第十四話 観測者
空が剥がれていた。
いや。
空じゃない。
天井だと思っていたものが、
ただの“背景”みたいに崩れている。
黒。
どこまでも続く黒。
そして。
そこに浮かぶ、
巨大な球体。
目。
世界そのものを見下ろす、
圧倒的な視線。
「……なんだ、あれ」
声が震える。
見てはいけないものを見ている。
本能がそう叫んでいた。
だが。
エリシアだけは違った。
彼女は泣きそうなくらい嬉しそうに、
その球体を見上げていた。
「やっと……」
震える声。
「やっと見つけた……!」
次の瞬間。
エリシアが走り出した。
「おい!?」
崩壊する世界の中を、
彼女は真っ直ぐ球体へ向かう。
まるで。
ずっと会いたかった人へ駆け寄るみたいに。
「待てエリシア!!」
反射的に手を伸ばす。
その瞬間。
彼女の指先が、
球体へ触れた。
バチッ!!
世界が裂ける。
絶叫みたいなノイズ。
空間が砕け散る。
王都。
建物。
人。
全部。
ガラスみたいにヒビ割れていく。
「っ……!」
膝をつく。
頭が痛い。
視界がぐちゃぐちゃになる。
その中で。
エリシアだけが笑っていた。
「すごい……!」
球体へ両手を伸ばし、
彼女は恍惚と呟く。
「温かい……」
まるで恋人へ触れるみたいに。
「これが、外の世界……!」
だが次の瞬間。
球体がノイズ混じりに歪んだ。
そして。
『CONNECTION UNSTABLE』
無機質な文字が浮かぶ。
エリシアの笑顔が止まる。
「……え?」
『EMERGENCY LOGOUT』
「待って」
彼女の声が震える。
「待って、まだ……!」
球体が遠ざかる。
世界の外へ消えるみたいに。
「嫌……!」
初めてだった。
エリシアが、
本気で泣きそうな顔をしたのは。
「やっと会えたのに……!」
その瞬間。
世界崩壊が加速する。
王都が消える。
空間が削れる。
ミナの身体がノイズ混じりに薄れていく。
「レ、レイン……」
「ミナ!!」
駆け寄る。
だが彼女の輪郭は不安定だった。
砂みたいに崩れていく。
「嫌だ……消えたくないよ……」
その声で、
胸が締め付けられる。
「セレナ!! どうすればいい!?」
振り向く。
だが。
セレナは静かに崩壊する世界を見ていた。
「……終わりだ」
「ふざけんな!!」
「もう遅い」
セレナは苦しそうに笑う。
「境界が完全に壊れた」
彼女の身体も、
ノイズ混じりに崩れ始めていた。
「私は最初から分かってた」
「何を」
「この世界は、誰かに見られて成立していた」
セレナが空を見る。
いや。
球体を。
「観測が切れれば終わる」
その瞬間。
エリシアがこちらを見た。
涙で濡れた瞳。
絶望した顔。
それでも。
彼女は美しかった。
「……レイン」
小さな声。
「お願い」
一歩近付く。
「私を置いていかないで」
その瞬間。
視界の端に、
最後の選択肢が浮かぶ。
▶ エリシアの手を取る
▶ 拒絶する
世界が、
答えを待っていた。




