ナイフ
ネルアがハーオス病院に来てから数日が経過した。
そして1月1日。
患者からのネルアの評価はまちまちである。
最初こそ怖がられ、混血患者を怯えさせた。しかし今はどんなに簡単な願いから困難な要望までとにかく喰らいついている。
その行動力は患者から少しばかりの信用を培わせた。
「ねぇねぇ、ネルアちゃん」
病室でベッドに腰掛けている混血が一名。一人部屋の病室で患者はネルアに会話を求めた。
「なんでしょう? ナイフさん」
混血患者の名はナイフ。
彼女は成人女性の形をしており、服を着ていない。普通ならそれは変質者として真っ先に捕えられるだろう。
しかし、ナイフの皮膚は見えない。それもそのはず、あらゆる刃物が身体中から飛び出している。
刃物で構築された体は余すことなく肌を隠した。
目はある、らしい。彼女の目元は当然ながら刃が守り覆っている。そのため、眼球を確かめることはできない。けれど彼女は刃の隙間からこちらを覗いている。
ネルアもナイフの怪我の手当てを任された時、彼女に薬を塗るのは一苦労だった。勿論、髪から鼻、歯まで折れたカッターのような物で形成されている。
そして微かに隙間から見える皮膚は赤い。刃物が飛び出ている接着面は所々瘡蓋で覆われている。
「ネルアちゃん。チミはどぉんな自殺未遂を? 自分を殺す感覚はぁ?」
ナイフは未知に対しての探究心が凄まじい混血だった。
その姿勢はネルアと似ている。分からない点を放っておかない二人は数日間でかなりの仲を深めていた。
「そんなことは分かりません。オレはこの傷の感覚を覚えていませんから」
ネルアが自身の首元のチョーカーを触る。黒いチョーカーで隠されたその内にはしっかりと縊死未遂の傷が刻まれている。
「そんなそんなぁ。人間であるのに命を絶つという選択をした感覚を私は知りたくて──────────」
ジャキンッッッッ! と伸びた。刃が。
ナイフの右肩から大きな鉈が飛び出した。
「え、ちょっ──────」
ネルアは一歩下がる。反射的に。危険を感じたから。
彼女からの鉈は止まる。ネルアの眼球から五ミリセンチメートル手前で。




