第3話 「どうしよう」
ゆっくりと更新しますので、よろしくお願いいたします。
異世界からやってきた聖女アンタは、響のアパートに転がり込んだ。
しかし、ここで重大な問題が発生した。
響は、自分一人が生活するだけでも、決して余裕があるわけではない。
その上、異世界から来た金髪の聖女まで養うとなると――。
「……さて、どうするか?」
翌朝、響は早速、将司に連絡をした。
「将司の家って、病院なんでしょ?」
「そうだけど」
「アンタの生活費を稼ぐために、何かいいアイデアない?」
「いや、うちは病院だけど、俺はまだ大学にも行ってないし」
すると、横からアンタが口を挟んだ。
「わしは治癒魔法が使えるぞ」
「……」
「なんせ、聖女やし」
アンタは胸を張った。
「響と違って」
「うるさいわ!」
響が即座に反応する。
「ほんでな、腕や足でも一本や二本ちぎれても、簡単に生やすこともできるで」
「それ、すごい能力なのに言い方が怖い!」
将司が思わず叫んだ。
「病院でそんな魔法使ったら、大変なことになるわ!」
「なんで?」
「なんでって……」
将司は少し考えた。
「この世界では、そんな治療ないって。そもそも病院って資格職業だろ。医療行為をするには免許がいる」
「免許?」
「医師免許とか、看護師免許とか」
「ほう」
アンタは腕を組んだ。
「ほな、その免許とやらを取ればええんやな?」
「いや、そんな簡単な話じゃ……」
響が横から口を挟む。
「そもそも、その前に問題があるわよ」
「何や?」
「アンタ、この世界の人間じゃないでしょ」
「せやな」
「戸籍もないじゃない」
「……」
「住民票もない」
「……」
「保険証もない」
「……」
「マイナンバーカードもない」
「……」
「だから、そもそも正式に働けるの?」
アンタは少し考えた。
そして。
「そんなもん、魔法でちょちょちょいのちょいや」
「……」
「……」
将司と響は固まった。
「何や?」
「いや……」
将司が恐る恐る聞く。
「できるの?」
「できるで」
「本当に?」
「せやから、できる言うてるやろ」
「……」
魔法の使えない二人は、なぜか少し考えた。
そして。
「……まあ、そういうものなのか」
「異世界の魔法だしね」
なんとなく納得した。
しかし。
響がアンタの顔を見た。
そして。
「……でも」
「何や?」
「よく考えたら、アンタ、どう見ても欧米人にしか見えないわよ」
「……」
アンタは少し考えた。
「大丈夫や」
「何が?」
「いろいろ教えてもらったら、魔法でほいほいや」
「……」
将司と響は、再び固まった。
(なんでもありですか、そうですか……)
しかし。
もう、この段階で突っ込むだけ無駄な気がしてきた。
「で、仕事はどうするの?」
響が話を戻した。
「わしは、響と違って、聖なる聖女……」
「ぎゃああああああ!」
突然、響が叫んだ。
「うわっ!」
将司が驚く。
「何!?」
アンタも驚いた。
「急に大声出すな!」
「……」
響は頭を抱えた。
「ごめん……」
「どうしたんや?」
「また、その話……」
「何が?」
「私とアンタを比べないでよ!」
「なんで?」
「なんでも!」
「……?」
アンタは首をかしげた。
将司は、何となく分かった。
しかし、分からないふりをした。
「とりあえず」
響が言った。
「あちこち一人で行かせるのは危険よ」
「なんでや」
「アンタは要注意人物だから」
「……」
「だから、私たちの目の届くところにいてもらわないと」
「ちょっと待て」
アンタが眉をひそめた。
「要注意人物って、どういうことや」
「そのままの意味よ」
「失礼やなぁ」
アンタは腕を組んだ。
「わしは、ちょっと金髪美人で」
「うん」
「魔法が使えて」
「うん」
「おもろいだけや」
「「十分、異常です!」」
将司と響の声がそろった。
「なんでや!」
アンタが叫ぶ。
* * *
三人はしばらく考えた。
「接客業は?」
「無理」
「なんで?」
「アンタが客の心を読んだら終わりだから」
「じゃあ、事務?」
「パソコン使える?」
「魔法なら使える」
「話にならない」
「研究職は?」
「いきなり何の資格もない異世界人を雇う研究所があると思う?」
「ないわね」
「……」
ああでもない。
こうでもない。
三人で散々話しているうちに、将司がふと思い出した。
「あ」
「何?」
「うちの病院」
「うん」
「確か、看護助手と清掃係を募集していた」
「ほんまか!」
アンタの目が輝いた。
「一応、お父さんに聞いてみるよ」
「おお!」
「でも、ダメだったら諦めてね」
「ええよ」
アンタは妙にあっさり答えた。
「掃除なんて、魔法ですぐ終わるし」
「だから魔法はダメ!」
「えっ?」
「バレたら大変なことになるでしょ!」
「そうなん?」
アンタは不思議そうな顔をした。
「コスパええで」
「……」
「早いし」
「……」
「きれいにできるし」
「牛丼みたいに言うな」
「なんで牛丼?」
「いや、知らないならいい」
将司は頭を抱えた。
そのとき。
「あの~」
響が遠慮がちに手を挙げた。
「何?」
「できれば……」
響は少し恥ずかしそうに言った。
「私もバイトで雇ってもらえないかな?」
「え?」
「病院で何か仕事ない?」
「響も?」
「うん」
響は指を折りながら説明した。
「パソコンは得意だし」
「うん」
「事務作業もできるし」
「うん」
「それに……」
少し間を置いた。
「将司の家庭教師もできる」
「……」
将司は響を見た。
響は少しだけ目をそらした。
「医学部受験の勉強なら、私も手伝えると思うけど」
「……」
「もちろん、必要ならだけど」
将司は、なぜか少し顔が熱くなった。
「……仕方ないな」
「え?」
「父さんに聞いてみる」
将司は、できるだけ普通の顔をして言った。
「でも、期待しないで待ってて」
「うん」
響が笑った。
「ありがとう」
将司は、その笑顔を見て。
なぜか、さらに顔が赤くなった。
「……」
その様子を。
アンタは黙って見ていた。
そして。
「ほう」
「……何?」
将司が嫌な予感を覚えた。
アンタはニヤリと笑った。
「将司」
「何だよ」
「響のこと、ちょっと気になってるんやろ?」
「はあ!?」
「顔、真っ赤やで」
「違う!」
「心読んだろか?」
「読むな!」
「おもろいやん」
「読むな!」
響が笑いをこらえている。
将司は思った。
――やっぱり。
こいつを病院で雇うのは、間違いなんじゃないか?
しかし。
その数時間後。
将司は父親に電話をかけることになる。
そして、その電話が。
三人の人生を、さらに面倒な方向へ進めることになるのだ




