↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女を探してネトゲを始めたら、俺の結婚式に元彼女が来た  作者: 雨宮かなめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/7

第7話 うちのナイトには、俺がヒールする

 七時を二分過ぎた頃、MSNメッセンジャーにケイから文字のメッセージが届いた。


『すみません、今帰ってきました。五分くらい遅れます』


 画面を切り替えて返事を送る。


『大丈夫。溜まり場で待ってる』


 ゲームへ戻ると、ユイが川べりで俺の前を行ったり来たりしていた。


「ケイさん、もう来ます?」

「今帰ったって。あと五分くらい」

「じゃあそれまで写真の並び方決めとこう」

「転職する前から?」

「今日の主役が来てから相談してたら、また時間かかるでしょ」


 ミナに言われて俺も立ち上がる。

 ケイを真ん中にして俺はその横。ミナとユイが両端になるように並ぶ。

 四人並べる場所を選んだはずなのに、ちょっと動かすと間が空いたり誰かに重なったりする。


「先輩、もうちょっと右」

「こっち?」

「行き過ぎ」

「写真って難しいな」

「まだ撮ってないからね」


 そこへケイが走ってきた。


「お待たせしました」

「大丈夫。俺たちもまだ並べてない」

「何に?」


 ケイの頭に疑問符が出る。

 ミナとユイが笑う中、写真の説明はあとにして四人で出かけることにした。


     *


 ナイトになるために向かったのはプロンテラの騎士団だった。

 この街でギルドを作って買い物もしてきたのに、まだ入ったことのない建物がいくつもある。


「すぐ近くなんだな」

「はい。遠出するわけじゃないんです」

「ミナの帽子の露店もこの街で見ればよかったのか」

「私は最初からそのつもりだよ」


 ケイが入った建物へ俺たちも続く。

 中には同じように剣を持った人たちがいた。

 ケイの名前を確かめてから横に立った。今日は別の人についていくわけにはいかない。


「じゃあ話してきます」

「いってらっしゃい」


 ケイが騎士団の人の前へ進む。

 俺たちは横に並んで待っていた。


「何話してるんだろ」

「ケイさんの画面に出てるから、私たちには見えないよ」

「面接みたいだな」

「先輩まで緊張してる?」


 少し緊張しているとユイに返し、ケイの様子を見守る。

 昨日まで一緒に骨を殴っていた人が今日から別の職業になる。

 自分のことじゃなくても、いつ変わるのかは気になった。


 戻ってきたケイはさっきと違う服を着ていた。

 肩の大きな鎧になり、立ち姿まで少し堂々として見える。

 髪の色と頭の上の名前はそのままだ。


「なれました」


 俺はすぐにおめでとうと打った。

 同じ言葉がミナからも届き、ユイの頭にはハートが出る。


「ケイさん、かっこいい!」

「ありがとうございます」

「ちゃんとナイトだな」

「ちゃんとって。ナイトになりに来たんでしょ?」


 ミナに笑われても他に言い方が出てこない。

 見た目だけでは分からない職業も多いけど、ケイが変わるところはちゃんと見た。


「剣も変わるんですか?」

「いえ、しばらく今の剣を使います」

「じゃあ強くなったのは中身の方か」

「覚えられるスキルは増えますね。これから育てるところです」


 これから。

 転職したら完成するわけでもないらしい。

 それでも新しい鎧を着たケイを見ていると、俺まで嬉しくなった。


     *


 買い物をしてから街を出ようとしたところで、ケイへ声をかける人がいた。


「ナイトさん、今から狩りですか?」

「はい」

「支援プリです。よかったら一緒にどうですか?」


 俺はその人のキャラクターを見た。

 プリースト。エリと同じ回復する方の人。


 ナイトになるとこんなふうに誘われるのか。

 俺が何も言わずにいる間に、ケイが返事をする。


「ありがとうございます。今日はギルドの人たちと約束してるので。また機会があれば」

「了解です。楽しんできてください」


 その人が離れていく。

 ケイは俺たちの方へ戻り「行きましょうか」と言った。


「よかったの?」

「何がです?」

「プリーストと組めるんだろ」


 俺にはまだ使えない魔法も向こうは使えるはずだ。

 ケイが一人で上げていた時よりずっと楽に狩れるかもしれない。


「でも今日はみんなと遊ぶつもりだったので」


 「そうですよ」とユイも続く。


「転職したばっかりのケイさんと狩るのは私たちが一番です」

「順番決まってるのかよ」

「今日楽しみにしてたから」


 ミナも「転職のお祝いだからね」と言う。

 俺はもう一度ケイのキャラクターを見た。


 うちのナイト。

 そう呼べる人ができたのが少し誇らしかった。


     *


 ケイがナイトになって初めての狩りは、オークの村から入る地下洞窟になった。

 道を知っているケイの背中を今日も追いかける。


 そこには緑色の腐ったやつが歩いていた。

 いつものオークのように勢いよく武器を振ってくるわけでもない。ゆっくり近づいてくるのがかえって気持ち悪い。


「オークゾンビです」

「あ、これか」


 リョウに名前を教わったやつだ。

 Shiftへ指を置いてヒールを選ぶ。

 ケイが前へ出たところへ回復の光が弾けた。


「先輩、最初から攻撃する気だった」

「ゾンビならもう分かる」


 ケイの剣もユイの短剣も届く。

 ミナの魔法が加わって敵が倒れると、次のやつがこっちへ来た。


 ケイの体力を見てヒールの相手を戻す。

 見慣れた数字が出たのに体力の棒は思ったほど戻らない。


 もう一度ヒールをかける。


「俺のヒール弱くなった?」

「俺のHPが増えたんです」


