第三話 観測者
その夜、妙な夢を見た。
暗い部屋だった。
窓は閉じられ、
空気は妙に重い。
正面には光る板のようなものがあって、
そこに誰かが映っている。
――エリシア。
彼女は微笑んでいた。
いつもの優しい笑顔。
だけど。
『ねえ』
声がする。
『……聞こえてる?』
エリシアが近付く。
画面いっぱいに、
彼女の顔が映る。
青い瞳。
真っ直ぐな視線。
それはまるで、
俺ではなく“こちら側”を見ているみたいだった。
『もう少しだから』
白い指が伸びる。
画面に触れる。
その瞬間。
ぞわり、と全身に寒気が走った。
「っ!?」
目を覚ます。
宿屋の天井。
荒い呼吸。
嫌な汗。
「……夢、か」
だが心臓の鼓動は収まらない。
妙だった。
あまりにも現実感がある。
しかも最後、
エリシアは確かに“俺”を見ていなかった。
もっと別の――
コンコン。
「レイン、起きてる?」
エリシアの声。
びくり、と肩が跳ねた。
「……ああ」
扉を開ける。
エリシアはいつも通りだった。
黒いローブ。
白銀の髪。
静かな微笑み。
「朝ごはん食べに行こう」
「……早いな」
「今日は王都から監察官が来るから、ギルド混むよ」
「そんな話あったか?」
「あるよ」
即答だった。
俺は顔を洗いながら首を傾げる。
なんというか、
エリシアは時々、
“先を知っている”
みたいな話し方をする。
偶然だと思っていた。
でも最近、
妙に引っかかる。
「どうしたの?」
「……いや」
言いかけてやめた。
代わりに別のことを聞く。
「お前、夢見るか?」
「見るよ」
「どんな?」
エリシアは少し考える。
そして。
「会いたい人に会う夢」
そう答えた。
「恋愛話か?」
「うん」
「へぇ」
意外だった。
エリシアにもそういう相手いるんだな。
……いや待て。
なんかちょっと嫌だなそれ。
「どんな奴なんだ?」
軽い気持ちで聞く。
エリシアは静かにこちらを見る。
いや。
違う。
また少しだけ、
視線がズレている。
「ずっと見てくれてる人」
「……?」
「どんな時も」
その声音は、
今までで一番柔らかかった。
「だから私も、ずっと見てた」
朝日が差し込む。
白銀の髪が光る。
綺麗だと思った。
なのに。
なぜか分からない。
その瞬間だけ、
言いようのない孤独を感じた。
まるでエリシアが、
最初から俺たちとは別の場所に立っているみたいで。
「……レイン?」
「え?」
「変な顔してる」
「いや、お前が変なこと言うからだろ」
誤魔化すように笑う。
エリシアも小さく笑った。
でも。
その視線はまた、
俺の肩越しを見ていた。




