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彼女を探してネトゲを始めたら、俺の結婚式に元彼女が来た  作者: 雨宮かなめ


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第6話 俺の席だけ、空いていた

「こんばんは」

「こんばんはー」

「今日はフェイヨン行こう」

「……どちら様ですか?」


 俺は画面の前で固まった。

 壁際に三人座っているから、てっきり、うちの三人だと思ったのに。


 ミナから耳打ちが届く。


『なつき、こっち。そこ、別のギルドの人たち』


 慌てて、目の前の名前を確かめる。誰も知らない。


「すみません、人を間違えました」

「よかったら一緒に行きます?」

「いや、友達を待たせてるので!」


 笑顔のエモーションに見送られながら、隣の建物へ逃げ込む。

 その陰では、ミナたちがちゃんと待っていた。


「先輩、知らない人まで誘ってた」

「三人いたから」

「三人なら、誰でもいいの?」

「そういう意味じゃないだろ」


 そう返しながら、俺はあらためて三人の名前を見た。

 昨日はこの辺で休憩していたはずだ。けど、今日も同じところにいるとは限らない。他の人だって、座る。


「そろそろ、溜まり場決めない?」

「溜まり場?」

「いつも集まるところ。ログインしたら、そこに来れば会えるように」


 ミナの説明に、ケイもいいですねと返してくれた。


「俺も、毎回どこにいますかって聞かなくて済むので」

「それ、お金かかる?」

「かからないよ。場所決めて、座るだけ」

「なら作ろう」

「無料だと決断が早い」


 ユイまで笑っている。

 エンペリウムのおかげで、ギルドの用意には何でもお金がかかる気がしていた。


「帰ってから探そう。今日は俺も攻撃するから」

「道案内は、俺がやりますね」


 ケイについて、四人で街を出る。

 今日は机のメモも、キーボードの横に置いてある。


     *


 ゾンビへのヒールは、昨日と同じように出せた。

 Shiftを押して、魔法を選んで、敵をクリックする。覚えてしまえば、毎回メモを見るほどのことでもない。


「先輩が攻撃してる!」

「昨日覚えたからな」

「今日も覚えてたね」

「一日で忘れるなよって話だろ」


 ユイが落ちたものを拾い、ケイが次の敵を探す。その間に、俺は減った体力を戻す。

 自分でも攻撃できると、敵が来るまでの待ち時間が短く感じた。


 慣れてきたところで、ケイが二階の話を出した。


「少ないところで、一匹ずつならどうでしょう」

「昨日、剣持ってる骨がいた」

「ソルジャースケルトンですね」

「そう、それ」


 名前が出てくれば、さっき聞いたことくらいは分かる。

 昨日のリョウは、何匹も一緒に倒していた。それを一匹ずつ、四人でやるなら、できるかもしれない。


 階段を下りた先で、ケイが足を止める。

 通路を歩いていた骨が、こっちへ向きを変えた。


「俺が前に出ます」


 剣と剣がぶつかり、ケイの体力が減る。

 俺はまずヒールで戻してから、指をShiftへ移した。同じヒールを、今度は骨に。

 光が弾ける。その横から、ユイの短剣も届いた。


「なつき、回復」


 ミナの言葉に、俺はケイの体力を見直す。

 攻撃している間に、また減っていた。


 Shiftから指を離し、ケイを選ぶ。

 魔法は同じなのに、押すキーと相手で、やっていることが変わる。どっちもできるからといって、どっちもずっとやれるわけじゃない。


 通路の端から、もう一体の骨が来る。

 ミナの前に、炎が並んだ。


「こっちは私がやる。なつきは、ケイさんを見てて」


 炎を踏んだ骨の上で、数字が続けて跳ねる。

 ユイがそちらへ走り、俺はケイの体力を戻す方へ専念した。


 昨日の二人みたいには、いかない。

 俺が回復している間にも、ケイは殴られる。ミナの魔法が終わるまで、ユイも何度か短剣を振る。

 ようやく一体が崩れ、次の一体へ四人の攻撃が集まった。


 最後は、俺のヒールだった。


「倒せた!」

「はい。いけますね」


 ケイの返事を読みながら、俺はもう一度、全員の体力を確かめる。

 回復していると、ユイが骨の落としたものを拾って戻ってきた。


「昨日はリョウさんたちと来たんですよね」

「うん」

「今日は四人でも倒せたね」


 そうだ。

 さっきの骨は、四人で倒した。俺も、攻撃と回復の両方で加われた。


「もう一匹いこう」

「なつき、SP見て」


 ミナに言われて、青い棒を確認する。

 思ったより、残っていない。


「……休憩してから」

「そうしよう」


 四人で座ると、今度はミナの魔法について聞けた。


「さっきの炎、すごかったな」

