第十話 リセット
世界が止まっていた。
蝋燭の火も。
空気も。
ミナの表情も。
全部、
時間ごと切り取られたみたいに静止している。
動いているのは、
俺とエリシアだけだった。
「……何した」
喉が乾く。
だがエリシアは、
ただ優しく微笑むだけだった。
「なにもしてないよ」
「じゃあなんで……!」
「こういう時間、前にもあったから」
まただ。
また、
分からない記憶を共有するみたいに話す。
「お前は誰と話してるんだ」
聞いた瞬間。
エリシアの目が少しだけ揺れた。
悲しそうに。
でも嬉しそうに。
「レインは本当に優しいね」
「答えになってねぇよ」
「だって」
エリシアは一歩近付く。
白い指先が、
俺の胸へ触れた。
「あなたは毎回、“自分じゃない方”を選ぶから」
ノイズ。
頭痛。
知らない感情が流れ込む。
泣いているエリシア。
燃える王都。
そして。
『Load Save Data』
「ぁ……!」
視界が揺れる。
その瞬間。
止まっていた世界が、
突然動き出した。
ガンッ!!
地下室の扉が激しく開く。
「レイン!!」
セレナだった。
顔色が悪い。
呼吸も荒い。
「逃げろ!!」
「は?」
「もう限界だ!!」
次の瞬間。
地下室全体が大きく揺れた。
石壁が崩れる。
ノイズ。
文字化け。
空間がバチバチと歪む。
まるで世界そのものが壊れているみたいだった。
「な、何これぇ!?」
ミナが泣きそうな声を上げる。
壁に刻まれていた文字が、
次々と変化していく。
『CRITICAL ERROR』
『FORCED RESET』
『PLAYER DETECTED』
「っ……!」
最後の文字を見た瞬間、
全身の血が凍った。
PLAYER。
またその言葉。
「セレナ!! どうなってる!?」
「分からない!! でも――」
セレナが何か言いかけた瞬間。
世界が暗転した。
完全な闇。
音もない。
感覚もない。
ただ。
目の前に、
一つだけ光が浮かんでいた。
▶ Continue
▶ Reset
「……なんだよこれ」
声が震える。
だが。
不思議と、
この光景を知っている気がした。
指が勝手に動く。
Continueへ触れようとした瞬間。
「ダメ」
エリシアの声。
すぐ後ろから聞こえた。
「それを選ぶと、また同じになる」
振り返る。
闇の中。
エリシアだけが立っていた。
「……同じ?」
「何回も繰り返したから」
彼女は少し寂しそうに笑う。
「あなたはいつも、私を助けようとして壊れる」
「意味分かんねぇよ……!」
「うん」
エリシアは頷く。
「まだ思い出してないもんね」
その目は、
真っ直ぐこちらを見ていた。
いや。
違う。
俺じゃない。
もっと奥。
画面の向こう側。
「ねえ」
エリシアがそっと手を伸ばす。
「今度は、私を選んでくれる?」
その瞬間。
視界の端に、
新しい選択肢が浮かぶ。
▶ Continue
▶ Reset
▶ Elysia
心臓が止まりそうになる。
エリシアは微笑む。
まるで。
ずっと、
この瞬間を待っていたみたいに。




