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第4話 「その頃、異世界では」

二日前――異世界、アストリア王国

 話は二日前にさかのぼる。

 ゴール王国第一王子、オウンは、最近、非常に困っていた。

「……邪魔なんだよなぁ」

 豪華な自室のソファに座りながら、オウンはため息をついた。

 その視線の先には、一枚の肖像画があった。

 長い金髪。

 整った顔立ち。

 そして、いかにも神聖そうな白い衣装。

 王国筆頭聖女。

 そしてオウンの婚約者。

 聖女アンタ。

「どうにかならないものか」

 オウンは、もう一度ため息をついた。

 別に、アンタが嫌いなわけではない。

 ……いや。

 正確には、かなり嫌いだった。

 理由はいくつかある。

 まず、うるさい。

 何かと正論を言う。

 王子である自分にも遠慮がない。

 そして何より。

 最近、オウンには別に好きな女性がいた。

 第二聖女、アンリ。

 可愛い。

 優しい。

 そして何より、オウンの言うことをよく聞く。

 アンタとは正反対だった。

「……やっぱり、アンリの方がいい」

 オウンは頷いた。

 しかし問題があった。

 アンタは王国筆頭聖女。

 国民からの人気も高い。(少し話がうまいだけなので)

 そして、何より本当に強い。

 婚約を一方的に破棄すれば、大騒ぎになる。

「パーティーで婚約破棄というのもなぁ……」

 オウンは腕を組んだ。

「あまりにも定番すぎる」

 そう。

 最近の貴族社会では、婚約破棄といえばパーティー会場。

 大勢の貴族が見ている前で、

『貴様との婚約を破棄する!』

 と宣言する。

 それが一番手軽だ。

 しかし。

 オウンは言った。

「何か、面白くない」

 階段から突き落とす。

 持ち物を隠す。

 濡れ衣を着せる。

 悪口を流す。

 

「証拠とか、後始末とか、面倒なんだよなぁ」

 オウンは本気で悩んでいた。

 そしてそれをやってズッコケているおバカがいるとも

 聞く。うまくいくかもわからないし。

 もちろん、筆頭聖女がいなくなれば王国は困る。

 魔獣。

 魔物。

 病人。

 戦争。

 災害。

 そういうものに対応できる人間は限られている。

 しかし。

「第二聖女のアンリがいる」

 オウンは微笑んだ。

「それに……」

 小さな声で呟く。

「本当は、アンリともうできているし」

 誰もいない部屋で、オウンは満足そうに笑った。

 アンタはいらない。

 いや。

 むしろ邪魔だった。

 そこでオウンは考えた。

 ――だったら、働かせればいい。

「そうだ」

 魔獣討伐。

 病人の治療。

 北部の巡礼。

 南部の災害。

 西部の魔物。

 東部の戦争。

「全部、アンタに任せればいい」

 オウンは名案を思いついた。

 それ以来。

 アンタは、ひたすら働かされた。

 王国の北へ。

 南へ。

 東へ。

 西へ。

 魔獣を倒し。

 怪我人を治し。

 祝福を行い。

 災害地へ行き。

 王宮へ戻れば会議。

 そして。

 また出張。

「ふふふ」

 オウンは笑った。

「これで、あいつもそのうち……」

 しかし。

 最近になって、気になることがあった。

「……フェルデン侯爵」

 王国宰相。

 フェルデン侯爵。

 最近、彼の視線が妙に気になる。

 アンタを見る。

 自分を見る。

 そして。

 アンリを見る。

「……まさか」

 オウンの背中に冷たい汗が流れた。

 アンリとの関係が、ばれているのかもしれない。

「まずい」

 オウンは立ち上がった。

「ばれる前に、何とかしなければ」

 そして。

 彼は、とんでもないことを思いついた。

「……転移魔法陣」

 アンタが各地へ移動するために使う、王国最高の魔法装置。

「これを、少しだけ……」

 オウンは周囲を確認した。

 誰もいない。

 そして。

 魔法陣の隅に。

 こっそりと。

 落書きをした。

「……これでいい」

 もちろん、オウンには転移魔法の知識などほとんどない。

 ただ。

「子供のいたずら程度だ」

 と思っていた。

「少しくらい転移先がずれても、大丈夫だろう」

 この世界のどこか。

 少し遠い場所。

 その程度のつもりだった。

「どうにかなる」

 オウンは笑った。

 ――どうにかなる。

 その言葉ほど。

 後から恐ろしいものになるとは、この時のオウンは知らなかった。

     *     *     *

その翌日――王宮地下、転移魔法陣の間

「聖女様」

 王国一の筆頭魔導士が頭を下げた。

「それでは、ただ今より転移を開始いたします」

「……」

 アンタは返事をしなかった。

 正確には。

 返事をする元気がなかった。

(もうどうでもええわ……)

