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負けヒロインって言い方、酷くない?  作者: 桃田


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28話 治療

「彼らは、邪神によってその身が汚染されたのだと考えられます」

 倒れた者は八人。全員が一つの場所に集められた。倒れて痛みを訴えるが、どこにも傷はなく血は流れていない。移動させる時もかなりしんどそうだった。システィーナはあらゆる方法を試したが、傷の痛みが軽くなる程度で完治する者はいなかった。彼らの肉体に問題が見つからない、と聖女は口にした。 最も重症なのは、最初にマガツヒの攻撃を受けたジェインという女性だった。システィーナの治療により痛みが多少やわらいだとはいえ、脂汗を流し動かせる状態にはない。だから、彼女の近くに全員を集めたのだ。


 負傷者たちからすこし離れた場所で、主要な代表者が集められて話し合いがもたれている。話し合いに参加していない他の連中は、食事をしていた場所に戻って、話し合いが終わるのを待っている。

私とサザンカは、負傷者たちの診察をしている。

(聞き間違えじゃなきゃ「システムエラー・バグ」とか言ってなかったっけ)


 システィーナの声が漏れ聞こえたが、汚染という単語に引っかかりを覚える。彼女の捉え方がなんとなく不穏な感じがするが、今はそれよりも診察の方が先だと切り替える。

 ジェインの様子を診てみると、黒い光を受けた場所を中心に魔力神経がぐちゃぐちゃにこんがらがっている。それに伴い周辺の経筋けいきん、つまり神経や筋肉を繋ぐラインが引きつれ、歪んだまま固定されているようだ。


「サザンカ」

 今の自分は男だからあんまり女性の体を確認するのも憚られるだろうと、サザンカを呼ぶ。彼女も他の怪我人を診察していたので、二人して情報を共有しようと思ったのもある。

「どう思う? ボクが診るにあの黒い光が当たった部分を中心にして魔力神経が歪んでいて、体を走る経絡を狂わせているみたいだなと」


 小声で話をしたのは、システィーナたちが打ち合わせをしているのを邪魔したくなかったというのもある。あちらにはライルが参加しているので、話は後からでも聞ける。もともとサザンカは医療要員だし、私は彼女の補佐も兼ねているという形なんだから、無問題のはず。フレアとアレクは、ライルの邪魔をしないよう、私とサザンカの足下に静かにちょこんと座っている。


「ええ、私もそう思います。まだ正常な魔力神経を把握するのは難しいんですが、おかしくなっている部分はわかるようになりました。その私がはっきりと認識できるぐらい歪んでます」


 先程からの聖女の治療方法を視て感じたことがある。もともとサザンカと話をしていて治癒魔法ってそういう系統なんだろうなとは思っていたんだ。あれは、対症と再構築の医術だ。不調の原因を取り除くってやつ。急性疾患や大怪我、感染症、物質的な欠損などには劇的な効果を及ぼす方法。多分、細胞レベルで物理的な方法で解決する問題ならば、治癒できるっていうものなんだと。一緒に活動していたときには、神がかりだとしか思えなかった。そのぐらい、すごい能力なのだ。だけど、この邪神の魔法とは相性が悪い。あれの力は本来体があるべき正しい形という認識自体を歪ませているんだろう。体が歪んでしまった形のままに正しいという認識になっちゃっている。古傷が定着しているのと同じだ。


「まあ、でも。ボクたちのやり方で対処できるんじゃないかな」

 ジェインは、お腹に受けた衝撃が経別を伝わって深部まで侵入し、内臓までも歪めているようなので早めに対処した方が良いだろう。私は助手だからサザンカを補助するような形で治療を始めよう、ということになったのだけれど。


