↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の一番争奪戦  作者: りまん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/6

3.提案と提案

放課後、待ち合わせの公園に行くと既に彼女が待っていた。

英語の単語帳を見ている。

相変わらず熱心だ。


「すみません、お待たせしました」


「いえ、全然大丈夫です。むしろお時間作ってもらってすみません」


「それは全然いいんですが…」


会話が途切れてしまった。

ここに来ても他人とコミュニケーションを取ってこなかった弊害を遺憾なく発揮している。

なんとか繋がなくては。

周りを見渡すと1台の自動販売機が目に入った。


「えっと、何か飲みますか?」


「いえ、私は大丈夫です」


振られてしまった。

走ってきたので、正直のどを潤したい。


「俺買ってくるので、何か欲しいものがあればついでに買ってきますよ」


「え、そんな悪いですよ」


「気にしないでください」


「いや、でも…」


正直、飲み物一本にそこまで渋られると自分も買いづらいのだが。

そんな俺の様子を見て何かを察したのか、彼女から提案してきた。


「でしたら、私も一緒に買いに行きます」


「あ、そうですか…?」


「えぇ」


そういうと彼女は単語帳を閉じ、真っすぐ自動販売機へと向かった。

すぐに後を追う。


彼女の性格からして、水かお茶を買うのかと思っていたが、彼女が買ったのは今巷で話題の強炭酸のエナジードリンクだった。




ベンチに戻り、水分補給をして心を落ち着かせる。

彼女からどんな発言が飛び出すのか昨日からずっと気になっていた。


「昨日はすみませんでした」


意外にも、というと失礼かもしれないが、最初に彼女から発せられたのは謝罪だった。


「いえ、そんなに気にしないでください」


「昨日家に帰ってから思い返して、私はなんて失礼なことを言ってしまったんだろうとひどく後悔しました。だから直接謝罪したかったんです」


律儀な人だ。

こんな人があんなお願いをするぐらいだから、よほど切羽詰まっていたのかもしれない。


「宮川さんはどうしても1位にならないといけないんですよね?」


「はい、そうです」


「その理由は一旦おいておくとして、そのためには俺が1位に居ると邪魔だということですよね?」


「いや、邪魔というわけでは…」


はっきり否定しない。

本心では邪魔だと感じているのだろう。


「はっきり言ってもらっていいですよ。自分の目標のために他人を蹴落とすなんてことはよくあることですから」


「すみません…」


「ただ、昨日もお伝えしたとおり、俺もテストで手を抜くつもりはありません。1位にこだわりがあるとか、1位にならなければならない理由があるとか、そんなわけではないですが、やるべきことは手を抜けない質なので」


「そうですよね…」


「だから、俺から一つ提案です」


「提案…?」


「テストまで残り1週間ですよね。来週のテストまで一緒に勉強しませんか?」


「え、でもそれじゃあ三島くんの邪魔に…」


「ふふっ」


人を邪魔だと感じたり、はたまた他人の邪魔になりたくない、だったり。

なんだか可笑しくなって、吹き出してしまった。


「え、なんですか!?」


困惑と若干の怒りを含んだような顔。


「すみません、何でもないんです。俺のことなら気にしないでください。一緒に勉強した方がお互いの刺激になりそうじゃないですか?」


「それは、確かに…」


「じゃあ、早速明日から一緒に…」


「今日からじゃ、ダメですか!?」


こちらの発言を遮って彼女が提案してきた。


「あ、すみません。三島くんもおうちのお手伝いとかご予定がありますよね…」


「今日も一応シフトが入っているのでその後なら大丈夫なんですが、それでもいいですか?」


「私は何時でも大丈夫です。ご迷惑じゃなければ…お願いできますか」


「こっちは大丈夫ですよ。だったら、ここからだと図書館も近いし、そこで勉強してますか?」


彼女が考える仕草を見せる。


「カフェ、お邪魔してもいいですか?」


カフェ、というとうちに来るということか。

勉強なら静かな図書館の方がベストだと思うが。


「いいですけど、カフェで勉強できますか?」


「私、三島くんちのカフェ、すごい好きなんです」


「母親から聞きました。1年近く通ってくれてるって」


「あ、やっぱり知られてたんですね。恥ずかしい…」


彼女が両手で顔を覆う。

耳が若干赤くなっているのが見えた。


「高校受験で心が折れそうになった時、たまたま三島くんちのカフェに立ち寄りました。ほんと偶然通りかかっただけなんですが。そこのコーヒーの美味しさと店内の雰囲気の温かさに救われたんです」


