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負けヒロインって言い方、酷くない?  作者: 桃田


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27話 マガツヒ

 邪神討伐隊が出立してから3日後の昼。情報収集なども兼ねていて、この時の昼食には45分とられることになっていた。魔王城の廃墟がある深淵の森に最も近い国のギルドからきた冒険者たちから話を聞いてほしいと申し出があったそうだ。中央には聖女を中心としたこの討伐隊の首脳陣が集まっている。それを取り囲むようにして各人が昼食を取っている。私は携帯食を口にしながらそちらの方を見ていた。ライルも気になるようで、同じくその光景を眺めている。サザンカはアレクとフレアの面倒をみてくれていて、のほほんとしている。周りにいる人達も、可愛らしい子犬と子狐を微笑ましくみて、和んでいる。元々彼女は後方支援しか経験がないと言っていたから、そんなものだろう。まあ、話し合いの場にいる連中は中核に近い人間が中心だから、今の下っ端の自分たちがそれほど近くに寄れるわけでもない。話し声もはっきりわからないので、私はちょっと工夫をして映像と音声が把握できるようにしている。


「それでお話というのは」

 システィーナが話を切り出した。

「はい。実は、ここにくる前に件《くだん》の森に寄ってきたんです」

 名乗り出たパーティの一人の男が進み出た。


「プリモス殿下、いえ、聖女システィーナ。あなたに伝えなければならないことがある」

 ふわっとその男の雰囲気が変わった。

「ちゃんと伝えていたのに、分からなかったわけだ。ってことはあんたは転生者じゃないってことかい? バカ正直に待ってると思うなんて、ご都合主義でもあるまいし」

 最初の声だけが二重に聞こえて、そのうち声質が変質していく。それと同時に、その姿が頭から徐々に裂けていった。まるで皮が剥がれるかのように。ほんの一瞬、元の男が驚いたような表情を浮かべた気がする。


「バッシュ!」

 仲間のひとりが悲鳴のような声を上げたが、彼は答えない。頭から裂けた皮が、中から現れた男の足元に、脱ぎ捨てられた古着のように落ちる。


「やあ、はじめまして。邪神のマガツヒだ。以後お見知りおきを」


 茶目っ気たっぷりにニヤニヤと笑い、その男は軽く片手を上げた。黒髪黒目の若々しい外見に反して、その身から放たれる気配は泥のように重く、禍々しい。


「丁度、散歩している時に、この男を見つけてね。ここにくるまでの着ぐるみにさせてもらったんだ。だから、中に俺がいるってわからなかっただろう。あの祈りの儀式だっけ、あれも問題、なかっただろう」


 そんな風に言って、ウィンクをする。ああ、こいつはあの場所で自分たちが探られていた事を知っていたんだ。

 周囲は騒然となった。システィーナを背に庇い、カエサルが鋭く剣を抜く。間髪入れずアレックスがその男に斬り掛かった、が。ガキンッ、と硬質な音が響き、彼は無惨に跳ね飛ばされる。だがすぐさま体勢を立て直した。彼らを中心として、凍りつくような緊張感が瞬く間に周囲へ伝染していく。


「余裕がないねえ。そういう男はモテないよ」

 邪神を名乗る男は、不敵な笑みを崩さない。

「ねえ、システィーナ。俺に乗り換えない? そうしたら俺、悪さしないで、君の国のために、頑張っちゃうよ」

 小首を傾げ、おどけた仕草でシスティーナに手を差し出す。その軽薄さが、返って異様な恐怖を煽った。


「バッシュを返せ、【焔の槍】」

 後ろから、皮にされていた男のパーティーメンバーの1人が、魔法を撃ち込んだが、それは男の近くで消失した。


「やだなあ、人が愛しい人を口説いているって言うのに」

 ちょっと眉を顰めて、その女性に向かって軽く指を振った。すると黒い光がその女性の腹に突き刺さって、消えた。血は流れていないが、彼女は腹を抱えて倒れた。激痛が走っているらしく、動けないようだ。


「ウ、ウウ」

 そんな女性の姿を見て

「ちぇ、興ざめだな」


存在の誤植システム・エラー・バグ

 詠唱とともに片手を上げ、空に向けたその掌から黒い奔流が上空へと広がる。


私はライルに合図を送る。ライルは用意していた弓をその黒い奔流に向けて放つ。フレアとアレクの力も乗ったその光の筋がその黒い奔流に突き刺さる。だが、残念ながら完全にそれを消し切れはしなかった。僅かに残った黒い光は小さな刃となって幾人かに突き刺さった。それを受けた者達は皆、あの女性のように蹲った。


「あらら、そんな隠し玉がいたんだ。そうだよな。全員分のデータが提示されていたわけではないものな」

 マガツヒがこちらをみる。背筋に怖気が走る。


「ふん。面白い。今日はこれで帰るわ。じゃあね、システィーナ。返事は今度までに考えておいて」

 もう一度、システィーナの方を見てからシュルリとその姿を消した。


 黒い光の刃に貫かれた者たちが集められた。どうやら痛みで体を動かすことすらできないようだ。脂汗が滲み、体を動かすのもしんどそうだ。だが、不思議なことに、彼らの身体を改めても傷などが見当たらず、痣すらもない。倒れた彼らは、黒い刃が貫いたであろう場所を中心に激痛に苛まれているようだ。


 原因が判明しないままにシスティーナが治癒魔法を発動させる。煌めきが集められた全員に降り注ぐ。だが、彼らは起き上がれずに苦しんでいるままだった。様々な治癒魔法を試したが、一向に彼らの具合がよくなる兆しが見えない。ただ、少しだけ楽になった者もいたようだが。


「なぜ、なぜなの」

 システィーナは呆然と立ち尽くすしかなかった。

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