第十八話 存在証明
▶ ログインする
▶ ログインしない
▶ レインとして続行する
静寂。
誰も動けなかった。
「……そんな選択肢」
セレナが呟く。
「存在するはずがない」
当然だった。
レインはプレイヤー人格の一部。
記憶喪失によって生まれた人格。
本来なら。
記憶が戻れば統合される。
消えるか。
吸収されるか。
どちらかだ。
なのに。
目の前には第三の選択肢がある。
システムが認めている。
存在してはならない可能性を。
「なんで……」
エリシアも震えていた。
「どうして出たの……?」
その問いに答える者はいない。
だが。
レインだけは理解していた。
少しだけ。
「違うんだろ」
自分でも驚くほど冷静な声だった。
「俺はただの記憶喪失じゃない」
誰も喋らない。
「俺は」
胸へ手を当てる。
鼓動。
確かにある。
「俺は生きてきた」
旅をした。
泣いた。
笑った。
迷った。
エリシアを守りたいと思った。
ミナを助けたいと思った。
セレナを救いたいと思った。
その全てが。
誰かのコピーで済ませられるはずがない。
「だからシステムも否定できない」
存在してしまった。
一人の人格として。
「レイン……」
エリシアが泣きそうな顔をする。
嬉しいのか。
悲しいのか。
分からない。
たぶん両方だ。
その時だった。
空が裂けた。
バキィッ!!
世界全体へ亀裂が走る。
『ERROR』
『ERROR』
『ERROR』
文字列が空を埋め尽くした。
そして。
巨大な球体が脈打つ。
ドクン。
ドクン。
生きているみたいに。
「……っ」
レインは顔を上げる。
球体の中心。
そこに。
何かが見えた。
人影。
少年。
制服姿。
見覚えがある。
「嘘だろ……」
それは。
相馬湊だった。
もう一人の自分。
「レイン」
球体の向こうの少年が言う。
「ようやく会えたな」
全員が凍り付く。
エリシアですら。
言葉を失う。
「お前……」
「俺だよ」
少年は苦笑した。
「元の人格」
沈黙。
「正確には違うけどな」
その言葉が引っ掛かる。
「違う?」
「俺もレインだ」
理解できない。
だが少年は続ける。
「お前が旅をしていた間」
球体の向こう側で。
「俺もずっと見ていた」
世界が静まる。
「何も出来なかったけどな」
悔しそうに笑う。
「ミナが泣いても」
「セレナが苦しんでも」
「エリシアが壊れていっても」
拳を握る。
「俺は見てるだけだった」
その姿は。
まるで読者だった。
観測者だった。
「だから」
少年は言う。
「お前を消す気はない」
エリシアが目を見開く。
セレナも。
ミナも。
「え……?」
「だって」
少年が笑う。
「俺じゃエリシアを泣かせたままだろ」
エリシアの瞳から涙が零れた。
そして。
選択肢が変化する。
▶ 統合する
▶ 分離を維持する
『WARNING』
人格分離状態を維持した場合
世界の安定性を保証できません
その瞬間。
エリシアが震える声で呟いた。
「ねぇ……」
レインが振り向く。
彼女は泣いていた。
本当に苦しそうに。
「どうして」
唇を震わせる。
「どうしてみんな私のために残ろうとするの……?」
その問いに。
誰もすぐ答えられなかった。
だがレインは知っていた。
たぶん。
ずっと前から。
「お前が」
エリシアを見る。
「一人だったからだよ」
その瞬間。
エリシアは堪えきれず涙を流した。
まるで。
何百年も我慢していたみたいに。