「ファイアーウォール。最近、ちゃんと使えるようになってきた」

「俺がいる方にも置ける?」

「敵の方にね。なつきを燃やしてもしょうがないでしょ」


 壁みたいに並んだ炎を、俺は思い返した。

 覚えたいのは、エリを回復する魔法だけでよかったはずなのに。他の人が何を使っているのかも、少し気になる。


「もっと大きい魔法も使いたいんだよね」


 ミナが、通路の奥を向く。

 遠くには、弓を持った骨もいた。


「ああいうの、まとめて倒せるくらいの」

「それも覚えられるの?」

「ウィザードになったらね」


 俺がプリーストを目指しているように、ミナも自分のなりたい職業を目指している。

 当たり前のことなのに、今、思い出した。


     *


 街へ帰る頃には、夕飯の時間が近づいていた。

 それでも、溜まり場は今日のうちに決めたい。


「回復薬を買う店の近くだと便利です」

「倉庫も近い方がいいよね」

「私、四人で並べるところがいい」


 ケイ、ミナ、ユイ。それぞれに希望がある。

 俺は、分かりやすい目印があるところ、と付け足した。


「マスターが来れないと困るからね」

「一回覚えれば来れる」

「うん。じゃ、覚えやすいところにしよう」


 西門を出てすぐの辺りから探してみる。

 けど、座りやすそうな場所には、もう人がいた。別のギルドの名前。二人組。露店を開いている人。

 四人でまとまって座ろうとすると、誰かの集まりに混ざることになる。


「西、人いっぱいだね」

「下水の入口の近くまで行ってみます?」


 ケイについて少し歩くと、川と橋があった。

 近くにはカプラ職員も、道具を売る人もいる。買い物をしてから狩りに出るのにも、帰って拾ったものを預けるのにも、便利そうだ。


「川のところ、空いてる」


 ミナが橋のたもとへ寄っていく。

 俺たちもついていくと、四人で並べそうな場所が見つかった。


「ここなら、分かりやすいな」

「カプラも近いですし」

「聖水も、この辺の水場で作れるんだって」


 ミナの言葉に、俺は川を見た。


「聖水って、あの空きビン買ってくれた人が作るやつ?」

「うん。なつきも、魔法を覚えたら作れるよ」

「下水の水で?」

「川の水! 下水の中じゃないから!」


 ユイの頭に、笑顔が浮かぶ。


「川が見えるところ、いいと思います」

「でも、下水前って呼ぶの、あんまりなあ」

「じゃ、川のところって呼べばいいじゃん」

「人に説明するなら、下水前の橋って言った方が伝わりそうですけど」


 ケイは、そちらの方が気になるらしい。

 実際、俺も川と橋があれば、次は迷わず来れそうだった。


「とりあえず、座ってみよう」


 橋を渡る人の横から少し外れ、川べりにミナが座った。ユイが隣へ、ケイも続く。

 俺が端へ座ると、ユイから、先輩もっとこっち、と呼ばれた。


「離れてると、別のギルドみたい」

「今日はそれで間違えたからな」


 少し寄って、四人で一列になる。

 俺たちの名前には、同じギルドの名前。

 さっきまでの狩場と違って、体力が減る人も、追いかけてくる敵もいない。


「狩り行かない日も、ここ来ていいんだよね」

「もちろん」


 ミナの問いに答えると、ユイも、じゃあ暇な時はここに来ます、と続いた。


「ずっと狩ってなくてもいいのか」

「いいでしょ。昨日だって休憩して話してたじゃん」

「そうだけど」

「帽子の露店見てきて、高かったって文句言いに来るのにも使う」

「買えるようになってから来いよ」

「買えたら見せに来るよ」


 それを聞いて、俺も笑った。

 ミナの欲しい帽子は、相変わらず遠いらしい。


 ここなら、エリも呼べる。

 狩場についていけなくても、ここでなら一緒に座れる。レベルが離れていたって、話すことはできるはずだ。


 俺はエリへ、耳打ちを送ってみた。


『ギルドの溜まり場決めた。今度、来てよ』


 返事を待ちながら、分かりやすい目印をもう一度確かめる。

 場所を教えてくれるのは、いつも誰かの方だった。今日は、俺から教えたい。


『いいね。今度、顔出すね』


 すぐに返ってきた言葉に、俺は、今いるよ、と打ちかける。

 その時、部屋の外から母さんに呼ばれた。


「なつき、ご飯!」


 今日はもう食卓に来なさい、という声だった。


「ごめん。飯だから、一回落ちる」

「いってらっしゃい」

「またあとで、先輩」


 エリには、西門の外の、川と橋があるところ、と説明し、また今度、と返す。

 拾ったものを近くのカプラで倉庫へ預けてから、ゲームを終了した。


     *


 夕飯を食べ、皿を片づけて戻ってきても、三人はログインしていた。

 カプラの前から、橋のたもとへ歩く。

 今度は誰にも聞かずに、たどり着けた。


「おかえり」

「おかえりなさい、先輩」


