第二十七話 ミナが泣いた日
セレナが消えた。
世界は静かだった。
あまりにも静かだった。
まるで。
最初から存在しなかったみたいに。
「……」
ミナは動かなかった。
その場に座り込んだまま。
消えた場所を見つめている。
光の粒。
最後に残った小さな輝き。
それだけを。
「ミナ」
レインが呼ぶ。
返事はない。
「ミナ」
もう一度。
それでも。
彼女は動かなかった。
そして。
小さく呟く。
「ずるい」
誰も言葉を返せない。
「私だけ残された」
涙が落ちる。
「セレナは終われたのに」
震える声。
「私だけまだここにいる」
エリシアが目を伏せる。
その気持ちは分かった。
残される方が辛いこともある。
「ねぇ」
ミナが空を見上げる。
「私も消えるのかな」
静寂。
誰も答えられない。
だが。
空は答えた。
個体:MINA
観測継続中
文字列。
無機質な表示。
ミナはそれを見て苦笑した。
「継続中だって」
涙を拭う。
「まだ終われないみたい」
レインは拳を握る。
何も出来ない。
セレナを救えなかった。
世界も壊れている。
エリシアも消えようとしている。
それなのに。
前へ進むしかない。
その時だった。
エリシアが空を見上げた。
「……来る」
全員が顔を上げる。
空。
巨大な球体。
その表面に。
無数の文字列が浮かび始めていた。
FINAL PHASE
世界が震える。
物語終了まで
残り3日
沈黙。
「……三日?」
レインが呟く。
エリシアは頷く。
「カウントダウン」
静かな声。
「もう本当に終わる」
その言葉に。
ミナが笑った。
泣きながら。
「ならさ」
二人が振り向く。
「最後くらい」
ミナは立ち上がる。
涙でぐしゃぐしゃの顔。
それでも笑う。
「楽しいことしようよ」
エリシアが目を見開く。
「え?」
「どうせ終わるんでしょ?」
ミナは続ける。
「なら泣いてばかりじゃもったいない」
レインは思わず笑った。
強いな。
本当に。
「セレナに怒られるし」
その言葉で。
三人とも少しだけ笑った。
確かに。
あいつなら言いそうだ。
その夜。
三人は王都を歩いた。
崩れかけた街。
消えかけた世界。
それでも。
屋台は残っていた。
噴水も。
広場も。
全部。
どこか懐かしかった。
「覚えてる?」
エリシアが聞く。
「最初に会った場所」
「覚えてる」
レインは頷く。
広場だった。
銀髪の少女。
不思議な笑顔。
今思えば。
最初から異常だった。
「また私を選んでくれた」
あの言葉。
今なら意味が分かる。
「エリシア」
「なに?」
「俺」
言葉が詰まる。
だが。
今しかない気がした。
「後悔してない」
エリシアが止まる。
「ここに来たこと」
相馬湊として。
レインとして。
この世界で生きたこと。
「だから」
笑う。
「ありがとう」
その瞬間。
エリシアの瞳に涙が浮かんだ。
だが。
彼女は泣かなかった。
ただ。
嬉しそうに笑った。
「うん」
小さく。
本当に小さく。
「私も」
そしてその夜。
誰も知らない場所で。
閉じられたはずの黒い扉が。
ほんの少しだけ。
再び開いていた。
その隙間から。
制服姿の少女がこちらを見ていた。
未来のエリシアだった。
彼女は震える声で呟く。
「急いで」
誰にも届かない声。
「あと三日しかない」
その背後で。
何かが動いた。
人影だった。
こちらへ歩いてくる。
ゆっくりと。
そして。
未来のエリシアの顔が絶望に染まる。
「来ちゃだめ――」
そこで映像は途切れた。




