第十七話 レイン
▶ ログインする
▶ ログインしない
白い文字が浮かんでいた。
静かな世界。
崩壊すら止まっている。
まるで。
この選択だけが、
世界の命運を握っているみたいだった。
「……」
俺は画面を見つめる。
ユーザー名。
相馬湊
その名前を見るだけで、
知らない記憶が溢れてくる。
学校。
友人。
家族。
VRゲーム。
そして――事故。
「っ……!」
頭痛。
息苦しい。
レインの記憶と、
別の人生が混ざり始める。
「レイン!」
エリシアが肩を掴む。
必死だった。
今にも泣き出しそうな顔。
「大丈夫だから!」
「何がだ……」
声が震える。
「俺は誰なんだよ」
エリシアが黙る。
答えられない。
いや。
答えたくない。
「俺はレインか」
沈黙。
「相馬湊か」
「……両方」
小さな声。
「え?」
「どっちも本物だよ」
エリシアはそう言った。
涙を堪えながら。
「レインは偽物じゃない」
その言葉だけは。
迷いがなかった。
「私と旅したのはレインだもん」
王都。
森。
戦い。
笑い合った日々。
全部。
レインとして生きた時間だ。
「だから」
エリシアが手を握る。
「消えないで」
その時だった。
後ろから声がした。
「……そういうことか」
セレナ。
彼女は崩れた瓦礫の上に立っていた。
身体の半分はノイズになっている。
「ようやく分かった」
静かな笑み。
「私は失敗作だったんだな」
「セレナ?」
彼女は空を見上げる。
巨大な球体。
観測者。
「私はログアウト出来なかった」
淡々と語る。
「死んだから」
沈黙。
「現実で死んで、データだけ残った」
レインは息を呑む。
「だからずっとループしてた」
セレナが笑う。
悲しそうに。
「レイン」
「……」
「お前は違う」
彼女がこちらを見る。
「帰れる」
その言葉が重い。
セレナには帰る場所がない。
だが。
俺にはある。
「だから選べ」
静かに言う。
「後悔しない方を」
世界が軋む。
崩壊が再開していた。
空間が裂ける。
街が消える。
ミナが震えていた。
「レイン……」
泣いている。
怖いのだ。
消えるのが。
「私……生きたい」
その言葉で胸が締め付けられる。
エリシアも。
セレナも。
ミナも。
誰も救えない気がした。
その時。
視界の端に新しい文字が現れる。
SYSTEM MESSAGE
記憶復元率:73%
人格統合率:68%
警告
人格「レイン」の消失危険性を検出
「……は?」
血の気が引く。
エリシアもそれを見た。
顔が青ざめる。
「ダメ」
震える声。
「ダメ……」
彼女は画面に手を伸ばした。
必死に。
「消さないで」
泣きながら。
「レインを消さないで……!」
その瞬間。
レインは気付く。
エリシアが好きになったのは。
もうプレイヤーだけじゃない。
旅をしたレインも含まれていた。
だから。
彼女は怯えている。
ログインすれば。
元の人格が戻る。
だが。
レインが消えるかもしれない。
そして。
選択肢の下に。
今まで存在しなかった三つ目の選択肢が現れた。
▶ ログインする
▶ ログインしない
▶ レインとして続行する
セレナの表情が凍る。
「……ありえない」
エリシアも目を見開く。
誰も知らない選択肢。
システムに存在しないはずの選択肢。
まるで。
世界そのものが。
レインの答えを待っているかのように。