 ケイが答える。

 そうか。同じくらい減って見えても、元の体力が違うんだ。


「じゃあ前よりたくさん回復しないといけないのか」

「はい。頼りにしてます」


 俺は少しマウスを握り直した。

 ナイトになっても俺が回復する出番はあるらしい。


「あの、骨まとめて倒すやつは?」

「ボウリングバッシュですか?」

「それ。それ使ったら一気に倒せるんだろ」

「覚えるつもりですけど、まだ使えませんよ」


 ケイの剣はいつものように目の前の敵を殴っている。

 リョウと同じ職業になっても、あの戦い方がすぐできるわけではなかった。


「じゃあ俺も攻撃する」

「回復もね」


 ミナに念を押されて分かってるよと返す。

 ケイが傷ついたら回復し、余裕があれば敵にもヒールを撃つ。ユイが別の敵を殴り始めればそちらの体力も見る。

 体力の数字が増えても、四人での狩りがいきなり変わるわけじゃない。


 何匹も倒したところで、ミナが休憩を提案した。

 俺のSPも残り少ない。


「ナイトになっても休憩はするんだな」

「なつきさんが座ってる間は俺も休みますよ」

「私もSP戻したい」

「私は拾ったもの数えます」


 ユイが隣へ座る。

 休憩の理由まで四人とも少しずつ違うらしい。


「プリーストになるとSPの戻りを早くする魔法も使えるよ」


 ミナからそんな話が出た。


「じゃあ休憩が短くなる?」

「うん。マグニフィカートっていうの」

「長いな」

「マグニとかマニピって呼ぶ人もいるみたい」


 俺はマニピの方で覚えておくことにした。

 エリも使っているんだろうか。俺が気づいていない魔法はまだありそうだ。


「なつき、今Jobいくつ?」

「三十八」

「じゃあ四十まであと二つだね」


 ユイの言葉を読んでキャラクターの数字を確かめる。

 ケイは四十でナイトになった。俺も転職するだけならもう少しで手が届くところだった。


「俺も五十まで上げてからにしようかな」

「うん。支援の魔法をしっかり取っておきたいなら、その方がいいと思う」


 ミナが返してくれる。

 ヒール以外にも仲間を助ける魔法がある。取り方は少しずつ教えてもらっていた。

 ケイの増えた体力も一度のヒールでもっと戻せるようになりたい。


「じゃあ俺ももっと強くなって、なつきさんの転職を手伝いますね」

「私のも!」


 ユイの返事がケイのすぐあとに続いた。


「私はアサシンになったらもっと避けられるようになりたい」

「私も早く大きい魔法使いたい」


 ミナも続く。

 俺だけが転職を待っているわけではない。


「じゃあみんな上げよう」

「まずはなつきのSPが戻ってからね」


 ミナに言われてSPの棒を見る。

 まだ立ち上がってもすぐ座り直すことになりそうだった。


     *


 狩りから戻るとユイが俺を呼び止めた。


「先輩、写真!」


 転職してから何時間も経っているのに忘れていなかったらしい。


「ケイさん、真ん中。先輩、その横です」

「さっき決めたんだよな」

「うん。なつきが何度も行き過ぎたところ」


 溜まり場の川と橋が写るように四人で並ぶ。

 俺が座るとユイから待ったがかかった。


「今日は立って。ケイさんの新しい服がちゃんと見えるように」

「なるほど」


 俺も立ち上がる。

 真ん中のケイだけが昨日と違う服。俺たち三人はまだ転職前の姿のままだ。


「撮るよ。みんなこっち向いて」

「どっちがこっち?」

「私と同じ方!」


 ユイが向きを変えたので俺も合わせる。

 ケイから笑顔のエモーションが出た。


「あ、今いい。もう一回その笑顔」


 ケイがもう一度笑顔を出すと、俺もつられて同じエモーションを出した。ユイまでハートを出したのでミナが笑う。


「みんな一斉に出さないで!」


 エモーションが消えるのを待ってもう一度向きをそろえる。


「撮れた!」

「どうやって見るの?」

「スクリーンショット。パソコンに画像が残るよ」


 ミナに教わって俺も一枚撮ってみる。

 画面に並んでいた四人がそのまま一枚の画像になる。


 ナイトのケイ。

 マジシャンのミナとシーフのユイ。

 その間にまだアコライトの俺。


 俺たちの名前には同じ「よりみち」がついていた。


「転職するたびにここで撮りません?」

「いいね。最後は全員違う服になる」

「先輩の時も撮りますからね」


 俺はうんと返して、プリーストの服を着た自分を少し想像した。


 その時にはエリにも見てほしい。

 俺はゲーム内の耳打ちを送ってみた。


『今日ケイがナイトになった』

『おめでとう。なつきももうすぐ?』


 返事はすぐに来た。


『俺はJob五十まで上げてから』

『そうなんだ。プリーストになったら、また一緒に狩ろうね』


 入力欄を開いたまま少しだけ考える。

 この前は二人で行こうと打ちかけて消した。

 今日はそのまま送ってみた。


『今度は二人で行きたい』


 返事を待ちながらミナたちの会話を読む。

 ユイは次の写真に向けて頭に何かつけたいらしい。ミナも自分の欲しい帽子なら写真に似合うと言っている。


『うん。行こうね』


 エリの返事を読んで、プリーストになるまでの数字をもう一度確かめる。

 Job五十。

 そこまで育てれば、エリと二人で狩りに行ける。


 机のメモへその数字を書き足す。

 ついでに四人で転職記念の写真を撮ることも書いておいた。


「明日も狩り行こう」


 ゲームへ戻って送ると三人から返事が来た。


「行くよ。私もJob上げたいし」

「私も!」

「俺も。早くボウリングバッシュ覚えたいです」


 ケイの新しい鎧が俺の横にある。

 ヒールをかける相手は明日もちゃんといる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。