 ミナとユイが川べりに座り、ケイもその隣にいる。

 ただ、ミナとユイの間だけ、一人分、空いていた。


「まだここにいたのか」

「私は露店見てきたところ。ケイさんも買い物してたよ」

「ユイは?」

「友達と耳打ちしてました」


 俺がいない間も、それぞれ遊んでいたらしい。

 けど、帰ってくる場所は、もう同じところになっている。


「狩り行く?」

「もうちょっと、ここで話さない?」


 ミナに聞かれ、俺は、いいよ、と返す。


「先輩、ここ。先輩の分」


 ユイが、空いたところを示してくれた。

 俺がそこへ座ると、また四人が並ぶ。


「じゃ、私、露店の報告していい?」

「帽子買えた?」

「高かった」

「もう聞いた!」


 ケイから、笑顔のエモーションが出る。

 ユイまで、私も欲しい装備見つけた、と言い始めた。


 何を買うか。次はどこへ行くか。

 途中で明日の学校の話になり、ミナに小テストのことを思い出させられる。

 回復薬を買い足してきたケイは、仕事のあとでログインしているらしい。俺たちより少し年上だと、ここで初めて知った。


 返事を考えて、打って、送る。

 誰かが話している途中でも、言いたいことを入力しておける。あとから読み返して、返事をしてもいい。

 電話で話すより、こうしている方が、俺には気楽だった。


 気づけば、狩りを再開する話は流れている。

 レベルは上がらないけど、時間はすぐに過ぎた。


「いい場所だな、ここ」

「うん。私も、ここ好き」


 ミナが返してくれる。

 俺は、そのあとも、しばらく立ち上がらなかった。


     *


 それから一週間ほど、ログインしたら、まず西門の外の橋へ行くようになった。


 ミナが先にいれば、今日どこ行く、と聞く。

 ユイが来れば、四人目を待つ間に、昨日拾ったものの話をする。

 ケイが遅い日は三人で出かけ、帰ってから合流することもある。


 俺たちが落ちたあと、ケイは一人でも少し狩っているらしい。あと少しで上がるので、と言って、狩場へ向かう日もあった。

 俺もヒールで一人で戦えるようにはなったけど、普段は誰かが来るのを待っていることが多い。


 狩場を変えながら、俺のレベルも三十八から五十になった。

 俺が分かる敵の名前は、まだ少ない。それでも、誰が前へ出るのか、誰が魔法を使っているのかは、前より見えるようになってきた。


 溜まり場では、通りかかった人に話しかけられることもあった。

 何人のギルドですか。一緒に狩りませんか。

 そう聞かれると、今度はちゃんと、自分の仲間の名前を見てから返事をする。


 エリも来るかもしれないと思って、周りを見ることはある。

 けど、今度顔出すね、の今度は、まだ来ていなかった。


 その夜も、狩りから帰った四人で座っていると、ケイから話が出た。


「俺、明日ナイトになりに行こうと思ってるんです」


 俺は、入力しかけていた狩場の名前を消した。


「もう?」

「はい。Baseは五十三で、Jobが四十になりました」

「おめでとう!」

「ケイさん、一番乗りですね!」


 ミナとユイの返事が並ぶ。

 俺は五十、ミナは五十二、ユイは俺と同じ五十。ケイは少し先にいるけど、いつもの四人で狩りに行けるくらいの差だった。

 俺もおめでとうと打ってから、ケイのキャラクターを見直した。

 明日には、この服も変わるらしい。


「リョウさんと同じ職業か」

「そうですね。あの人みたいに強くなるには、まだまだですけど」


 俺たちのギルドにも、ナイトができる。

 俺を前に出さないで、戦ってくれる人。

 それなら、俺ももっと強い敵のところへ行けるかもしれない。


「ミナも、もう転職できる?」

「私はまだ。Job五十まで上げてから、ウィザードになるつもり。マジシャンのうちに覚えておきたい魔法があるから」


 俺はキャラクターのレベルだけ見ていた。

 転職する時期も、なりたい職業も、みんなそれぞれに考えているらしい。


「ケイさん、明日、俺もついていっていい?」

「来てくれるんですか?」

「うん。みんなで行こう」

「私も行きます!」

「私も。帽子の露店も見たいし」


 ユイとミナも、すぐに続いてくれた。

 ケイの頭の上に、笑顔が出る。


「一人で行くつもりだったんで、嬉しいです」


 ミナが、集合時間を決めてくれる。


「じゃ、明日は七時くらい。ここで集合ね」

「分かった」


 俺は机のメモに、明日七時、ケイの転職、と書いた。

 集合場所は、書かなくても分かる。


 ケイが立ち上がり、明日は早く帰ってきます、と言う。

 俺はその背中へ、忘れずに返事を送った。


「明日、待ってるから」

「はい。ここで」

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