持っていたナイフを一本、ヒズの足へと何の躊躇もなく突き刺した。血が滲み出るが、ポーションを少しかけて止血。
拷問部屋にハイポーションが備え付けられている様に、拷問には止血のポーションを必要とする。出血多量で簡単に死なせない為の配慮だ。
「ぐふぅ…!」
苦悶の声を上げるヒズであったが、パイの質問は止まらない。
「次の質問よ。捜索隊の人数は何人?」
「に、二百人体制で…今日、見つからなければ明日は更に人数を増やす予定で…」
「…それだけじゃないでしょ?」
「バ、ババロア王国にも捜索の依頼はしたはずです。国境を超えている可能性がありましたから…」
「よろしい」
最初の質問では嘘をついたヒズ。そこでパイは、次の質問を「嘘はつかなくていい質問」にしてみたのだ。全ての質問がヒズの答えられない質問では、沈黙しかしなくなるだろうと判断したからである。
そこで緩急をつける為に「簡単な答えられる質問」にした。そして次の質問。今度は答え難い質問だ。
「次は…今から三月程前、新人冒険者が沢山殺された事件があったわよね?あの事件について知ってる事を全部答えなさい」
ヒズの額に冷や汗が流れる。あの事件はパイと冒険者ギルドとの関係を断ち切る為に、ナーム女王が計画して起こした事件。そのままパイに全貌を話せるわけがない。
必死になって言い訳を考えるヒズが黙り込むと、それを答えと判断したパイがナイフを再び突き刺す。
「はい、時間切れー。私に話せない内容だと、吐露してますねー」
「ぐはっ⁉︎」
二本目のナイフがヒズの足に刺さり、止血のポーションがかけられる。だが、質問に終わりは無い。
「次の質問…今から三月程前、新人冒険者が沢山殺された事件があったわよね?あの事件について知ってる事を全部答えなさい」
同じ質問だ。勿論、答えられない。嘘をつけば見抜かれるから、ヒズの選択肢は沈黙しかない。つまり、三本目のナイフが突き刺さる。
「はい、時間切れー。私に話せない内容だと、吐露してますねー」
「や、やめ…ぐはっ!」
「では、次の質問…今から三月程前、新人冒険者が沢山殺された事件があったわよね?あの事件について知ってる事を全部答えなさい」
三度、同じ質問。ヒズの選択肢から沈黙が消失。目に涙を浮かべながら、ポツリポツリと事件について語られる。
◆
「…それで、あなたの知ってる事は終わり?」
「はい…以上です…」
結局、知ってる事を全て吐き出したヒズ。それに対して、パイは大きな溜息を吐く。
「まあ、分かってたことだけど…改めて聞くと、本当にふざけた話よね?そんな理由で新人冒険者を34名も殺しにかかるなんて…」
「し、仕方がなかったんです…ナーム女王に逆らえる訳もなく…仮に自分が拒否しても…自分以外の者が、代わりにやるだけでしょうから…」
「ええ、そうね。正論よ。だからあなた一人の責任じゃないわよ」
「なら…」
「だから…私があなたを裁く事はしないわ。あなたを裁くのは、被害者の新人冒険者がするべき仕事でしょうからね」
「え…?」
パイの発言の意味が理解できないヒズであったが、そこでパイ以外の何者かがヒズに答える。
『ふう…本当にふざけた話だな…ああ、黙って聞いてるのが本当にストレスだった…パイちゃん、すまない…なら、俺が裁かせてもらうよ…』
「だ、誰だ⁉︎他に人がいるのか⁉︎」
警戒するヒズの前に、地面から触手が現れた。そして残りのナイフをヒズの体へと突き刺していく。
「ギャアアアアアッ⁉︎」
『このナイフはお前に殺された新人冒険者達が所持してたナイフだ。どうだ、痛いだろう?』
「や、やめ…だ、誰なんだ…」
『誰なんだ?おいおい、寂しい事を言うなよ。お前に殺されかけた新人冒険者の生き残り、ダンだよ』
「…?」
『俺はあの時、死ぬ運命だった。だが、ひょんな事から迷宮族のジョンとその肉体を交換し、こうやって魔族として生きながらえることに成功した。そして今、あの時の復讐を遂げる為に…お前を捕獲したんだよ!』
「う、嘘だ!そんな話、ある訳…」
『嘘つきのテメェと一緒にするな!この新人冒険者達の無念のこもったナイフが、その証!そしてナイフはもう無いが…無念のこもったショートソードなら、まだこれだけあるぞ!』
そう言ってダンは、新人冒険者から回収したショートソードをアイテムボックスから全て取り出した。
そして全身にナイフが突き刺さったハリネズミ状態のヒズに対し、今度はトドメのショートソードを突き刺して行く。
『これは新人冒険者達の仇だっ!受け取れ!』
「ギャァァァァ!」
全身、大量のショートソードで滅多刺しになるヒズ。そしてすぐにピクリとも動かなくなった。
動かなくなったヒズは、刺さったナイフやショートソードと共に、ズブズブと地面に飲み込まれていく。
『ふん。これで少しは、無残にも死んでいった新人冒険者達の供養にはなるだろう。テメェみたいなクズでも、最期にはダンジョンの糧となれたんだ。感謝しやがれ!』
吐き捨てるダンに、パイが労いの言葉をかける。
「お疲れ様。これで少しは気が晴れたでしょ?」
『まあね。新人冒険者達の苦悶の死に顔が頭にこびりついてたから、少しは楽になれたよ。でも、俺のことよりかパイちゃんのことが心配だよ…』
ヒズから聞き出した事は、新人冒険者大量殺人の件だけではない。パイがここに亡命した後のことも、出来る限りの情報は聞き出した。
「私の心配?何を言ってるのよ。開戦の狼煙は上げたんだし、何も問題は無いじゃない」
そう言ってモニターでダンジョンの入り口を確認する。
火計により、入り口を煙が燻る。このダンジョンが人類に敵対する存在だと、世間に知らしめた証だ。
ダンジョン内からダンジョン外への攻撃。恐らくは迷宮族史上、初であろう攻撃だ。それは人類にとって、大いなる脅威。
その脅威となるダンジョンが、宣戦布告とも取れる開戦の狼煙を上げたのだ。これは人類が総出で対処しなければならない程の、重大案件だと思われる。
だが、問題はそれだけでは無い。
『いや、開戦の狼煙もそうだけどさ…パイちゃんの父ちゃんが死んだ事とかもさ…』
パイの父であり、病床に伏せていたエクレア王国の国王、ダブツ王は死んだ。それもパイが王宮に火を放ち、それが原因で焼死したとのこと。
だが、実際には火災は普通に鎮火されたのだ。負傷者は出たものの、死者は出ていない。つまり、火事のどさくさに紛れて国王は暗殺されたのだ。
そしてその罪は、パイの放火による殺人事件として処理された。
殺人犯として国際指名手配されたパイ。つまり、世界的なお尋ね者へと身を落としたのだ。だが、パイはそんな事は気にしない。
「なに?私が国際指名手配されて、王女じゃ無くなったら魅力が無くなったっての?」
『いや、そう言う訳じゃ…』
「なら、心配無用。開戦の狼煙を上げたからには、戦争の準備をしないとね!」
実父の死に、全く動じないパイ。濡れ衣を着せられても、一向に動じないパイ。これは今までのパイの生活が、それ以上に酷かった事を意味する。
伏魔殿を生き抜き、亡命を果たしたパイ。その先にあるのは魔族との共闘、そして魔族としての人生。
何も恐れる事は無い。これがパイの最も望んだ夢なのだから…。




