第七話 選択肢のない会話
翌朝。
俺は最悪の目覚めを迎えていた。
「……頭いてぇ」
昨日からずっと頭の奥が重い。
夢も見た。
また知らない部屋。
光る画面。
ノイズ。
そして、
こちらを見るエリシア。
最近そればっかだ。
「レインー! 起きてるー?」
廊下からミナの声。
「……今行く」
重い身体を起こす。
窓の外は晴れていた。
なのに妙な寒気がする。
宿を出ると、
ミナが呆れた顔をしていた。
「顔死んでるよ?」
「寝不足」
「エリシアとなにしてたの?」
「語弊のある言い方やめろ」
「へー?」
ニヤニヤしている。
だが。
「……別に何もしてないよ」
エリシアは平然としていた。
なんか腹立つな。
「とりあえず飯食おうぜ」
ギルド近くの食堂へ入る。
朝だからか、
そこそこ混んでいた。
店主のおっさんがこちらを見る。
「おう、いつものか?」
「ああ」
俺が答えた瞬間。
頭の奥で、
妙な違和感が走った。
……いつもの?
俺、
ここに来たことあったか?
考えていると、
店主が笑う。
「兄ちゃん最近ずっとそれだな」
「え?」
「冗談だよ冗談!」
豪快に笑う。
だが笑っているのは店主だけだった。
ミナも。
エリシアも。
なぜか黙っている。
「……どうした?」
ミナがぎこちなく笑う。
「なんでもないよ!」
空気がおかしい。
妙だった。
まるで。
今の会話を、
何度も聞いたことがあるみたいな。
「注文は?」
店主が聞く。
「パンとスープ」
そう答えた瞬間。
また頭痛。
キィィィ――
ノイズ。
そして。
視界の端に、
一瞬だけ文字が浮かぶ。
▶ パンとスープ
▶ 肉料理セット
▶ 何も頼まない
「っ……!」
「レイン!?」
思わず椅子から立ち上がる。
今のなんだ。
選択肢?
意味不明だ。
「大丈夫か?」
店主が心配そうに見る。
その顔を見た瞬間。
またノイズ。
そして。
同じ笑顔。
同じ角度。
同じ声。
完全に一致していた。
まるで。
決められた動きみたいに。
「……おい」
気付いてしまった。
今この瞬間。
店の中の全員が、
不自然なくらい同じタイミングで動いている。
スプーン。
咳払い。
椅子を引く音。
全部。
妙に揃いすぎていた。
「レイン」
エリシアが静かに名前を呼ぶ。
「見えちゃったんだね」
「……なんだよこれ」
声が震える。
「この世界、何なんだ」
誰も答えない。
いや。
答えられないみたいだった。
食堂の客たちは、
まるで会話が止まったNPCみたいに固まっている。
ただ、
こちらを見ていた。
「……っ」
怖い。
気持ち悪い。
理解したくない。
すると。
「レイン、こっちだ」
低い声。
入口にセレナが立っていた。
彼女は店の中を見ると、
露骨に顔をしかめる。
「また始まったか」
「また?」
「世界の処理落ちだ」
「……は?」
「説明は後だ。今は来い」
セレナが俺の腕を掴む。
その瞬間。
食堂の客全員が、
一斉にこちらを向いた。
そして。
同じ声で言った。
「どこへ行くんですか?」
空気が凍る。
ミナが悲鳴を上げた。
店主も。
客も。
子供も。
全員同じ笑顔。
同じ角度。
同じ声。
「逃げるぞ!」
セレナが叫ぶ。
次の瞬間。
世界がバグみたいに歪んだ。




