異能戎具
ケシェニカは一仕事終えたかのように手を数回払う。ソゾンの方を向き、目で『続けろ』と示した。
「ケシェニカ、貴様の言葉も無理はない。だが、彼は帰っている。これは事実だ」
「なら何でもいいから証明しろ」
ソゾンはコクリと頷いた。
再度手持ち鞄の中からとある物を取り出した。
鉄のケース。その中には六つの指輪があった。
三つずつで一つとなっており、親指、中指、小指に装着できる。三つはチェーンで繋がっていた。両手にその指輪を通して使用する代物。
《космос》として称号を得ている彼らには任務から自衛も含めて、特殊武器が一つずつ支給されていた。
種類は様々で効果も全て違う器具である。
効果とは使用者の血液から意を汲み取り、その人にあった力が発動するといった仕組みである。
異能戎具。そう呼ばれている。製造方法から製作者については詮索しないことが定められていた。けれど、その製作者はフロール・フェリックではないかと噂されてきた。
ソゾンが使用する戎具。使用時には両方の中指から血液を戎具へ提供される。その後、万夫不当な力を発動するといった物だった。
ソゾンは戎具の入った鉄のケースをを開いたまま置いた。
ケース内から見える指輪はケシェニカにとっても見覚えがあった。ケシェニカも所持している戎具と見た目は違えど、異能を持つ武器の特色を見破ることは容易である。
「おれ達へ支給されてる戎具じゃねぇか」
「そう。我々の持つこの武器、それらを製作したのがフロール・フェリック本人だ」
約三秒、沈黙が流れた。
「嘘だな」
「嘘ではないっ!」
ソゾンはバンッと両手で机を叩いた。その反動で立ち上がり、ケシェニカへと顔を近づける。
ケシェニカは眉間に皺を寄せて睨む。ソゾンは帽子の影越しに注視する。
「死人が作っただと? 笑わせんなよ」
「事実なのだ。彼がどうやって記憶を持ち輪廻転生をしたかは知らぬ。けれどこれほどまでの発明技術を持つのはこの国で彼しかいないのだ」
ケシェニカは否応なく目を細める。その中で少しばかり納得もしていた。
(異能つーか、超能力つーか……それらを使える戎具なんざ他で聞いたことねぇ。しかも効果に対しては科学的根拠なんてほぼないしよぉ)
異質な力を持つ製造方法が不明な武器。加えて製造元から密輸までも不明である。そのため、名が上がるとすればフロール・フェリックのみとなる。
ケシェニカは腰に手を当てる。今日何度目か分からないため息を吐いた。
「わかった。一旦信じるぜ」
ソゾンは頷き、安心したのか席へと着いた。
「本題だが……成功体であるネルアには【因果支配権】が取り付けられている」
ケシェニカは聞き覚えのない言葉に首を傾げた。
「ドミニ……? なんだそりゃ」
ソゾンは【因果支配権】について話す。端的にそれを『なんでも願いが叶う力を持つ装置』と答えた。
「あらゆる因果律の書き換えが可能な装置なのだ。異能戎具などでは到底達成できない時間操作や世の理を狂わせることだって可能な力を持つ」
「因果律操作ねぇ……」
ソゾンは机に置かれたネルアの写真を指差す。
「だから今すぐに捕獲してくれ。心臓が無事ならそれでいい。ネルアという成功体を人間と思うな、機械と考えろ。本人の意識はどうでもいい」
「テメェでやれ。つーか、んな大事な実験材料ならGPSでも埋め込んどけよ」
「付けていた」
ソゾンは少し言いづらそうに口を噤ませた。
「付けていたのだ……だが、一昨日から反応がなくなった」
ソゾンは下を向き、猫背となる。
「監視カメラ映像でネルアがいる場所を割り出せねぇのか?」
「……それも分からない」
ソゾンはネルアを見失ったことに責任を感じており、声は少しづつ小声となる。
「……アレが最後に行き着いたのは格安のオンボロホテルだ。そこを調べた」
「で?」
「消えたのだ。体内に埋め込んでいたGPSも破壊された」
「はぁ?」
ソゾンは両手をぎゅっと握る。
「密室にも関わらずアレはどこかへ姿を消した。そこからは行方が分からない」
「……オカルトでも見てんじゃねぇのか」
不可解な事態を半信半疑でケシェニカは聞く。
「つーかよぉ、んな、大層な実験体なら何故《космос》全員に言っとかねぇんだ」
「言えば貴様らは欲のためにアレを使うだろう?」
ケシェニカはソゾンから目線を逸らした。
「図星だな。皆がアレを求め、奪いに行く。自身の欲を叶えるためにな。だから言いたくなかったのだ」
ソゾンは帽子に手を当て、言葉を続ける。
「だが、状況が状況だ。完全失踪ともなれば話は別。なにも隠していたのはお前だけじゃない」
ケシェニカに物申しつつ、ソゾンはゆっくりと立ち上がった。
「いいから連れ戻せ。心臓さえ無事なら四肢がどうなろうと構わん。わたしは他へも協力を要請してくる」
「はいはーい!! ソゾンさん、ワタクシにも好きにしろと言ってください、Sey Yeah!! 好きにしろ!」
二人は再度、息ぴったりに頭を抱えた。
パステルザークはダメージを受けたのが幻想だったかのように立ち上がっている。片腕を上げて存在感を示しながら。
ソゾンは五月蝿い彼とこれ以上押し問答になることを面倒に思った。
「パステルザーク、ちょうどいい。貴様も動け。これはフロールからの命だ」
「はぁぁぁぁぁああああああいいいいいいいっ! 必ずや完遂します!! 完遂したらぁ〜お二人サマはワタクシとご飯食べに行こうヨ!」
「テメェは動かねぇでいい。おれ一人ですぐ終わる」
「嗚呼、フロールさまぁぁ!」
「聞けよ!!」
ソゾンは自身の手をポケットへ隠した。ケシェニカとパステルザークが論争を繰り広げる中、開かれた扉の方へ足を向ける。
「……貴様らがわたしと同じ《космос》だということが恥だ」
「あぁ、同感。おれもテメェらと同じ身分なところにクソほど腹が立つ」
「ワタクシは楽しいですよ!! ここにいるMrも、いないMr&Msもだーいすき!! YEAH!」
その後、パステルザークは話を続けた。
しかし、二人は無視を決め込み、会話は成立しない。それでもパステルザークは喉で一人喋りを続けている。
三人は不思議な関係値を漂わせながら部屋を出た。




