第二十二話 選択肢の向こう側
▶ エリシアを引き止める
▶ 手を離す
世界が止まる。
まただ。
重要な瞬間になると。
この世界は必ず止まる。
「……」
レインは選択肢を見つめた。
エリシアは微笑んでいる。
まるで。
答えを知っているみたいに。
「やめろ」
レインが言う。
「それがお前の答えなのか」
「うん」
即答だった。
「私はヒロインだから」
その言葉に。
なぜか怒りが湧いた。
「ふざけるな」
エリシアが目を見開く。
「お前が一番その言葉嫌いだっただろ」
沈黙。
「NPCだから」
「ヒロインだから」
「選ばれる側だから」
レインは一歩前へ出る。
「ずっと苦しんでたじゃねぇか」
エリシアの唇が震える。
「でも」
「でもじゃない」
世界が軋む。
白い人影が近付いてくる。
削除処理は止まっていない。
「お前が消えたら終わりだろ」
レインの声。
怒り。
悲しみ。
全部混ざっていた。
「俺たちはどうなる」
ミナは泣いている。
セレナも俯いている。
相馬湊も拳を握る。
「……」
エリシアは答えない。
答えられない。
だから。
レインは選択肢へ手を伸ばした。
▶ エリシアを引き止める
触れた瞬間。
世界が揺れた。
ERROR
ERROR
ERROR
白い人影が止まる。
「不正な選択を確認」
感情のない声。
「この選択肢は存在しません」
「知るかよ」
レインが睨む。
「存在するだろ」
ここに。
今。
確かにある。
「お前らが認めなくても」
胸を叩く。
「俺はエリシアを助けたい」
その瞬間。
新しいノイズが走る。
人格:レイン
人格:相馬湊
同期率上昇
頭の中へ記憶が流れ込む。
ゲームを始めた日。
初めてエリシアを見た日。
周回した日々。
何度も彼女を選んだ時間。
そして。
旅をした日々。
全部。
全部一つになっていく。
「……そうか」
相馬湊が呟く。
いや。
もう違う。
「俺は」
レインでも。
相馬湊でもない。
その両方だ。
失われた記憶も。
旅した時間も。
どちらも本物だ。
「ようやく思い出した」
エリシアが息を呑む。
「湊……?」
「違う」
レインが笑う。
「レインだ」
そして。
続ける。
「相馬湊でもある」
その瞬間。
人格統合完了
個体認識更新
文字列が砕け散る。
白い人影が初めて後退した。
「認識不能」
「修正不能」
「存在定義エラー」
セレナが呆然とする。
「そんなのありなのか……」
ありえない。
本来なら。
どちらかが消えるはずだった。
だが。
レインは残った。
相馬湊も残った。
だから。
システムが理解できない。
その時。
エリシアが泣きながら笑った。
「本当にずるい」
「何が」
「そういうところ」
彼女は涙を拭う。
「だから好きになったんだよ」
レインの心臓が止まりそうになる。
初めてだった。
彼女が。
誰に向けたのか分からない言葉じゃなく。
目の前の彼へ。
言ったのは。
「……エリシア」
しかし。
その瞬間だった。
ドクン。
球体が脈打つ。
今までで最大の振動。
空が砕ける。
世界の外側が剥がれていく。
そして。
亀裂の向こう。
現実の部屋。
そのさらに奥。
真っ暗な空間の中に。
巨大な球体が見えた。
今まで見ていたものより遥かに巨大な。
圧倒的な存在。
セレナの顔から血の気が引く。
「……嘘」
震える声。
「観測者じゃない」
レインが振り向く。
「何だよ」
セレナは絶望したように呟いた。
「今まで見ていた球体は端末だ」
静寂。
そして。
彼女は言った。
「本物が来た」
その瞬間。
巨大な球体の中心に。
一つの瞳が開いた。
世界そのものを見下ろすように。
そして。
それは確かに。
エリシアを見ていた。