「そうだったんですか」


「店長さん、つまり三島くんのお母さんですね。その店長さんに『ゆっくりしていって』って言ってもらえて、すごく嬉しかった。そこから、あのカフェが私が心落ち着ける唯一の場所になったんです」


なるほど、彼女にとっては思い入れのあるカフェだったということか。


「心落ち着けるせいか、勉強にも身が入っちゃって。最初はコーヒーを飲みながら単語帳を見るぐらいだったんですが、気づけば何時間も居座ってしまって…」


「なるほど」


「も、もちろん、ご迷惑のならないようにお客さんの少ない時間帯をなるべく選んでるんです。ただ、やっぱりご迷惑でしたよね…」


「宮川さん、今日うちで勉強していってください」


「え、いいんですか?」


「今の話、母親にしたら泣いて喜びますよ。」


「そんな…」


「とにかく、準備できたらうちに来てください。いつもの特等席、準備してますから」


「あ、ありがとうございます!」


俺はバイトがあるからと、先に自分の家へ急いだ。



バイトが始まって30分した頃、彼女がお店に現れた。

てっきり制服のまま来るものと思っていたが、一度帰宅して着替えたらしい。

いつもはかなりラフな格好をしていたが、今日はなんというか、非常にかわいらしい格好をしている。


「あ!あやねちゃん、いらっしゃい!」


母親が対応する。


「あ、三島さん、こんにちは」


「いつものコーヒーでいい?」


「はい、お願いします」


「おっけー。じゃあいつものとこ座ってて」


「ありがとうございます」


彼女がいつもの特等席に向かう。


「あんた、あやねちゃんに持ってってあげて」


「りょーかい」


「あら、やけに素直ね」


「別に。普通だろ」


「ふーん。あやねちゃん、今日はいつもより可愛いと思わない?」


「はぁ!?」


思わず大きい声が出てしまった。

店内にいる数人の客がこちらに振り向く。

もちろん彼女も例外なく。


ゴツン

母親に脇腹を小突かれた。



「お待たせしました」


「ありがとうございます」


「今日はあと1時間で上がりなんで、そのあと合流してもいいですか?」


「お疲れのところすみません。ありがとうございます」


「分かりました。では後ほど」



一応母親にも伝えておく。


「母さん、今日上がったら宮川さんと勉強するから」


「はぁ!?あんたいつのまにそんな約束取り付けたのよ」


「今日放課後、ちょっと話してたんだよ」


「そうなら早く言いなさいよ。シフト調整したのに」


もとはといえば母親が勝手にシフトを組んでいるのだが…


「いいんだよ。バイトはバイトでちゃんとするから」


「それで、どこで勉強するの?」


「え、あの席で」


彼女が座っている特等席を指さす。


「お客さんの目もあるし、店員のあんたが席を私用に使うのはちょっとねぇ…」


「それもそうか」


たしかに一理ある。

しかしまたここから図書館に行くとなると往復の時間がもったいない。


「あんたの部屋使いなさいよ」


「は?俺の部屋?」


「そうよ。勉強するだけでしょ?」


なんだか含みのある言い方だ。

これは牽制と抑止と、少しの期待だろうか。


「まぁそうだけど」


「ならいいでしょ。あんたシフト上がったらあやねちゃん案内してあげて」


「わ、わかったよ」


普段人とあまり関わらない俺が、気づけば女の子と二人で自室で勉強することになろうとは。

普段から部屋を掃除しておいてよかったと、そのとき初めて思った。

ご覧いただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。