 目の下にはうっすらと隈。

 顔色も悪い。

 本当なら。

 今頃は腹いっぱい美味しいものを食べて。

 暖かいベッドで寝ていたかった。

 しかし。

「聖女様」

「……何でございましょうか。」

「今回の任務は、北部地方の魔獣討伐となります」

「……」

「多数の負傷者も出ておりますので、治療もお願いします」

「……」

「その後、現地の教会で祝福の儀式を」

「……」

「さらに――」

「わかりました」

 アンタは手を上げた。

「聞きたくありません。」

「しかし……」

「わたしには、休みはないのですね」

「……しかし、民が大変、困っておりますので」

「図星ですか」

 アンタは、ゆっくりと振り返った。

 その先には。

 第一王子オウン。

 そして。

 大司教メンドウ。

 ……いや。

 メンドウ大司教。

「お二人とも」

 アンタは笑った。

 笑っていた。

 しかし。

 目が笑っていなかった。

「ほんま、ええ加減にしてください」

「な、何を言う」

 オウンが少し慌てた。何か言葉使いも変わったし。

「これは王国のためだ」

「王国のため」

「そうだ」

「……」

 アンタは、しばらく黙った。

「ほな、王国のために一回休ませてくれまへんか?」

「それは……」

「……」

「難しい」

「そうでっか」

 アンタは、笑顔になった。

「覚えておきましょう」

「な、何をだ」

「いろいろです」

 オウンは、なぜか少し震えた。

 その時。

「聖女様」

 筆頭魔導士が声をかけた。

「準備が整いました」

「はいはい」

 アンタは魔法陣の中央へ向かった。

(もう、どうでもええわ)

 半分眠っている。

 意識もぼんやりしている。

 魔法陣の中央に立つ。

 周囲を魔導士たちが取り囲む。

「それでは――」

 魔導士たちが詠唱を始めた。

 光が浮かび上がる。

 いつもの転移魔法。

 何度も経験した。

 慣れすぎている。

 だから。

 最初は気づかなかった。

「……ん?」

 白い光。

 いつもの光。

 しかし。

「……なんか変ですね」

 光の流れがおかしい。

 普通なら。

 体が軽くなる。

 そして。

 一瞬。

 景色が消える。

 次の瞬間。

 目的地に立っている。

 しかし。

「……え?」

 今回は違った。

 急に。

 地面が消えた。

「……は?」

 足元が抜けた。

「ちょっ――」

 アンタの体が。

 下へ。

 下へ。

 吸い込まれていく。

「うそやろおおおおおおおおお!」

 そして。

 目の前が真っ白になった。

     *     *     *

 次の瞬間。

 目の前には。

 自分より少し年上らしい男女が。

 なぜか。

 抱き合っていた。

「……」

「……」

「……」

 アンタは頭を下げた。

「ココハ、ドコ?」

 そして。

「ワタシハ、ダレ?」

 と言ってみた。

 すると。

「ぎゃあああああ!」

「うわあああああ!」

 二人が叫んだ。

(……おもろ)

 アンタは思った。

 そして。

 その直後。

 なぜか自分は。

「アッ~! ツイニヤリヤガッタナ、クソボウズラメ~!」

 と叫んでいた。

 ……。

 ……なんでやろ。

     *     *     *

同じ頃――ゴール王国、転移魔法陣の間

「……」

 急激に白い光が消えた。

「……?」

 筆頭魔導士が目を開けた。

 そこにいるはずの人物が。

 いなかった。転移はしたが、いつもと違う。

「……」

「……」

「……」

「聖女様?」

 誰かが言った。

 返事はない。

「聖女様?」

 もう一度呼ぶ。

 返事はない。成功しているなら、転移直後に、確認のため、聖女からの転移成功の声があるはず。

「……」

 筆頭魔導士の顔が青ざめた。

「……今のは何だ?」

 オウンが立ち上がった。

「聖女様は、どうなった?」

「……」

 筆頭魔導士は答えられなかった。

 そして。

 ゆっくりと。

 魔法陣を見る。

「……」

 そこには。

 見慣れない文字があった。

 いや。

 文字ではない。

「……これは」

 筆頭魔導士が震える。

「落書き?」

 全員が。

 オウンを見た。

「……」

「……」

「……」

「……何だ?」

 オウンは笑った。

 引きつった笑顔だった。

「何で、皆、私を見る?」

 誰も答えなかった。

 しかし。

 大司教メンドウが。

「殿下」

「何だ」

「これは……」

「何だ」

「子供の落書きですね」

「……」

「しかも」

 筆頭魔導士が続けた。

「かなり下手です」

「……」

「真実はひとつ。二つ。ミッツ・マングローブ!いやいや、犯人は、おそらく――」

「待て!」

 なぜか急にオウンが叫んだ。

「なぜ、私だと思う!」

「……」

「……」

「……」

 全員が。

 もう一度。

 オウンを見た。

 その瞬間。

 オウンは悟った。

 ――終わった。

 そして。

 異世界で最大級の事件。

 「筆頭聖女、転移中に行方不明事件」

 が始まった。

 その頃。

 当の本人は。

「コンビニって、なんや?」

 と、現代日本で。

 おにぎりの包装を食べようとしていた。


本作品は、基本的に自分で作成し、AIで、校正をし、その後一部修正しております。

ゆっくりしか投稿できませんが、よろしくお願いします。





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