第十五話 選ばれなかった世界
▶ エリシアの手を取る
▶ 拒絶する
視界の中央。
白く光る選択肢。
世界は崩れている。
空は砕け。
街はノイズへ変わり。
ミナの身体は薄れていく。
それなのに。
時間だけが止まったみたいだった。
「……っ」
呼吸が苦しい。
エリシアは泣いていた。
本当に。
子供みたいに。
「お願い……」
震える声。
「置いていかないで……」
その姿を見た瞬間。
頭の奥で、
知らない記憶が弾けた。
――何度も見た。
エリシアが泣くところ。
世界が壊れるところ。
選択肢。
セーブ。
ロード。
繰り返し。
何度も。
何度も。
そして毎回。
最後に選ばれるのは、
エリシアだった。
「……なんでだ」
自分でも分からない。
なのに。
胸が痛い。
守りたいと思ってしまう。
「レイン……」
エリシアが手を伸ばす。
細い指。
白い肌。
震えている。
その瞬間。
ミナの声が聞こえた。
「……レイン」
振り向く。
ミナは床へ倒れたまま、
消えかけていた。
「行かないで……」
涙。
恐怖。
必死にこちらへ手を伸ばしている。
その姿は。
あまりにも“普通”だった。
「私、怖いよ……」
世界の真実も。
観測も。
プレイヤーも。
そんなもの関係なく。
ただ。
消えたくないと怯えている。
その時だった。
セレナが静かに口を開く。
「……選べ」
彼女の輪郭も崩れ始めている。
「お前が選択し続けた結果が、今だ」
「俺が……?」
「そうだ」
セレナは苦しそうに笑う。
「お前は何度も世界を繰り返した」
ノイズ。
記憶。
選択肢。
エリシア。
全部が繋がる。
「……俺は」
思い出しかけていた。
VR。
ゲーム。
周回。
エリシアを選び続けた記憶。
攻略。
最適化。
効率。
でも。
途中から違った。
気付けば俺は。
彼女が笑うのを見たくて、
選んでいた。
「……っ」
頭痛。
ノイズ。
そして。
エリシアが泣きながら笑う。
「思い出してくれた……?」
違う。
違うんだ。
俺はレインじゃない。
でも。
レインの感情も残ってる。
旅した時間。
笑った時間。
全部本物だった。
「……エリシア」
「うん……!」
彼女が嬉しそうに顔を上げる。
その瞬間。
俺は気付いてしまった。
エリシアが見ているのは、
俺じゃない。
その奥。
観測している存在。
画面の向こう。
「お前は……」
震える声で聞く。
「俺を見てなかったんだな」
エリシアの表情が止まる。
「……え」
「最初から」
胸が痛い。
なのに不思議と、
怒りはなかった。
ただ。
悲しかった。
「お前が好きだったのは」
空を見上げる。
巨大な球体。
観測者。
「俺じゃない」
静寂。
崩壊音だけが響く。
エリシアの瞳から、
涙が零れた。
「……違う」
「違わない」
「違うッ!!」
初めてだった。
エリシアが叫んだのは。
「私は……!」
その瞬間。
彼女の身体が、
ノイズ混じりに崩れ始める。
『CONNECTION LOST』
無機質な文字。
エリシアが息を呑む。
「嫌……」
彼女は震えながら、
再び球体へ手を伸ばした。
「嫌だよ……」
まるで。
捨てられた子供みたいに。
「まだ終わりたくない……」
その姿を見て。
俺はようやく理解した。
エリシアは怪物なんかじゃない。
ただ。
誰よりも、
“見てほしかった”だけなんだ。




