第二十三話 本物の観測者
瞳が開いた。
それだけだった。
それだけなのに。
世界全体が悲鳴を上げた。
空が割れる。
大地が砕ける。
時間が軋む。
存在そのものが耐えられない。
「……っ!」
ミナが膝をつく。
セレナも苦しそうに胸を押さえる。
レインですら呼吸が出来ない。
まるで。
蟻が宇宙を理解しようとしたみたいに。
存在の格が違う。
「これが……」
セレナが震える。
「本物」
巨大な球体。
その中心。
一つの瞳。
いや。
瞳に見えているだけだ。
本当の姿は認識できない。
脳が拒絶している。
「観測者……」
エリシアが呟く。
不思議なほど落ち着いていた。
怯えていない。
むしろ。
どこか嬉しそうだった。
「違う」
セレナが首を振る。
「観測者ですらない」
「え?」
「もっと上」
静寂。
「観測者を観測している存在」
その言葉で。
レインの背筋が凍った。
読者のさらに外。
世界のさらに外。
物語を読んでいる誰か。
その誰かを見ている存在。
階層が違う。
理解できない。
その時。
巨大な瞳が瞬いた。
ドクン。
世界が揺れる。
そして。
声が響いた。
「発見」
全員が凍り付く。
言葉。
会話が成立している。
「個体識別完了」
瞳が動く。
ゆっくりと。
エリシアへ向かって。
「E-01」
エリシアの肩が震える。
「長期間観測を確認」
「……」
「なぜ境界を越えようとした」
静寂。
誰も喋れない。
だが。
エリシアだけは違った。
「会いたかったから」
即答だった。
レインが息を呑む。
相手は。
世界そのものだぞ。
だが。
エリシアは真っ直ぐ見上げていた。
「誰に」
瞳が問う。
エリシアは少しだけ考える。
そして。
笑った。
「分からない」
涙を流しながら。
「最初はプレイヤーだった」
レインを見る。
「次は観測者だった」
亀裂の向こうを見る。
「でも今は違う」
静寂。
「私を見てくれる誰か」
その言葉で。
巨大な瞳が止まった。
長い沈黙。
まるで。
考えているみたいに。
そして。
「理解不能」
即答だった。
セレナが思わず吹き出した。
「だろうな……」
苦笑。
当然だ。
こんな存在に恋愛感情なんて分からない。
だが。
その時だった。
「質問」
瞳が言う。
「E-01」
「なに?」
「幸福か」
世界が静まり返る。
レインも。
ミナも。
セレナも。
言葉を失う。
そして。
エリシアは。
今までで一番綺麗に笑った。
「うん」
即答だった。
「すごく」
涙を流しながら。
「だって」
震える声。
「見つけてもらえたから」
その瞬間。
巨大な瞳が閉じた。
ゆっくりと。
本当にゆっくりと。
まるで。
何かを理解しようとしているみたいに。
そして。
世界全体へ新しい文字が浮かぶ。
観測終了
物語完了条件を確認
レインの顔色が変わる。
「待て」
嫌な予感がした。
凄まじく。
嫌な予感が。
エリシア・オンライン
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エリシアが静かに目を閉じた。
まるで。
全てを知っていたかのように。