「ちょっと、待ってくれ。彼らを見捨てろっていうのか!」

 突然、話し合いをしているところから怒声に近い声が響く。何事かとそちらの方をみやると、一人の男が激高して立ち上がっていた。

「仕方が無いのです。彼らは私の力ではもう救えません。邪神によって歪められた彼らが、今後変異しないとも限りません」


 静かだが、断固とした聖女の声が響く。それほど大声ではなかったのだろうが、その声の重々しさに皆が黙り込む。立ち上がった男は、それでも諦めきれずに何かを語ろうとしている。だが、言葉が出てこないようだ。邪神に呪われた仲間が聖女に見放された、その事実に打ちのめされているのだろうか。

「ですから、彼らをこのままにして放っておくわけにもいきません」

 その言葉には、哀しみがあった。それは事実だろう。右手首が掴まれた。それを見ると隣に居たサザンカがギュッと握ってきたのだ。


「ユーリ。治せる。そうでしょう。これは呪いなんかじゃない」

 すがるような眼差しで私の方を伺う。私は彼女を安心させるようにポンポンと肩を叩く。

「任せて」

 にやっと笑顔を見せて、システィーナ達のところへ向かう。


「えっとさ、負傷者たちの治療だけど。任せてくれないかな。多分、なんとかなると思う」

 重々しい雰囲気が充満する中、へらっとした軽い調子でそうぶつけた。私の言葉に、システィーナが驚愕の色を浮かべた。それはそうだろう。自分では対処しようがないことを、できると言われたのだ。彼女の沽券にかかわる。


「どんな方向に話が向いているのかは、診察を手伝っていたんで申し訳ないが分からない。でも、漏れ聞こえた話から察すると、治療ができない前提で話をしていたんだろう。よければ、こちらに任せてくれないか?」


 立ち上がった男が、期待を込めた目でこちらを見、それからシスティーナに視線を向けた。皆、システィーナの次の言葉を待っているのだろう。討伐隊はあちらこちらから集められた冒険者や騎士達で形成されている。決して一枚岩じゃない。一つにまとまっているのは、魔王を倒したシスティーナ達がいればこそだ。皆、するりと自分たちの中に現れた邪神に恐怖の念はあるだろう。しかも、彼が見せた力で呪われたとされる負傷者。負傷者の先行きは、自分たちの未来でもあるかもしれないのだから。

「本当にできるというの。では、証明してもらいましょう」


 聖女は声を低めて、こちらに告げてきた。そうね、あなたは全部を否定することはできないわよね。可能性を示唆してきた人間の意見を聞かずに押さえつけてしまえば、せっかく貴方中心でまとまっている討伐隊の結束が緩むのを理解しているもの。


「最初に、こちらの見立ての話をしておきます。システィーナ様がおっしゃるとおり、邪神の魔法によって彼らは歪んだんだと思います。ただ、それは腰痛が慢性化するのと同じように、傷を受けた状態が普通だと体が認識している状況なんです。だから、聖女様の治癒魔法では限界があるんじゃないですかね」

 システィーナがこちらを睨む。あれね、睨まれている人間にしか分からないんだよね、彼女の睨みって。システィーナに意見を言って睨まれたことがあった。それをアレックスに話をしたことがあるのよ。

「え、それお前意識しすぎだろう」


 って言われた。何度か経験して分かっているけど。お、隣に居るアレックスも気に入らないのかな睨んでるね、こっちを。カエサルとスコルピオンは思案顔だね。なるほど、なるほど。

 あの睨み方から察するに、システィーナ、もしかしたらこちらの言いたいことがきちんと伝わっている? 慢性痛のメカニズムについての理解があるのかな。


「サザンカの治療は、基本は長年かけて歪んだものを直すというものなんです。だから、すぐには完治しません。それなりに時間がかかりますが直ります」

 システィーナの治療を目の当たりにしている人間には、治療っていうとすぐに完治っていう思い込みがあるからね、ちゃんとここは言っておかないと。


「それは、治らなかった場合の言い訳にも聞こえるけれど」

 システィーナは訝しげに問う。

「ですから、システィーナ様に治療を行う前と後で、きちんと歪みが解消されているかどうかを判断していただきたいのです」

 そうすれば確認もできて問題は無いでしょう、と提案して了承された。

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